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ANTHEMの声出し解禁ライブが凄まじかった そして、顔出しへ

少し時間がたちましたが・・・。11月26日に、大好きな日本のヘヴィメタルバンド、ANTHEMのライブに行ってきましたよ。

今回のライブは特別です。レコーディングなどの鬱憤をはらすというコンセプトの「DESTROY THE BOREDOM」企画の久々の復活。会場は彼らが毎年、ライブをしファンからは「聖地」と言われたCLUB CITTA'川崎。さらに、なんと言っても今回は「(不織布マスクをした上で)声出しOK」ライブで。そう、私たちは約3年間、ライブで歌えない、叫べない日々をおくっていたわけですよ。メタルで、しかも歌える、叫べるバンドとして知られるANTHEMでこれって酷じゃないですか。

そんなライブの熱気を少しでもおすそ分けしようと、ライブレポートを。ここからは、80年代の『ロッキンF』のライブレポート風文体で書きますね。



ライブ会場で歌い、叫ぶというごく当たり前の光景が消えてから早くも3年となる。しかし、ANTHEMファンは、この瞬間を待ち続けていた。2022年11月26日、ANTHEMにもファンにとっても特別な場所であるCLUB CITTA'川崎で声出し解禁ライブ「ANTHEM DESTROY THE BOREDOM 2022」が敢行された。

チケットは瞬殺でSOLD OUT。急遽、2階席が追加販売されたが、これも完売。キャパに対して座席を大幅に減らすという対応での開催だったが、満席状態の中、観客はANTHEMの曲を全身で受け止め、歌い、叫ぶ、その瞬間を待っていた。

客電が落ち、お馴染みのあのSEが流れる。まだ観客は戸惑い気味ではあったものの、久々に雄叫びをあげる。そう、ファンたちはこの約3年、ANTHEMのライブで拳を振り上げ続けてきたが、叫ぶことを許されてこなかった。血に飢えた獣のようになるわけにもいかず、ファンたちはひたすら待ち続けたのだ。そして、その瞬間がやってきた。

ドラマーの田丸勇が登場し、歓声が巻き起こる。いまだにリーダーの柴田からはMCやSNSでいじられ続けているが、ANTHEMにゲスト参加してから実に14年。ファンはその実力を認めている。いつもの通り、ギタリストの清水昭男は白い閃光のようにステージを颯爽と駆け抜けて登場。ボーカルの森川之雄、そしてベーシストの柴田直人が登場。最強の布陣に対して地響きのような歓声が巻き起こる。

もちろん1曲目は「DESTROY THE BOREDOM」だ。ANTHEMの楽曲の中では、最もパンキッシュな1曲と言ってよいだろう。確信犯的な扇動だ。観客は早くも雄叫び、掛け声で熱狂する。ライブとは演奏を聴くものではなく、一緒に作り上げるものだ。特にこの曲は、メンバー、ファンの怒りが交差することが魅力だ。この、3年前まではごく当たり前だった光景が、今では特別なものに感じる。ただ、この3年間は空白ではない。バンドもファンもそれぞれ、耐えに耐えた。そんな怒りが爆発した、神がかった光景だった。

さらにバンドは「VENOM STRIKE」を断固として打ち込む。今回は全席指定だったが、もしスタンディングだったら、彼らのライブでは珍しいモッシュ、ダイブの嵐が起きていたかもしれない。暴動を誘発する確信犯的な展開だ。ギタリスト清水昭男が21歳でANTHEMに加入した際の鮮烈な印象の1曲であり、ANTHEMがこの曲を大事にしていることがよくわかる。バンドにおける清水昭男の存在感はますます増しているが、その壮大なる予告編となったこのナンバーも世に出て31年となった。まったく色褪せず、むしろ輝きを増している。再結成後もこの曲はセットリストに残り続けており、磨かれ続けてきた。ギターソロの決めに合わせて「Hey!」という曲が鳴り響く。これぞまっていた時間と景色だ。

畳み掛けるように疾走感のある「THE ARTERY SONG」とヘヴィな「LINKAGE」が炸裂する。歓声もますます大きくなり、拳を振り上げたファンたちの掛け声が聖地川崎にこだました。

リーダーの柴田直人がマイクをとった。歓声ありのライブは2020年2月の原宿以来だったという。ライブ前、お馴染みのあのSEが流れた瞬間、ステージ裏で泣きそうになりつつメンバー全員で抱き合ったというエピソードが明かされた。序盤から燃えるようにヒートアップした会場が、あたたかい雰囲気になった。

柴田のMCのあと、新曲が披露される。「WHEELS OF FIRE」に「HOWLING DAYS」と2曲続けて炸裂した新曲は、ファンにも驚きと共感を巻き起こしつつ好意的に受け止められた。これまでもANTHEMは楽曲、演奏のクオリティが国内のメタルバンドの中で屈指のレベルだと言われてきたが、それをはるかにこえる世界レベルの楽曲だった。様式美、北欧系、スラッシュ系などのジャンル分けが無意味になるような、2020年代のANTHEMの音がそこにはあった。

音楽に厳しく、ストイックなイメージの柴田直人だが、実際、それは間違っていないものの、SNS上では作曲やレコーディングの苦悩を赤裸々に吐き出している。それはこの10年以上、変わらない光景だ。私も長年、柴田のSNS投稿を追い続けてきたが、新型コロナウイルスショックの影響もあったものの、これほど困難な状況をみたことがない。

BSフジ『伊藤政則のロックTV』でもレコーディングの模様が伝えられていた。放送できるマイルドなものでも、英語詞の発音、微妙なニュアンスまでこだわりぬく様子は圧巻だった。その柴田およびメンバーの苦悩と苦労は無駄ではなかったことが証明された音だった。ライブ中にボーカルの森川之雄は「楽しくてしょうがない」とMCで語ったが、この楽曲を生み出せたこと、レコーディングの苦悩とライブの快感からの率直な気持ちなのだろう。

その森川が参加した2枚目のアルバム『HUNTING TIME』からタイトル曲と、名曲でありつつライブではあまり披露されない「LET YOUR HEART BEAT」を4人は容赦なく打ち込む。「HUNTING TIME」前者は日本のメタルナンバーの中で屈指の名曲であり、名演である。「LET YOUR HEART BEAT」は、より重さと切れ味を増していた。バンドにとってまた「狩りの時間」がやってきた意志を高らかに宣言するパフォーマンスだった。

さらに新曲2曲「SNAKE EYES」「WAYFARING MAN」が披露される。柴田は新譜のために、たくさんの曲を書き溜め、一部はレコーディングに着手までしたが、断腸の思いで多くの曲を入れ替え、新譜の完成に突き進んでいた。そうであるがゆえに、生き残った楽曲の完成度、さらにはアレンジに彼らなりの「確信」が感じられた。はやくこのアルバムを聴きたいというファンの想いから、新曲であるにも関わらず歓声はますます大きくなる。荘厳でありつつ、ラウドでヘヴィなナンバーに会場は熱くなった。

もっとも、今回のライブは新曲のお披露目会ではない。日頃の鬱憤を吹き飛ばす「なんでもあり」のライブ、それが「DESTROY THE BOREDOM」だ。「OMEGA MAN」「PILGRIM」というインストの名曲2曲を畳み掛ける。しかも、「PILGRIM」では森川之雄がギターで参加という前代未聞の「暴挙」を決行。これにより、楽曲はより深み、厚みを増した。ギタリスト清水昭男のセンス、スキルが炸裂する瞬間だった。

森川復帰後のナンバー「PAIN」坂本英三時代の、森川のためにあるようなナンバー「AWAKE」を炸裂させたあと、「バカ騒ぎしようぜ」という森川のシャウトのあとに「SHOUT IT OUT」が披露された。今回のライブの裏テーマは森川之雄3.0のスタートなのだと確信した。ANTHEM加入時、復帰時を振り返りつつ、英語詞時代と新時代の扉を開く覚悟を感じる暴れっぷりだった。

本編最後は、最近のライブでは封印気味だったナンバー「BOUND TO BREAK」だ。ANTHEMを代表する曲であることは間違いない。ただ、この名曲すらもセットリストから外れるほど、ANTHEMの楽曲は充実している。80年代のジャパニーズ・メタルムーブメントの際に同バンドを知った人の中には、良くも悪くもこの曲のイメージでANTHEMを捉えている人もいるかもしれないのだが。

とはいえ、この曲が名曲であることは間違いない。そう確信した夜だった。新型コロナウイルスを抜きにしても、バンドは常に様々な紆余曲折、試行錯誤を繰り返した。彼らとファンが磨き上げてきた「BOUND TO BREAK」は、この日、過去最高の熱狂を巻き起こしていた。サビの
「「Hey!Hey!」という掛け声を、聖地で我慢せずに叫ぶことができる、ANTHEMファンとしては当たり前の幸せが戻ってきた瞬間だった。

熱狂的なアンコールの声にあわせ、バンドはステージへ。「SHINE ON」「THE JUGGLER」で大暴れだ。

ただ、これでは終わらない。ANTHEMコールがとまらない。ファンは、ANTHEMを求めていた。暴動寸前の盛り上がりの中、代表曲「WILD ANTHEM」が爆発する。ファンの不織布マスクはもうびっしょりだ。張り付くマスクを気にしながらも、歌い、叫ぶ声がCLUB CITTA'にこだました。皆、心地よい汗をかきつつ、拳を振り上げた。汗か涙かわからない、熱いものがSOLD OUTで超満員の会場にあふれていた。

ライブでの声出しについて、公式に認めたライブは2022年11月時点ではまだ珍しかった。いや、2022年に入ってからは事実上、黙認というライブも見かけた。小さなライブハウスでのイベントでは、マスクなしの人も特に注意しないという運営すらたまに見受けられる。もっとも、日本を代表するメタルバンドである彼らが、この形式でライブを行ったことはもっと注目されてよい事実ではないか。

音楽の楽しみ方は多様である。コロナ前も、メタルなど激しい音楽においてもモッシュピットで大暴れするものもいれば、腕を組んで黙って聴いているファンだっていた。ただ、クールに見ているファンも含めて周りの歓声をあげている様子からエネルギーをもらっていたのではないかこの声出しライブはぜひ、広がってほしい。

さらに言うならば、マスクなしライブも早く実現してほしい。声だけではダメなのだ。アーティストが、そしてファン同士が笑顔を見ること。これも、エネルギーの交換につながる。一部のライブでは、アーティストが「みんなの顔をみたい」と呼びかけ、マスクを外す時間を設ける盛り上げ方も生まれている。

単にコロナ前に戻せという話ではない。音楽カルチャー、ライブ文化を前にすすめるのだ。

それにしても、新時代に突入したANTHEMからは目を離せない。早く彼らの新譜を聴きたい。まるで自分のバンドであるかのように、世界中の人に自慢したい。素晴らしい音楽、時間、空間に感謝。

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