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早慶入学者は何人が東大に合格できるのか? 【後編】 (大学の合格最下位学力の統計分析⑪)

週末の趣味の統計分析シリーズです。前回は、慶應大・文系学部の入学者の学力分布を推定し、何人が東大・京大・一橋大・東工大(東京一工)に入学できるかの推定を行いました。今回は、慶應大・理系と早稲田大の文系・理系の推定を行います。

私立大学の合格者は、共通テストリサーチを用いた推定が適さないため、模試の合否判定を用いたモデルを作って、合格者を推定しています。それに対して、東京一高の合格者の併願合格数などを除外して、入学者の学力分布を算定しています。詳細は過去記事をご参照ください。

なお、いくつかの前提条件を設定しており、その設定値を変えると、結果は大きく変わります。あくまで、一定の考え方に基づく推定として、読んでもらえればと思います。

0. まとめ

  • 東大にできるのは、慶應大・理系の入学者のうち11%、早稲田大・文系では13%、早稲田大・理系では4%となった。

  • 前回に分析した慶應大・文系も含めて加重平均を取ると、早慶入学者のうち東大に合格できるのは12%という推定結果となった。早慶の学生には東大不合格の併願入学者や私立専願の優秀層がいて、そうした層は東大に合格できる可能性があるが、限定的と言える。

  • 私立は複数受験できるため、私立トップの早慶は上智・理科大・MARCHなどからのチャレンジ受験も多くなる。結果、入学者の分布は下方が突出する形となり、ボリュームゾーンは駿台偏差値(5科目基準)で50〜54で、MARCHの上位入学者と大差ないと考えられる。

1. 慶應大・文系(再掲)

前回の分析の通り、学力上位の合格者は国公立大に入学するため、慶應大・文系の入学者はC〜D判定の合格者が中心となります。この分布から東大・文三の合格者を推定すると、330名(入学者比15%)となりました。

グラフ1

2. 慶應大・理系

薬学部は東京一工の併願合格を算定する際のスコープ定義が難しいので、理工学部だけを対象としています。そのため、東京一工の併願合格推定も理学系と工学系の学部を対象としています。

受験者の分布は、子供の模試の資料を参考に、A判定:B判定:C判定:D判定=1.2:1.0:1.5:残りで設定しています。また、東京一工の合格者1人あたりの併願合格数は、東大は0.4、京大は0.1、東工大は0.2で設定しました。こちらは子供の高校の合格追跡資料を元に、地域差などを定性的に加味しています。

上記の前提で、慶應大・理系の合格者と入学者の分布を推定すると、このグラフのようになります。

グラフ2

慶應大・文系と異なり、慶應大・理系の山があるあたり(偏差値50〜54)は、京大と東工大の下位合格者(=入学者)と重なっています。ただ、東大とは距離があるようです。

このオレンジ色の分布をする慶應大・理系の入学者が、東大(理一)を受験した場合の合否をシミュレーションすると、このようになります。

表1

慶應大・理系(=理工学部)の650人の入学者のうち、78名(12%)が東大に合格できるという推定結果です。理一のボーダーは文三よりも高いので、入学者に対する比率は慶應大・文系(15%)よりも低い推定となりました。

3. 早稲田大・文系

早稲田大・文系は、文学部・文化構想学部・法学部・政治経済学部・商学部・社会科学部・教育学部・国際教養学部を対象にしています。教育学部は理系の学科もありますが、推定負荷を減らすために、学部全体を文系に入れています。東京一工の併願合格の推定は、これらに近い学部を用いています。

受験者の分布は、A判定:B判定:C判定:D判定=2:1:2:残りで設定して、計算を始めました。ところが、早稲田大・文系は倍率が高い学部が多く、推定結果がかなり歪んだ感じになりました。

そのため、高倍率の早稲田大・文系はD判定の受験者は、合格可能性20%(予備校の設定値)と合格可能性0%の2区分の受験生がいるというモデルに変更しています。具体的には、早稲田大・文系の平均倍率6.8倍と、模試判定モデルの限界倍率5.0倍(全員がD判定=合格可能性20%←5.0×20%=1)の比の0.67(5.0÷6.8)を使っています。

結果、受験者分布は、A判定:B判定:C判定:D判定:E判定(合格可能性0%)=2:1:2:残りの67%:残りの33%という設定値です。東京一工の合格者の早稲田大・文系の併願合格数は、東大0.7、京大0.25、一橋大0.5で設定しています。

この前提で、早稲田大・文系の入学者の分布を推定すると、このようになりました。

グラフ3

早稲田大・文系は慶應大・文系よりも定員が多く、倍率も高いため、C〜D判定の山が一際高くなるようです。

この分布の早稲田大・文系の入学者が東大(文三)を受験する場合、合否のシミュレーションはこのようになります。

表2

東大の合格者推定は429人と、慶應大・文系の330人より多くなっています。これは母数の入学者数(=一般入試の定員)が多いのと、私立文系の最難関である政治経済学部が高偏差値の入学者を集めていることに起因しています。ただ、低偏差値の学部もあるため、定員に対する比率は13%と、慶應大・文系の15%より低く出ています。

4. 早稲田大・理系

早稲田大・理系は、基幹理工学部・創造理工学部・先進理工学部が対象です。東京一工の併願合格の分析対象は、理学系・工学系となります。

受験者の分布は、A判定:B判定:C判定:D判定=2:1:2:残りで設定しています。早稲田大・理系の倍率は平均3.8倍と、慶應大・理系(3.3倍)よりは高いのですが、早稲田大・文系(6.8倍)のようにモデルの限界を超えているわけでないため、当初のモデルを使っています。

また、東京一工の合格者の1人あたり併願合格数は、東大0.5、京大0.1、東工大0.4としています。東京の都心(高田馬場)にキャンパスがある早稲田大・理系は、横浜(矢上)の慶應大・理系よりも、併願受験者=合格者を集めやすいようなので、慶應よりも少し高く設定しています。

これらの前提で、早稲田大・理系の入学者の分布を推定すると、このようになりました。

グラフ4

早稲田大・理系のボリュームゾーン(偏差値50〜55)が、京大・東工大の下位合格者と重なるのは、慶應大・理系と同じです。ただ、早稲田の場合は、その少し下にも合格している層(偏差値48〜49)があるようです。

この分布の早稲田大・理系の入学者が、東大(理一)を受験する場合をシミュレーションすると、このようになります。

表3

東大合格者は33名(入学者比4%)と、かなり低い推定値となりました。

これは駿台のB判定偏差値が慶應大・理工よりも、早稲田大・理系は1〜3低い学科があり、さらに倍率も高いので、合格者分布が下方偏重の推定になったことが起因しています。さらに、東京一工の合格者の併願合格者数も少し多いため、高い偏差値の合格者の歩留まりが悪いことも起因しています。

受験者分布や東京一工の併願合格数の設定を見直す方がいいのかもしれませんが、合理的な見直しロジックもないため、一旦、この値を採用させてもらいます。

5. 一覧比較

前回と今回の推定結果を一覧にすると、このようになります。東大以外の京大・一橋大・東工大の合格者推定も掲載しています。

表4

一般入試の定員=入学者は慶應大よりも早稲田大の方が多いため、東京一工の合格推定数は、早稲田大の方が多くなっています。一方、定員の差ほどのインパクトはなく、入学者に対する構成比では、慶應大の方が高く出ています。

ただ、大きな差があるわけではなく、一般入試からの入学者のうち東大に合格できるのは、慶應大は14%、早稲田大は11%であり、加重平均で12%くらいのようです。

同様に、京大に入学できるのは21%、一橋大は18%、東工大は29%という推定結果です。京大が一橋大より大きいのは、最もB判定偏差値の低い学部・学科の判定でシミュレーションしていることに起因します。

最後に、早慶と東京一工の入学者の分布を絶対数(人数)で眺めてみます。

グラフ5

推定モデルのロジックと設置値に起因している部分も多いですが、早慶の入学者(紺の枠)は、駿台偏差値(5科目基準)で55未満に大きく固まっています。偏差値65以上のゾーンにも、早慶入学者は一定数存在しているのは、東大不合格で併願合格した早慶に入学した層と思います。

しかしながら、偏差値65以上のゾーンでは、早慶入学者のプレゼンスは低く、東京一工の入学者が大多数を占めています。特に、偏差値70を超えると、東大の一人勝ちとなるようです。

※今回の分析では医学部は入れていないので、もし医学部も入れると、少し傾向が変わるかもしれません。

6. 最後に

早慶入学者には東大にまさかの不合格の優秀層はいるものの、大多数が偏差値55未満に固まっていることから、早慶入学者が東大を受験しても、合格するのは12%(加重平均)くらいというのが推計結果です。

別の表現をすると、早稲田・慶應の学生のうち、上位10〜15%は東大レベル、20〜30%は京大・一橋大・東工大レベルだけど、残りはMARCHの学力上位の学生と大差ないとも言えます。

東大は学力青天井なので学力の上下格差が大きいと言われますが、早慶も歪な形で学力の上下差がかなりあるのだろうと思います。そのため、分母(入学者数)が不均衡に大きくなることで、東大合格レベルは10〜15%程度に留まるのだろうと考えられます。

今回の分析は以上となります。

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