見出し画像

2022 best album

年末になると次々にSNSで年間ベストと称されたnoteが投稿される。そのたびに「俺はこんなにアルバムをたくさん聴いていない…」、「こんなに語れるほど音楽のことを考えてなどいない…」と、音楽との距離感を相対的に感じてしまうのだけど、そもそも音楽との距離感なんて詳しかろうが何も知らなかろうが、変わるものではないと思う。自由だ。物の見方も距離感も、触れ方も食べ方も自由だ。だからこそ僕らはもっとこの音楽ビュッフェもとい音楽バッフェ、または音楽バイキングなこの世界で楽しんでいくべきだと思うのだ。
とかなんとか言っている間にも2023年になってまった。去年もそうだ。学習しない生き物だ。いいぞ、学ばずにいこう。
ということで、僕が選んだ2022年の年間ベストアルバムを取り上げていこう。

家主 『INTO THE DOOM』

■"忘れられたハーモニー、一緒に歌えるかい?"
家主、なぜ俺を泣かすのか。いつだってヘラヘラしていてもらわなきゃいけないのに。家主を聴いた瞬間には、「やっぱりお前たちが世界一のロックバンドだよ」といつだって思うのだ。それは10年来の親友に久しぶりに会ったときのような安心感とかに似たポカポカとした気持ち。お互いのことを何も説明する必要もないし、気取って何かを話す必要もないそんな空気が家主の音楽にはいつも存在する。
今年リリースされた家主のライブ盤にはそんないつもの空気もありながら少しだけ違うヒリヒリとした彼らの生き様を見た。友達が仕事をしてる時の姿を垣間見た時のような、何か誇らしいような恥ずかしいような、そんなグッとくる気持ちだ。どうしても何もかも説明的で、音楽や作品には社会性や思想がいつだって付き纏う。それはどんな時代であっても表現をするという行為の宿命だと思う。それでもライブという場所、ライブというパッケージには、人間がその場所で鳴らす音と言葉と汗と喉から溢れる声だけがただ詰まっている。それ以上も以下もない。これがロックンロールだと僕は思うのだ。



鈴木愛理『26/27』

■アイドルに妥協は必要ない
鈴木愛理を見ているとタイトルに書いた通りのことをいつも思う。「アイドルに妥協は必要ない」。歌、ダンス、パフォーマンス、どれをとっても強い存在感を発揮する鈴木愛理。今から10年前のアイドル時代にはその圧倒的なクオリティの高さから、「アイドルにクオリティを求めていない」と、逆張り的にアイドルオタクに敬遠された。ようやくアーティストとしてデビューするも、なかなか世間に見つからない。こんなにもポップアイコンとしての素質を持っているのに。
今作は、"日本に住む27歳女性の鈴木愛理"という人間性を映し出しながら、現代を生きる同世代の代弁者として高らかに、極めて明るく歌にする。鈴木愛理の歌唱はまるで歌の中を生きる人の人生に入り込んだように、歌詞の言葉に命を吹き込むように丁寧に歌う様は、ミュージカル映画のサントラを聴いているように聞こえてくる。言葉の一言一句の感情を拾い集めて歌として発するハロー!プロジェクト仕込みの優等生歌唱が逆に今のJ-popシーンでは珍しく感じる。吉澤嘉代子が参加した"噂のホクロ"や、Blue VintageをフィーチャーしたR&Bテイストの楽曲"Apple Pie"など、リアルタイムなJ-popのど真ん中でありながら1曲も無駄打ちしない音楽性がこのアルバムの魅力だ。
鈴木愛理というポップアイコンが日本のメディアに取り上げられないのは、いろんな側面から見てもあまりに勿体なさすぎる。今年も美味しいものをたくさん食べて幸せに生きておくれ!愛理ちゃんよ!



Day Wave『Pastlife』

■"This man cant make a bad song"
YouTubeの"Pastlife"のMVのコメント欄を開くとこの言葉が一番上に書かれている。「彼は悪い曲を書くことができない」本当にその通りだと思う。DayWaveがアルバムをリリースすれば年間ベストアルバムに入ることは自分の中で、ずっと約束されていることだ。
DayWaveことJackson Phillipsが作り出すドリームポップとローファイなインディーポップ、シューゲイザーサウンドの一番気持ちのいいところを常に鳴らし続ける。前作の『The Days We Had』のリリースから5年が経過し、プロデュースの仕事も増えてきた。それでもDayWaveの根底にある"DayWaveサウンド"に一切のブレはない。開放感と切なさに満ちたサウンドに夏の終わりの切なさを感じるアルバムだった。いまだに2017年のフジロック、寝坊してバスに乗り遅れてライブを観れなかったことを後悔しています。



フィロソフィーのダンス『愛の哲学』

■ "幸せすぎて困るってくらいに容赦なく愛してあげる"
すっかりフィロソフィーのダンスは自分を支えてくれるアーティストの常連になった。新曲を出すたびに最高は常に更新されていくし、心の底からきっと好きなのだと思う。今作はメジャー1stアルバムでありながら4人体制の最後のアルバムである。
そのタイトル曲で、アルバムの最後に収録されている"愛の哲学"は、とにかく愛に溢れたどストレートかつポップに、心を突き抜けていく。楽曲のピュアネス加減に思わず涙腺が刺激されてしまう。「泣きながら踊る」という感覚が音楽の一番気持ちのいい条件だと個人的に思っているけど、この曲に関しては"号泣しながらめちゃくちゃ笑顔で踊ってる"感覚なのだ。
"幸せすぎて困るってくらいに容赦なく愛してあげる"、こんなフレーズを歌い切れるフィロソフィーのダンスのパワーとビッグラブを受け取っていつまでも踊っていたい。幸せすぎて困るってくらいにね。明るく泣こう、人生は。



優河 『言葉のない夜に』

■"夜明け前の静けさはあなただけのもの"
今年はアルバム単位という聴き方をあまりできなかった気がする。ちゃんと最初から最後まで通してしっかり聴く時間や余裕があまり作れなかった。それは結局ただの言い訳なのだけど、そんな日々を過ごしてしまった後悔は大きい。きっとそんな気持ちの人も多いのではないでしょうか。それでも間違いなく今年一番心に染み込んだアルバムは優河の『言葉のない夜に』だった。
温かいギターと、ただ紡がれていく歌は美しく儚くもあり、そして何より力強い。一見、海外のインディーフォークのシーンとも親和性のあるサウンドではあるけど、優河の作る楽曲には他の何かで当てはめられない生命力のようなものを音楽の中から感じる。それはあの頃のきのこ帝国にあったような深夜の海、高速道路の光、見つめる部屋の天井に漂う今にも消えそうな力だ。そんな僕らだけのたしかな希望がこのアルバムには詰め込まれていた。誰かの心にもきっと届きますように。



DYGL『Thirst』

■2015年に信じた未来がここにある
2021年にリリースされた前作『A Daze In A Haze』を聴いた時にも感じていたけど、DYGLというバンドのスケール感はここ数年でグッと拡大した。ただでかくなったのではなく、厚みも深みも増して強くなった。強靭な肉体を手に入れつつあるのかもしれない。マッスル。
アルバムに収録された先行配信曲の"I Wish I Could Feel"を聴いても分かるように、決して過去の何かのリバイバルというわけでもなく、現行の彼らの音楽性が全面に出たアルバムだ。彼らがこれまで吸収してきたオルタナもヒップホップもシューゲイザーもガレージロックも、全てをひとつのエネルギーに変えて、DYGLというバンドの新しい肉体がロックンロールを鳴らし始めた。
2023年はSXSWへの出演や、USツアーが決まっている。きっと各地で長い旅をして、塊魂のようにさらに大きなバンドとなって帰ってくることだろう。それが今からもう楽しみでしかない。2015年に永遠を感じたサウンドをもう既に彼らは越えてしまっている。



Launder 『Happening』

■安心安全、信頼のシューゲイザー
みんな大好き安心安全シューゲイザーをお届けするLaunder。これまで数多くの楽曲をリリースしてきたが、ようやくのデビューアルバム。これが最高なのだ。
90年代的シューゲイザーのギターサウンドを再現しつつも、Oasisすらも感じるほどのメロのアンセム曲もあり、アルバム全体の楽曲のクオリティが極めて高い。シューゲイザーとしての充実感と密度がとにかく凄いので、聴いた瞬間に「あいつにオススメしよう」とシューゲイザー好きの人たちの顔が頭に浮かんでるくらいハッキリとした方向性のアルバム。
このアルバムが好きな人はみんな友達。そんな気持ち。



羊文学 『our hope』

■僕たちの希望
"our hope"と名付けられたアルバムタイトルは、この時代の希望と絶望と現在地点を同時に明確に示す作品であり、羊文学が鳴らす音楽が"our hope"なのだと感じさせてくれる。
スーパーカーを彷彿とさせるリフレインと、歪んだギターから始まる"OOPARTS"、昨年リリースした名曲"マヨイガ"などを収録し、羊文学というバンドの方向性を確実に刻み込んだ。
きのこ帝国やスーパーカーのいない令和のこの時代には羊文学がいるじゃないか。そんな気持ちにさせてくれた。
どうかその車に、僕らを乗せてどこまでも運んでいってくれないか。時代を見つめながら、どこまでもいこう。



Vulfpeck 『Schvitz』

■身体が動いたらそこが音楽の始まり
Vulfpeckの音楽はどこまでも自由で、どこまでも本物の音楽だなと思わせてくれる。アルバムのタイトル『Schvitz』の意味は、「汗でびしょびしょ」という意味があるらしい。
日本でサウナが流行ってることを知ってか知らずか、ジャケットや公開されているMVで分かるように今作はサウナがモチーフになっている。MVではサウナの室内で、サウナハットにローブを着用し、演奏している。まるでサウナの妖精のようだ。僕は若干の閉所恐怖症があるのでサウナに入ると違う意味でも汗でびしょびしょになってしまう。
Vulfpeckの音楽で踊っている瞬間はいつだって心はフリーでハッピーだ。何も考える隙がないくらい身体が動いてしまう。これはきっとサウナで"整う"なんてことよりも整うのではないだろうか。分からないけど。Vulfpeckの来日をいつまでも心待ちにしている。



パジャマで海なんかいかない 『Trip』

■2023年間違いなく起こるグルーヴの洪水
「パジャマで海なんかいかない…?ふざけた名前だな。」と思って聴いてしまったのが全ての始まり。ヤバイTシャツ屋さんみたいなバンドだと期待してたのを背負い投げのようにひっくり返された。タイトル曲である"Trip"を聴いた瞬間に脳内がバグを起こしてしまった。冷蔵庫に入った麦茶にめんつゆが入っていた時のような、ラーメンの見た目をしたケーキを食べた時のような、そんな衝撃だった。
Hiatus Kaiyoteやん…と感じるようなグルーヴと展開や拍の取り方。日本のバンドで、この音を出しつつもキャッチーさを損ねないバンドに初めて出会ったので嬉しかった。ライブのMCで「2023年はフェスに出たい!」と言っていたのだけど、夏にはサマソニやフジロックで大きなグルーヴの洪水を起こしていることが容易に想像できる。本当に楽しみだ。



Kiwi Jr. 『Chopper』

■The Strokes、Pavement好き必聴!
おそらくタワレコの試聴機にはそんなポップが刺さっていることだろう。試聴機で聴いていたら1曲目の"Unspeakable Things"を聴いた瞬間にぶっ飛んでいたことだろう。2000年代前半のようなピュアで脱力感のあるバンドサウンドが、タワレコの試聴機の前に立っては片っ端聴いていた頃のような童心に帰してくれる。本当に2022年リリースの作品なの?と、そう感じてもおかしくないほどに体感としては2004年感ある作品だ。
脱力感のあるシンセのリフと気の抜けたボーカルが最高に心地いい。「最近のバンドってつまんないよね」、そんなこと言わせないぞ。俺たちにはKiwi Jr.がいる。



BE:FIRST 『BE:1』

■2022年刻んだJ-Popのスタンダード
みんな1年間お疲れ様でしたと、BE:FIRST のみんなを労いたい気持ちでいっぱいだ。アルバムに関してはnoteにすでに記事を書いているのでそちらを読んでもらいたい。『BE:FIRST 『BE:1』──"最高が何なのか証明しよう"』

様々な生き方を問われる時代で、自分を驕ることなく価値観を示していくことは大切。音楽の価値も疎かにせず、パフォーマンスを常に新しくアップデートし、常に新しい魅せ方を模索し続ける姿にはJ-popの場荒らしとして、世界に通用するJ-popとして、この先も彼らに期待しまくっている。彼は"勝ち方にこだわるのがマナー 美学の無い亡者たちは彼方"、そう歌い切ってスタイルで示す。世界中のダンサーの心を揺さぶる"Milli-Billi"のダンスパフォーマンスや、紅白でのアップデートされた"Shining One"の無音ダンス。いつでも想定の上をいくサプライズをしてくれる。何がどう優れているのかは自分の目と耳と感性で確かめてほしい。自分の感性が濁って見えなくなってしまう前に。



MICHELLE 『After Dinner We Talk Dreams』

"夕食の後で夢の話をしようよ"
2022年、1番最初にベストアルバムとして提出したのがMICHELLEのアルバム『After Dinner We Talk Dreams』。どこを切り取っても最高に気持ちの良い楽曲が詰め込まれていて、アルバムの景色が一貫されていて、安心して「名盤だ!」と言える。
心地のいいコーラスとゆったりと踊れるビートにメロウな楽曲、それでいてキャッチー。これ1枚あればどこへでも行ける。そんな気持ちにもさせてくれる。
『After Dinner We Talk Dreams』というタイトルも最高だ。夕食の後に夢を話そう、食卓を囲んで。ポツポツと、はにかみながら夢を語ろう。"After dinner we talk dreams Like dancing and leaving the city But where I go, I'll take you with me"今の僕らに大切なのはきっとそういうことだ。
僕の今の夢はMICHELLEが来日してライブを観られることです。



Taylor Swift 『Midnights』

■これが2022年のポップアルバム
Taylor Swiftがフォーク路線からコロナ前のシンセポップな作風に戻ったアルバム『Midnights』。でもやっぱりどれだけ作風や音の感じが変わっても初期からTaylor Swiftの根底にある音楽性は変わらないように思う。ずっと自分と自分の周りのことを歌い続ける。それが時代に沿って少しずつ感覚や想いが変わっていくだけで、すごく人間的なシンガーソングライターだなとこのアルバムを聴いていても思う。
『Midnights』というタイトルにもあるように、靄がかかった深夜の空気を纏いながら正解か不正解かまだ分からない夜明け前の感覚をTaylor自身が経験した13の眠れない夜のことを通して歌にしている。それは呪いであり、お守りのような今のTaylorが掲げる現行のポップミュージックなのだ。



The 1975 『Being Funny In a Foreign Language』

■ようやく歩み出したThe1975の一歩目
"Music For Cars"という言葉を掲げて車に乗り、走り続けてきたThe1975というバンドが前作で車を降りて、廃車になった車の上に立つ日がやってきた。奇しくも同じUKバンドのArctic Monkeysが同タイミングで『The Car』というアルバムをリリースする中で、彼らは車を降りて歩き始めたのだ。
今作は、これまでのスタイルを一度切り離して本質に立ち返ったような作品で、過去の楽曲にもアクセスしているように見えて、実は新しい価値観を持ち込んでいるように感じる。それはこのコロナ禍という時代の変遷からくるものなのか、30代というひとつの区切りを越えたからなのかは分からない。それでも彼らは確実にバンドという存在を、ひとつ向こう側へとアップデートさせるタイミングなのだと気付いたのだろう。もうThe1975がロックバンドなのかポップバンドなのか今更語るような人はいないだろう。彼らはひとつの新しい形を作り、音楽の可能性を多様なものへと押し広げていった。次の時代のゲームチェンジャーとしての役割を下の世代へと今作で引き継ぎ、The1975というバンドは新たな場所へと道なき道を歩き続けるのだろう。

2022年サマーソニックでのThe1975のライブレポート 【ライブレポート】The 1975と僕らのマッスルメモリー






《2022年のベストソング》

《2021年のベストアルバム》

《2022年のベストアルバム》

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?