見出し画像

君と夏の終わり 将来の夢 大きなフジロック

今年もフジロックが来ては去った。来ては去ってしまった。7月28日から7月31日まで今年も新潟県の苗場スキー場で開催されたフジロック。毎年この日を楽しみに日々の生活を生きているようなものだ。フジロックは僕らにとっての元旦。盆と正月が一緒に来るとはまさにこのことだ。
これまでコロナ禍で開催された2021年から毎年参加レポートを書き続けてきた。きっかけとしてはコロナ禍での開催を決めたフジロックが今後どうなっていくのかを書き残したかったからという理由だった。そして翌年の2022年のフジロックは「いつものフジロックへ」と銘打ち、コロナの状況をいかに脱却してどう楽しめるように開催するのかというところを書き残したいと思ってnoteを書いた。そして今年2023年のフジロックは、正直特に書かなきゃいけない理由がない。ないのだ。だってもういつものフジロックなのだから。念願のいつもの"平凡な"フジロックの開催だ。「超楽しかった」という感想以上のレポートは必要ないはず。





今年のフジロックの入場者数が発表された。7月27日(木) 18,000人 (前夜祭)、7月28日(金) 29,000人、7月29日(土) 38,000人、7月30日(日) 29,000人、4日間のべ来場者数は114,000人。今年はようやく10万人を超えた。やはり国内で人気のアーティストも多くラインナップされていたことも手伝ってか、2日目が一番人の入りが多かったのは体感でも分かるほど。あちこちで行列ができ、ペットボトルの水が売り切れるほどの人の多さだった。
2021年、コロナ禍で制限のある中で開催されたの3日間の来場者数は、35,449人。今年はその3日間の人数が1日で入るほどに状況は回復してきた。昨年人数の制限を設けて開催された2022年のフジロックでは、前夜祭を含めた4日間の来場者数が69,000人。そこから見てもしっかりと倍近くの数字にはなっているので、もう「いつも通り」と言っても問題ないだろう。ちなみにコロナ前の最後の年の2019年は前夜祭から延べ4日間で130,000人が来場している。平均的に1日に40000人が集まっているのだ。今年の2日目の入りで既に混雑でやられていたのにさらに多いなんてどうやって行動できていたのか…。

人の多さを実感する場面も多かった

今年のフジロックを一言で表すなら「暑」


暑い、暑い。本当に暑かった。暑くてFUCKだ。前夜祭からテントを撤収する月曜日までとにかくずっと暑かった。4日間の苗場のトレンドワードはおそらく「暑い」か「Hot」だろう。暑いと発せずに終われた人はいるのだろうか。僕はもうとにかくことあるごとに口に出した。アチいアチいと。しかもこの暑さ、暑いだけでなく湿度も半端ないのだ。気がついた時にはベタベタになっていて、汗も川から上がって濡れたサンダルも乾いてくれない。「フジロック=雨」が当たり前になっている雨も前夜祭と初日に少し降っただけで、それも大体お昼から夕方の間に5分、10分パラっと振るだけのものだった。今年初めてフジロックに来た人は「脅されたからこんなにちゃんと雨対策してきたのに」と怒りたくなるほどだろう。何年経ってもフジロックの天気は読めない。気候変動の影響もあるのかしら。もちろん晴れに越したことはない、でもちょっとくらい降ってくれよと思うほどの暑さだった。

そんな灼熱からの逃げ場はみんな大好きところ天国にある浅貝川。今年は例年以上に人でごった返して、その様相はガンジス。子供たちがはしゃぎ回り、簡単に友達を作って遊んでる様子を見ていると幼い頃の夏休みを思い出して切ない気持ちになる。今年も脳内には久石譲が流れながら川で遊ぶキッズたちの姿を見ていた。いつか自分も家族を連れてくる日が来るのだろうかなんてことを考える。子供を連れてくるのはきっと大変だろうけど、ここが一番連れてきたい場所だな…なんて思ったりした。

フジロックの避暑地「浅貝川」

あと暑い日は冷たいものをとにかく欲していた。フジロックといえば美味しいご飯!と言ってもいいほどフードへの充実度が高い。ただ例年は寒くなることが多く、温かい食べ物が多かったりするので、冷たくて美味しいものを探すのは意外と難しいなと気付いた。その中でも、ORANGE CAFÉにあったそうめん専門甚-JIN-のそうめん、去年はYELLOW CLIFFに出店していて毎日お世話になった軽井澤ソフトクリームの牧場ブラックソフトクリーム、CAMP SITEにあったOIMOcafeの焼き芋とアイス、OASISのたっぽ家の山菜へぎそば、オアシス プリンス店のシロップかけ放題のかき氷には本当に救われた。どれもスーパー美味しかった。正直なところフジロックで美味しくないご飯を引き当てるほうが難しい。というか個人的にはなんでも美味しく食べれる人間なので全く関係ないのだ。今年もめっちゃ食べた。めっちゃ食べたけど木曜日の前夜祭から月曜日の撤収日の日までを含めて合計で112km歩いたらしい。112kmは直線距離で東京から山梨まで歩く距離らしい。モリモリ歩いてウルトラ健康ロックンロールだ。

フェス飯では珍しい、そうめん
やっぱり新潟はへぎそば

今年のベストアクトは?!


今年も三日間の中で観れる限りのライブを観てきた。結局何が一番楽しかっただろうと振り返っても朧げではっきりとした記憶がない。これはいつものことなのだけど、フジロックにいるときはどこか夢見心地で意識がはっきりしていないことが多い。だから夢から覚めてしまうとこれまでのことが瞬時にどこか遠い記憶のように感じてしまう。あまりに楽しすぎる瞬間というのはいつまでも見つめ続けることはどうやらできないらしい。
その中でも前々から楽しみにしていたCory WongRomyのライブは最高だった。

Cory Wong

Cory Wongはリハーサルの時点からCoryのギターと分かるサウンドを鳴らし、少しずつ集まってきたオーディエンスのボルテージを上げる。音出しの時点で既にあまりに最高すぎて、みんなが隣の人と顔を見合わせて口々に「やばい…」と漏らしていた。その予感は本編が始まって数秒で本物になる。始まりからThe Fearless Flyers、Vulfpeck、Cory Wongソロ名義の楽曲を織り交ぜるセットリストで苗場の地に最高のファンクサウンドを振り撒いていく。とにかく身体が動く、というより止まらないのだ。タイトなドラムのビートにCoryの細かく刻まれるカッティングギターと心をひっぱり上げるホーンセクションとキーボードの演奏。"Bluebird"での変わるがわるにそれぞれの楽器の見せ場がくるステージは、まるでディズニーランドのショーを見ているかのような華やかさとトキメキがあった。そして、どこを見ていてもみんなが楽しそうな笑顔でステージに立っている。その表情はステージ上だけでなくオーディエンスもみんな同じなのだ。このフィールドオブヘブンに集まった全ての人がそれぞれの踊り方でそれぞれの楽しさを持ち寄って同じ音楽で踊っている。なんて幸せなのだろう!
途中で昨年Coryもアルバムに参加したギタリストのReiちゃんがゲストで登場して"Lunchtime"を一緒に演奏したりと、最初から最後までチョコたっぷりのトッポのように楽しさが金太郎飴だった。次は必ずVulfpeckでも来日を!たのんます!



Romyは2日目の深夜のレッドマーキーに登場。TSHAがバンドセットで最高のフロアを作り上げた後でRomyが登場。The xxとして何度も出演しているフジロックに初めて1人でやってきた。

Romy

始まった瞬間は音が小さくて戸惑った様子を見せていたが問題が解決してからは深夜のレッドマーキーは爆音に包まれた。"人生を楽しみなさい"と何度も繰り返し歌う"Enjoy Your Life"が流れると心はフワッと宙に浮いて10代の頃の自分にアクセスした。10代の頃は何もかもが不安で、逃げることも立ち向かうことも怖くて暗闇でいつも立ち尽くしていた。そんな時に深夜の真っ暗闇になった部屋でヘッドホンから爆音のエレクトロミュージックを聴きながら自由に踊るのが好きだった。四つ打ちのビートは暗闇で立ち止まる鼓動を早めてくれた。広がるシンセの音は孤独に差し込む光のようだった。それこそが心の解放だった。そんなビートの上で"人生を楽しみなさい"と何度も繰り返し歌うそれは僕から過去の自分へと渡す、今のこの瞬間のことのようで気が付いたら深夜2時過ぎに無我夢中に踊っていた。
途中でVJが映らなくなったり照明のトラブルもあったが、そこで更なる盛り上がりを見せるオーディエンスには、フジロックとThe xxのこれまでの長年の関係値を見てグッときた。Romyはステージで踊りながらオーディエンスにハートを作ったり、応えるように一人一人に手を振ったりRomyとフジロックのつながりや愛を感じた瞬間だった。
どうやらフジロックから1週間後にはThe xxとしてスタジオ入りするらしい。来年、グリーンステージのヘッドライナーとして帰ってくるのを勝手に妄想している。楽しみで仕方ない。

あともう一組をベストアクトに挙げるのであればBalming Tigerだ。

Balming Tiger

自らを"多国籍オルタナティブK-POPバンド"と称する11人組グループ。フジロックのラインナップを予習していく中で一番気になった存在が彼らだった。
お昼ご飯のへぎそばを買って後ろの方で食べながら観ようと出番の5分前に着くとレッドマーキーには既に多くの人が集まっている。今年のフジロック、例年よりもアジアからのお客さんがかなり多かった印象がある。そのおかげもあってかオープニングからかなり熱量の高いお客さんが詰めかけていた。始まりからアタック強めのキックの音と捲し立てるようなそれぞれの個性あるラップスタイルでオーディエンスを盛り上げる。サイファーの如くラップパートが変わるたびに歓声が上がるオーディエンスのグルーヴ感が最高に心地いい。もう完全に隙がない。ビートもラップもどこをとっても死角がなくて強い。しかもコミカルさもあってキャッチーだ。Balming Tigerとしての曲や、ラッパーであるOmega Sapienのソロ曲なども交えたセットリストで盛り上げていく。それを観ながらそばを啜るスピードも上がる。もうこうしちゃいられんと最後のそばを啜り、一度ゴミ箱に捨てに行った後、前方ブロックに駆け込んで行った。"POP THE TAG"が始まる頃には気が付いたらかなり前方にいてステージ上からOmegaがウォールオブデスを煽っている。これからここでモッシュが起きるということだ。フジロックも3日目、前夜祭からキャンプで参加していて毎日3時間程度しか眠れていないし風邪をひいていて薬を飲んできた…など考える暇もなく気が付いたらモッシュの中にいた。メロコア育ちの血なのだ。サークルができたなら飛び込め、それが敷きたりだ。
最後の曲の"Trust Yourself"では"Trust Fuckin’ Yourself!"と胸を叩きながら叫び。自分を信じろという強いメッセージをオーディエンスに煽る。それに応えるようにオーディエンスは拳を突き上げながら"Trust Yourself"と叫ぶ。このレッドマーキーの屋根の下には色んな言語を話す人たちがいる。色んな環境で生きて、それぞれ背景を持つ人が集まっている。国籍や文化、言語の違い、そんなことも忘れてみんなが"Trust Yourself"と叫ぶ。そしてそのまま再びウォールオブデスからのモッシュ。最高だ。その姿にはBalming Tigerが持つヒップホップとパンクをミクスチャーした精神のようなものを感じた。あまりに最高だった。レッドマーキーで今年1番の盛り上がりを見せた瞬間だったのではないだろうか。終わった後は足もフラフラのままかき氷を頬張った。とても夏だ。


あと忘れちゃいけないのが前夜祭からツイートが謎の大バズりをしてしまったさくらサーカスのステージ。生まれて初めてサーカスを見て、あまりに凄すぎてシンプルにウワァとか声が出てしまって自分でも驚いた。

前夜祭でステージを見た後、パレスでも気が付いたら毎日見てしまった。皆勤賞だ。もう本当に理解ができなくて、最初はすげ〜って見てるものが徐々にもうやめなよ…になっていくのがすごい。それでもやる、それでも成功する。日々の弛まぬ努力と人間の限界に挑戦していく彼らのパフォーマンスにめちゃでか拍手を送った。


4年ぶりのいつも通りのフジロック


2019年を最後に、コロナへの規制を設けて開催がされてきたフジロック。2023年になってようやくいつも通りのフジロックが帰ってきた。
2020年、フジロックが中止になった時にはもう2度とあの空間は帰ってこないのかもしれないと思いもした。それでも少しずつ、毎年のスマッシュの方々の尽力、それに関わった各社の方々の協力の積み重ねを経てようやく2023年に2019年の時のような光景を見ることができるようになった。もちろんそれは何もかもがあの頃と同じというわけではない。なくしてしまったもの、ニ度と戻らないもの、変わってしまったもの、変えざるを得なかったものそれぞれあることでしょう。これは"元に戻った"というわけではない。それでも色んなものを抱えて2023年たくさんの人がまたこの苗場に帰ってきた。ここからまた新しくフジロックが少しずつ始まっていく予感がした。また新しく始まるのだね。

多くの人が言うようにフジロックはただの"音楽フェスティバル"ではないと思う。フジロックは災害級の雨が降ったり、昼は山の日差しが暑くて、夜はその反動で冷え込んだりと必要以上に多く考えることが必要で、楽しむためにも体力や体調も含めてそれなりの覚悟も必要な奇特なイベントだ。それでもここには毎年多くの人が集まってくる。不思議なものだ。
多くの人がここを選ぶのは、ここに楽しいものがあると知っているから、この場所で楽しみたいから必ず夏に集まってくる。
「ずっとフジロックフジロックって言ってるけど、フジロックって一体何なの?」と聞かれたらうまく言語化出来なくて「音楽フェスティバル」としか答えられなかった。でも正直このイベントの楽しさを表すにはそれだけじゃ足りないと思っていた。

今年フジロックに行って改めて思った。フジロックの楽しさというのは、集まってくる人のエネルギーのようなものにあるのだなと。みんながひとつのフジロックという場所に集まって、「ただ楽しみたい!」という前向きな気持ちだけを持ち寄ってここにやってくる。そうした想いがここに集まってくることで自然と楽しい空間が出来上がっていくのだ。正直なことを言えばトイレも汚い、ご飯を食べるのにもお風呂に入るのにも長時間並ぶ、足りないものもたくさんある、天気も気温も自分の思ったようにいかないことだらけだ。それでも、その不便さの中で自分がどう最大限楽しめるかを考えて行動できる人たちの前向きなエネルギーのおかげでフジロックの楽しさは成立しているのだと思う。
そんな人たちとお互いをリスペクトしあって一緒に音楽で騒いだり踊ったりできるこの3日間は何にも変え難い幸せな気持ちになる。それは出演するミュージシャンや出店しているお店の人たち、スタッフの人たちへも伝播していく。みんながこの場所が好きで、ここに集まる人たちが好きで、好きなものへの果てしなく前向きなエネルギーが集約して生まれる大きなLOVEで包み込まれた空間がフジロックなのだなとなんとなくいつも感じていたけど、今年改めて感じた。

ここで出会った友達のことが好きだ。一緒に行く友達のことが好きだ。レッドマーキーの屋根を吹き飛ばすほどの歓声、走りたくなるほどのグリーンステージの開けた景色、足先まで響くホワイトステージの轟音、川のせせらぎと子供達の笑い声、風が吹き抜けるボードウォーク、夢中で踊ったフィールドオブヘブンの夜、みんなでビール片手に語るオアシス。色んな人たちがこれまで目撃した瞬間がこの地にずっと宿ってる。

やっぱり好きだなフジロック。迷わず行けよ、行けば分かるさフジロック。






この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?