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合意退職のトラブルについて

顧問先様から「能力が足りなくて頭を抱えていた社員と話し合った結果、退職されることで合意しました」と、事後報告としてご連絡頂くことがあります。

ここでの「合意退職」は、正しくは、「個別的同意による労働契約の解消=合意解約」であり、労働契約の当事者たる「労働者と使用者」が合意して、将来に向けて労働契約を解約・終了させることをいいます。

私が「どちらからの申入れですか?」とお尋ねすると、「話し合った結果なのでどちらからとも言えません」とお答え頂く事も多いのですが、「退職したい」との労働者の意思と、「退職して貰って差し支えない」との使用者の意思が、同じタイミングで突然ビシャっと一致することはありませんから、幾らか曖昧さや相互性が認められたとしても、労働者からの申し込みを使用者が承諾するか、使用者からの申し込みを労働者が承諾するかのいずれかになります。
一般的には、合意退職といえば労働者からの申し込みですね。

労働者の退職の申し込みの意思表示を使用者が誘引する事実行為は、一般的に「退職勧奨」と呼ばれ、成立すれば合意退職に含まれます。

合意退職が有効に成立した場合には、「客観的合理的理由および社会的相当性」(労契法第16条)などの規制も受けませんし、労働者側から退職する場合の要件である14日前予告(民法627条)も不要で、即時退職も可能です。

但し、合意退職が怖いのは、使用者側からの誘引が強要的に為され、退職の申入れが労働者の真意によるものではないと見做された場合には、退職強要(見做し解雇)とされることがあります。

更に、「退職するとは言いましたけど、今日でとは言っていない」とか、「(退職することについて)確かに分かりましたとは言いましたけれど、こちらの条件に応じて頂けるのであればという趣旨で申したに過ぎません」とされるケースです。

意思表示が不完全だとか、瑕疵(詐欺・脅迫・錯誤等)がある場合に、無効とされるリスクがあるという事ですね。

そうすると、「ならば、書面をきちんと取れているので安心ですよね?」と問われるのですが、どうしても労働者は使用者より弱い立場にありますから、それだけでは安心とは言えず、退職の意思表示の際に労働者の任意性が確保されていたどうかがポイントとなります。

この任意性の存否は、外形的事実やプロセス(ストーリー)で評価されがちです。

つまり、「労働者との具体的な話し合いの経緯を評価すれば、退職の意思を示すのは客観的にも自然なことであると評価できる」とか、「使用者が相応の金銭的対価を示した上で、労働者がその額を現実に受け取り、相当期間異議を申し立ててしなかった」等といった事がポイントになります。
勿論、高葛藤な話し合いが必要となる前提が無ければ任意性は肯定されやすくなります。

高葛藤事案における退職の成立は、労使トラブルのリスクレベルとして最高水準ですから、なるべく早い段階からご相談頂くようお願いし、顧問先様と伴走しながらの解決を心がけています。

三浦 裕樹/MIURA,Yūki
Ⓒ Yodogawa Labor Management Society

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