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人事評価による減給を伴う降格の合理性


会社が期待した役割を担えないと判断せざるを得ない管理職がいるので降格させたいが可能かというご相談を顧問先様から頂戴することがあります。
この場合の降格は、従業員が問題を起こした場合に適用する懲戒による降格(降格処分)ではなく、人事評価による降格になります。

まず、人事評価により降格させる場合には、「契約上の根拠」が必要になります。

「契約上の根拠」とは個別の同意を得るという方法もあれば、就業規則(人事評価規程等)に定められた合理的なルール(降格基準)に基づいて行うという方法もあります。

個別の同意を得るという手段を選択する場合、その同意が労働者の真なる自由意思によるものでなければならず、近時この自由意思は特に賃金の大きな減額を伴う場合にかなり厳しく評価されるため単に書面同意を得ているだけでは事足りず、客観的にみて労働者が同意することが不自然ではないと考えられるプロセスと根拠を準備しておく必要があります。
従って、かなりハードルが高いものと考えるべきでしょう。

一方、就業規則に基づく降格については適正に運用されれば強行法規に違反しない限り有効となりますが、特に中小企業にあっては明確な人事制度を設けていない会社が多く存在します。

この場合、特定の労働者を降格させるために、急いで一方的に就業規則を変更するなどして、これに基づいて降格を行うという事が可能なのかという論点が生じます。

確かに就業規則は使用者が一方的に変更することが出来ますが、降格ルールを設けることは労働条件の不利益変更に当たるため、労契法第10条の「合理性」の判断で仮に争われたとしても裁判所から「合理的」と評価されるような変更を行う必要があり、ここに恣意性が認められる場合には合理性の判断においてマイナスの評価を受けることになります。

また、仮に予め降格ルールがあったとしても、個々の降格措置について、不当な動機や目的や労働者に著しい不利益を負わせるものでなかったかも審査されますし、更に、降格が人事評価によるものではなく事実上の懲戒処分の行使と見做される場合には懲戒の有効性評価も含めて厳しく評価されることもあるため注意が必要です。

尚、非組合員と交渉せずに管理職に降格規程を新設し、一般職に降格した上で年収比10%減とした処遇について、以下を根拠として総合的評価により有効とされた事案もありますのでご参考ください。(ファイザー事件・東京高判・H28.11.16)

①職務遂行状況とは無関係な労働条件の既得権是正が期待できる
②一般社員に昇格機会を付与するなど意欲向上に繋がることが期待できる
③特定の集団の労働者に著しい不利益をもたらすものではない
④高度な業務について実績を上げることができなかったから単純作業が目立つようになったことが原因(指導等も行ったが改善は認められなかった)
⑤会社が厳しい経営状況にある。                 

  〔三浦 裕樹〕

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society



社会保険労務士法人 淀川労務協会



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