物語を読むことについて〜「獣の奏者」


 最近本屋さんでアルバイトを始めたのをきっかけに、以前よりも本を買うことが増えました。

 私の中で本は買うものじゃなく、借りるものという意識がずーっとあったから、中々買うというところまで踏み切れなくて…だって買うと嵩張るし…一回読んだらもう読むこともあまり無いし…
 小学校から中学校にかけて、本の虫と呼ばれていた私はなぜか変なプライドがあって、ハードカバーの本しか読まない!って誰に言うでもなく決めていたんですね。だから余計、買うというのは考えられなくて、学校がある時は図書館に入り浸って、夏休みは自転車で地域の図書館に通って…たまに遠出して大きい図書館に遊びに行ったり。
 あとはお金をあまり無駄にできないという変な遠慮もあったんだと思います。私は両親の些細な言動から、裏の心理を勝手に憶測して勝手に遠慮するという癖がついていました。ですから、私はよく無欲だねと言われていましたが、自分の物を買うことにいつも躊躇いを感じていただけだと、今は思います。
 最近やっとその思い込みの呪縛が解けてきて、自分の本当に好きなことや楽しいと思えることにお金を使えるようになってきました。

 その中で大好きな本を自分の本棚に並べられるようになったのは本当に幸せで、背表紙を眺めていると胸がほくほくとあったかくなります。

 そうやって、ああ本って買っても良いものなんだって思えるようになってから、ふと中学生の時に夢中になった上橋菜穂子さんの「獣の奏者」が読み返したくなりました。そう思い立った翌週には文庫版の「獣の奏者」Ⅰ、Ⅱを購入。
 このシリーズがⅠ〜Ⅳまで出ているのは知っていたんですが、少しずつ買うのは自分の読むペースをコントロールするためです笑。図書館で本を借りていた時から、シリーズ物を借りる時はどんなに沢山借りることが出来ても、一巻か二巻ずつしか借りないようにしていました。読み始めるとなんだか赤マントに突進していく闘牛のように、ページをめくる手が全く止まらなくなってしまうんですよね。
 もうそれしか見えなくなっちゃう笑。でも大体1日か2日で読んでしまうから、結局次の日また図書館に行くはめになるんです。
 それは本を購入することになっても同じでした笑。
 結局Ⅰ、Ⅱは2日ぐらいで読み終わってしまって、次のシフトの時には絶対次の巻を買うと心に決めて、アルバイトに向かい、講談社の棚の前で散々迷った挙句、Ⅲを購入。でもどうしてもエリン達が激動の物語に飲み込まれてしまう前に、穏やかな日々を読んでおきたくて、次の日には外伝の「刹那」を買ってしまっていました。

 物語というのはとても不思議で、当たり前のことなんですが、中学校時代に読んだ時には心にも留めていなかった部分が今になって急に迫ってきて、思わず涙を流してしまっていたり、胸がじんわりと熱くなってしばらく動くことができなかったりします。
 特に「獣の奏者」では、初めて読んだ当時は、現実にはいない闘蛇や王獣達にただただ強く惹かれて、彼らはどういう生き物なのか、それと触れ合うエリンはなんて良いんだろうか、羨ましい、私も竪琴で王獣の背に乗りたい…なんて思っていたものです。(私は冒険したい女の子でした。多分今もそう笑)
 けれど、今読み返してみると、ひたすらにソヨンがエリンをどう慈しんでいたか、エリンが生命に対してどう向き合うのか、イアルが己の生をどう扱っていくのか…苦しくて不条理で哀しい世界でも、生きているという不思議さと奇跡を必死に掴んで放さない彼らの姿が瞼の裏に焼き付いて離れませんでした。
 それは、私に小さな弟ができたのも大きかったのだと思います。
 母のお腹に突然宿った命はそれはもう不思議で、おっかなびっくり温かい、少し張りのある大きなお腹をよく触らせてもらっていました。
 「刹那」の中でのエリンの姿と重なり、ふふっと笑ってしまったり、Ⅰの冒頭、ソヨンが指笛を吹くと決めたエリンの表情に目頭が熱くなったり、自分でもびっくりするぐらい親子や夫婦の描写部分で心が揺れ動いてしまって。
 ああ、自分やっぱ成長してるんだなあって思う。

 でも逆に物語が私を成長させてくれていたりもするんだと思います。
 改めて「獣の奏者」を読むまで、私は結婚や家庭を作ることに対して今よりも否定的で、怖くて、嫌でした。
 だけど、人を好きになることとか、好きな人と一生を添い遂げることについて、よくよく考えるうちに、それも良いのかもしれないと思うようになりました。エリンとイアルとジェシのように、刹那的であっても幸せな時間を過ごせたら良いのかもしれないなあなんて。
 こんなこと言ってると、何を物語と現実をごちゃ混ぜにしてるんだ、幻想じゃなく現実を見ろと大人に言われそうですが、でも、想像できることって実現もできる気がするんですよねえ…そんな考えが浮かばなかったら実現は不可能ですけど、頭の片隅にそういうものがあるだけで、自分の可能性って実は広がってるんだよなあって。

 そうやって心震わせ、自分の中の想いも時には変えてしまう物語って本当に凄いなあと思います。
 そして私はそんな物語を紡げるようになるんだろうか…とも思うわけです笑。
 いつか、そんな物語を描き出せるようになりたいです。

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