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武士道に学ぶ

日本の精神文化

新渡戸稲造が世界へ向けて流暢な英語で書き上げた世界的ベストセラー。
前回の『葉隠』で再度読み直したくなり、読んでみました。20代前半で読んだときとは違う世界がそこにはありました。
書き出しも美しい。

『武士道はその表徴たる桜花と同じく、日本の
 土地に固有の花である。
 それは今もなお我々の間における力と美との
 活ける対象である。』

『武士道』新渡戸稲造

武士道は現代となじまない点もあると思いますが、日本人の心深くにある精神文化を知っておくことは大切なことと思います。

武士道の渕源

この精神文化の源泉を以下のとおり、説明しています。

仏教:
運命に任すという平静なる感覚、不可避に対する静かなる屈服、危険災禍に直面してのストイック的なる沈着、生を賤しみ死を親しむ心
神道:
主君に対する忠誠、祖先に対する尊敬、親に対する孝行、愛国心・忠義
孔子・孟子:
君臣、父子、夫婦、長幼、朋友間における倫理・教訓

ただ、「武士は本質的に行動の人」
学問は学問として置かれ、武士の活動の範囲外であったと説明しています。

武士道の価値観
「義・勇・仁・礼・誠,名誉」

「義」

「何が正しく、何が悪いか」道理に従って考え、ためらわず決断すること。

「義は武士の掟中、最も厳格なる教訓である。
 武士にとりては卑劣なる行動、曲がりたる振る
 舞いほど忌むべきものはない。
 この真率正直なる徳は最大の光輝をもって輝い
 た宝石であり、人の最も高く賞讃したることこ
 ろである。」

『武士道』新渡戸稲造

「勇」

義のために行動すること。
(≠勇敢果敢に危険に飛び込むこと)

「勇気が人の魂に宿れる姿は、平静すなわち心
 の落ち着きとして現れる。真に勇敢なる人は
 常に沈着である」

『武士道』新渡戸稲造

「仁・礼・誠」

仁は慈悲の心。礼は、他を思いやる心が外に出たもの。誠は、信実・誠実であること。

「礼は寛容にして慈悲あり、礼は妬まず、礼は
 誇らず、高ぶらず、非礼を行わず、己の利を
 求めず、憤らず、人の悪を思わず」
「泣くものと共に泣き、喜ぶものと共に喜ぶ
 こと」

『武士道』新渡戸稲造

「名誉」

「名誉の感覚は、人格の尊厳並びに価値の明白
 なる自覚を含む。生まれながらにして自己の
 身分に伴う義務と特権とを重んずるを知り、
 かつその教育を受けたる武士を、特色づけず
 しては措かなかった」

『武士道』新渡戸稲造

名誉と恥を恐れる心は表裏一体。
日本は「恥の文化」(『菊と刀』ベネディクト)。世間体や外聞といった他人の目を気にするという精神文化のルーツとも思います。
ただ、この名誉があったからこそ、武士の精神文化が生まれ、日本躍進の原動力になったと説明しています。

「劣等国と見下されることを忍びえずとする名誉
 の感覚。これが最も強き動機であった」

『武士道』新渡戸稲造

一方で、この武士道の欠点も指摘しています。
「哲学的思考の弱さ」
「感情に過ぎ檄しやすい」
「名誉における尊大なプライド」

「武士道」をどう生かすか

「武士道といふは、死ぬことと見付けたり」

「葉隠」山本常朝

「生と死」と向き合い、高尚な精神をもって生きてきた人がこの国にいたこと。
これらの事実・精神は、多くのことを私たちに教えてくれます。
日本人の精神文化のルーツを知り、悪いところは自覚し、良い部分を後世に残していくことが大切なことと思います。
まだまだ勉強中ですが、ビジネスを経験し、西洋・東洋哲学を知ったことで本書を最初に読んだ20代のころとは違う景色が見えました。

最後に新渡戸稲造は、武士道の将来を以下の
ように記し、美しい詩で締めくくっています。

「(武士道は)象徴とする桜花のごとく、
 四方の風に散りたる後もなお、その香気を
 もって人生を豊富にし、人類を祝福するで
 あろう」

 いずこより知らねど近き香気に、
 感謝の心を旅人は抱き、
 歩みを停め、帽を脱りて
 空より祝福を受ける。

『武士道』新渡戸稲造

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