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科学の眼鏡で世界を見れば(vol.2)

ピンピンポンポンピンピンポン♪

聞き慣れない音がする。

強烈な違和感を覚えながらスマホのアラームを止める。この音に設定したのは紛れもなく自分である。人間の脳は聞き慣れた音を安全だと判断し、聞き慣れない音を危険だと判断する。だから自分は必ず起きないと行けない『大事な日』には決まって普段と違うアラーム音にするのだ。

まだ少し眠いので口にチョコレートを放り込む。ついさっきおやすみ中に悪いことをしてしまった脳みそ君に向けたせめてものお詫びである。

今日はお笑いライブに行く日なのだ。お客さんとしてではない。ゲストとしての出演だ。自分が大好きなお笑いを特等席から見て、自分が大好きな芸人さん達とトークをする。前世でマザーテレサ級に徳を積んだとしか思えないお仕事である。

11月半ばを迎え、気温はグッと下がってきた。「気温が低い」というのは「空気中の分子の速度が遅い」ということである。もっと動けよ、お前ら。平均速度500m/s近くで飛び回る空気に対して厳しすぎる喝をいれながらスーツに着替える。

家を出て電車に乗る。スマホを取り出したが充電がない。どうやら昨晩充電コードにしっかり挿さっていなかったらしい。前世のマザーテレサがもっと頑張ってくれていたらこんなミスは起こらなかったのだろうか。

仕方ない。こっそり人間観察をしよう。

外を見ている乗客の目を見る。念のため若い女性ではなくおじさんを選ぶ。すると高速でピョコピョコ眼球が動くのが確認できる。『視覚運動性眼振』である。人間の眼は反射的に動くものを追い、それとは反対向きに起こる急速なリセットを繰り返す。その結果としておじさんの眼がピョコピョコ動くのだ。

おじさんと目が合ってしまい、気まずさのあまり座っていた席を犠牲にして車両を変える。なかなか野生の勘が鋭いおじさんを選んでしまったらしい。とても悔しい。

会場に着き、お笑いライブがはじまる。いつもはピン芸人の3人がトリオを組んでネタを行う。トリオというのは可能性に富んでいる。例えばコンビの場合、起こりうる絡みはボケとツッコミの間で起こる1通りである。簡単すぎる『場合の数』の計算問題だ。

しかし、トリオの場合はどうだろう。実際に計算してみよう。まずは場合分けだ。

①2人でやりとりをする場合

これは「3人の中から2人を選ぶ」ので3C2通りである。つまり3通りだ。

②3人でやりとりをする場合

これは純粋に全員参戦なので1通りである。

以上、1+3で計4通りである。

コンビの4倍だ。


十分にお笑いを楽しみ、帰路につく。充実感に溢れてあたる秋の風はどこか気持ちが良い。

聞き慣れた音がする。5時を知らせるチャイムの音だ。

「ずっとこんな生活が続くといいな」

安心感の中、1m/sで歩く男はこう思った。


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