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5人の姫といちばんの王子

演目【5人の姫といちばんの王子】

白雪姫は言いました。
「わたしはたいそう美しく生まれました。
“ある程度”美しい継母に恨まれるくらい、雪のように白い肌、黒檀(こくたん)のように黒い髪、そして血のように赤い唇。
これこそがわたしの個性、そしてこれこそがわたしの武器。
自慢じゃないけど、わたしを恨んだ継母には2度も殺されかけたわ。
一度目は腰紐で締め上げられて。二度目は毒を塗った櫛で刺されて。
今となってはどれもこれも勲章のような思い出よ。
今度はどんな手で殺しにくるのかしら。
殺されかければ殺されかけるほど、わたしの悲劇に拍車がかかって、姫としての価値が上がってゆく!
地球でいちばんの王子様が迎えに来てくれるわ。
死んでしまったとしても、生き返らせてくれる…それが姫としての運命(さだめ)だから、安心して死ねるのよ!」
そして、窓の外には老いぼれた林檎売りが通り過ぎ、白雪姫はコンコンとノックされたドアを一目散で開けにゆきました。

→糸繰人形


人魚姫は言いました。

「やっと、お姉様たちに圧倒的な差をつけられるようなこの世でいちばんの王子様を見つけたわ!
…と、そこまでは良かったのよ。でもアレが噂に聞く“ニンゲン”って言うのね。
わたしたちみたいな人魚じゃないの。顔はいいけど尾びれも背びれも無いのよ!
海の香りなんてしなくて、なんだか油っぽい香り…
ちょっと…わたしには慣れないわ。
お父様から、人魚族以外には姿を見られちゃダメって教わったからとりあえず浜辺に置いてきたけど、今見ると居ないのよ!誰かに連れて行かれちゃったのね。
もー、わたしのにしようと思ったのに…。
あのニンゲンのオスをどうにかして海の中に引き入れて、お姉様たちに見せびらかす事ができれば…更にわたしの株は上がるわね。
…とりあえず、魔女のおばさんのところにでも行って涙でも流せば言うことを聞いてくれるでしょ!
歌声だけじゃなくて、泣き顔も美しいところがわたしの個性ね。
あー、可愛い末っ子に生まれて良かった!」
そして、人魚姫は深い深い海の底に住む魔女のおばさんの元へ向かいました。
王子と2人で海を泳ぎ回り、称賛を受ける姿に笑みを浮かべながら、貰った魔法の薬を
一気に飲み干してしまいました。

→深海クジラ


シンデレラは言いました。
「わたしは、貴族の娘として生まれたのだけれど、継母や義理の姉から妬まれて召使いのように扱われていたの。舞踏会にも連れて行ってもらえなかったし。
でも、それが不幸だとは思わなかったわ。見すぼらしくも健気な子って何故か優しくされるものなのよ。
それは私の素晴らしい個性ね。気の利いた魔法使いに、美しいドレスや、豪華なかぼちゃの馬車、そしてきらめくガラスの靴をプレゼントしてもらったから、舞踏会に行くこともできたの。舞踏会に着いた私は、たちまちみんなの注目の的になったわ。
王子様とも一緒に踊ったし…カレもきっと心から魅了されたに違いないわ。
0時に帰るようにって口酸っぱく言われたのも、ちゃんと約束を守ったわよ。
それに、急いで帰る時に、さりげなくガラスの靴を片一方だけ落としてきてやったの。
あとは、ガラスの靴を頼りに私を見つけてもらえればいいからとっても簡単!
あー、待ち遠しいわ、王子様が、このくだらない生活から私を連れ出してくれる日はもうすぐね!」
そして、シンデレラは王子様が迎えに来てくれる日を心待ちにして過ごし続けるのでした。

→もりのかくれんぼう


いばら姫は言いました。
「わたしは、生まれた時に賢い女たちからたくさんの魔法の贈り物を授けられたわ。

人がこの世で望むあらゆるものを授けられたのよ。でもね、賢い女の中には、わたしのことを妬む人もいてね『15歳の時に糸車の針に刺さって死ぬ』なんて呪いをかけたのよ。
ラッキーなことに呪いは和らげられて「死ぬのではなく、100年の深い眠りに入る」って
ことになったんだけれどね。ま、そんな呪いも含めてわたしに与えられた個性は特別だったわ。
とても美しく、慎ましく、性格がよく、賢かったから、この世の誰もがわたしを愛さずにはいられなかったのね。わたしが眠ってしまわないように
国中の糸車は燃やされたし、それはそれは大事に育てられたものよ。
わたしとってもワクワクしてるわ。もし100年間の眠りに落ちてしまったとしても、それだけたくさんの人に想ってもらえるってわけでしょ?
それにね、100年も経てばきっと、とびっきりの王子様が迎えに来てくれるに違いないわ!」
そして、いばら姫が15歳になったちょうどその日に、古い塔の中で糸車を回すおばあさんに
出逢いました。

→楽園のかいじん


ラプンツェルは言いました。
「わたしは深い森の中に建てられた入口のない塔の上に暮らしているわ。
わたしの個性はなんといってもこの金色に輝く長い髪と、可愛らしい動物たちが集まってくる魔法の歌声ね。外は危ないからってお母様に18年もの間、塔から出ることを禁じられてきたの。友だちは森の動物たちだけだなんて、つまんないわよね。
それが別に不幸ってわけじゃないけど、楽しいってわけでもないわけよ。
…まあ、幸せを感じられる瞬間はあるわ。それは、私の誕生日の夜に遠くの空に現れる無数の灯りよ。
きっと遠くに住む王子様が、私の誕生日を祝ってくれているんだと思うの!
…あ、そうだ。さっき塔の上に変な男が現れたの。これはきっと何かのお示しよ!
だって明日はわたしの誕生日なんですもの。でもね、あまりにもびっくりしちゃって、持ってたフライパンで頭をぶん殴ってしまったから、今はすぐ横で気絶してるわ。
弱い男ってやんなっちゃうわね。でもね、この男が抱えていたティアラを隠して、それを返すことを交換条件にしてあの灯りが現れる場所まで私を送り届けさせるわ。
あの場所には、いちばんの王子様が待っているに違いないんだから!」
そして、言いつけに背いて塔の外に出たラプンツェルは、初めて見る世界への期待を隠しきれず森の中を走り去るのでした。

→徒競走は終わらない

白雪姫が、人魚姫が、いばら姫がシンデレラがラプンツェルが、この世の全てのつむじ曲がりの姫たちが身の程知らずの夢を見る頃、世の中でいちばん豊かな国のいちばん素敵な王子さまは、いちばん豪華な舞踏会を開きました。
いちばんおおらかな王様が選んだ いちばん奥ゆかしい許嫁の女性が、いちばん素敵な王子様の目の前に現れた時、流れ星が流れる速度で恋に落ちました。
そこからお話はとっても円滑に進み、ふたりはあっという間に『この世でいちばん幸せな夫婦』になったのです。
一方その頃、別の本の中では、白雪姫は死にかけて、人魚姫は足の激痛に悶え、いばら姫は眠りにつき、シンデレラはみすぼらしい生活に戻り、そしてラプンツェルはまだ走り続けていました。みんなみんな身の程知らずの欲張りで、いくらおとぎ話の中だといえ神様はそれを見逃さなかったのです。みんなそれぞれ自分の個性と自分の物語があり、自分にあった自分だけの王子様が今か今かと待っているのです。
しかし、 王子様というのは自分の本の一番最後のページに自然と現れるもの…
というのを、彼女らも、あなたたちも未熟すぎてまだ知らないのです。

→ユメヨミ

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