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モナ・リザ

わたしの生まれは1503年のイタリア。今はパリのリヴォリ通り、75001番地。“ルーヴル美術館”と呼ばれる大きな建物の中に居を構えています。
あなたたち人間は、わたしのような絵が意見を持たず、言葉も話さず、感情も持たない無機物だと思っているようですが、それは大間違いだと思ってもらって構いません。

…申し遅れましたが、わたしの名前は『モナ・リザ』。創ったのはレオナルド・ダヴィンチという男性。骨はポプラの板、血肉は油絵具、モデルとなった人物は…
あら、これは本日の30分間でゆっくりお話しする話題でした。
「世界でもっとも知られた、もっとも見られた、もっとも書かれた、もっとも歌われた、もっともパロディ作品が作られた美術作品」…と言われていますが、どう思われますか?

今宵は、わたしがたくさん持った謎の答えを探してゆきましょう。
それでは、どうぞゆっくり、ご覧になって。

→回帰船


まず、あなた方が気になっているのは、わたし“モナ・リザ”のモデルが一体誰なんだという点だと思います。
絵に描かれている女性の名前がモナ・リザというわけではありませんよ。
イタリア語で『モナ』は『私の貴婦人』という意味です。そうすると一体『リザ』はなんだろう?と思いますよね。
そう、『リザ』こそがこの女性の名前だと言われています。本当の名をリザ・デル・ジョコンド。ただのイタリアに住む大富豪のお嫁さん…そう、一般人なのです。
大豪邸への引っ越し祝い・そして次男の誕生を祝って、リザの夫が、当時の売れっ子画家だったレオナルドに肖像画の依頼をしました。
この時のリザは、まさか自分がこんな有名な絵になるだなんて、夢にも思わなかったでしょうね。

→描きかけの世界


しかし、このリザの肖像画は、最終的には依頼者である夫の手には渡りませんでしたし、リザ本人も完成を見届けていません。数奇な運命を辿り、名画へと成長を遂げました。

レオナルドダヴィンチは完璧主義で、なおかつ、筆の遅い人間でした。「いやまだできていない」「いやまだ完成じゃない」「こんな作品は依頼者である君にも渡せない」と報酬も受け取らず、16年に渡ってこの絵を手元に置き続けました。

その理由は…レオナルド空白の5年間にあると言われています。

身分の違いで公にできなかった恋人と逃避行をしていたという噂がありまして、まぁわたしモナ・リザもレオナルドに抱えられその逃避行に同行していたわけですが…。
大きな声では言えませんが、その間、この絵は描き直しをされていたのです。元のモデル、リザとは別の、レオナルドの恋人の顔へと…。(小声)
愛する人の顔へとどんどん上塗りされていったこのモナ・リザ…他の男の元へ渡せないといった理由は、実はそういう事なのでは無いか?という、まぁ、噂ですが。
恋人と同じように、わたしモナ・リザへも『いつでも一緒にいてやりたい』と思っていたのでしょう。実際レオナルドは、中途半端な絵は全て壊してしまっていましたから、わたしはそうとうなお気に入りだったわけです。

→はるのこと


建築・数学・天文学・音楽に物理学などなど、様々な功績を残したレオナルドダヴィンチですが、1519年、67歳でその価値ある生涯に幕を下ろします。

その頃、わたしモナ・リザはどこにいたかというと…、まだレオナルドの手元におりました。
しかし、レオナルドの死後は、当時のフランスの王・フランソワ1世に買い取られることに決まり、現在の日本円にして、おおよそ1200万円。尼崎市内に中古マンションを買うよりお安いですね。当時のわたし価値は、その程度だったわけです。

さて、それから今のルーヴル美術館へ飾られることに決まるまでは、あっという間でした。フランス革命後すぐ、皆様のお目にかかる、ルーヴル美術館の『いつもの位置』へ座ることが決められました。

→日没オレンジ

さて、現在わたしのことを見に来てくださる方は年間 600 万人にも及びます。しかし、 今お話しした、わたし、モナ・リザの来歴を聞いても皆さまはピンと来ないのではないでしょうか? “なぜこんなにも有名な絵画になったのか?”
わたしに価値が付いたのは、まず、噂です。
レオナルドの死から 20 年後、わたしを買い取ったフランソワ 1 世は「かつてこの世界にレオナルドほど 優れた人物がいただろうか」と語っています。
また、死後 31 年、ヴァザーリにより出版された本には
「モナ・リザに見られる微笑みは、あまりにも魅惑的で、それを見ると人間のものというよりも 神のものという印象を受ける」などの記述もあります。
( しかし、このヴァザーリ、死ぬまで一度もわたしを見に来なかったのですよ...)
更にわたしの価値を上げた出来事が “盗難事件” !
1911 年の夏の夜、わたしはペルージャという男に連れ去られました。 その後、きちんと裁判をして帰ってきましたけどね。
お気づきでしょう、変なのは、このお褒めの言葉や事件の全てがレオナルドの死後という点。 ...あぶない人たちが、よってたかって、ある事ない事勝手に言って、作り上げて、
1200 万円のわたしを 500 億円くらいにしようとしているのが、見え隠れしませんか?

→こっちにおいで

...ここまで来ると、わたしの価値は噂と盗難事件によって上げられていったことに 気付いてもらえると思います。 本当の価値は、天才・レオナルドダヴィンチが死ぬまで売らずに持っていた名画。 麗しい人の顔に塗り替えられた愛の名作なのに...。
さ、お話はこの辺で。謎がたっぷりのわたしの素顔が、少しでもわかってもらえたのなら光栄です。 この 30 分間では伝えられなかった謎や真実、嘘や本当はたくさんあるのですよ、 またの機会にお話ししましょうね。
今回、わたしから伝えたかったのは、そう!すべては真実を見なければ価値なんてわからないという事。 『モナ・リザ』というネームバリューだけに騙されずに、背景を知って、真実を知って、
レプリカじゃなく本当のわたしを見てほしいわ。 電子の世界や噂話、そんなものはあなたの目の記憶に比べたら大したことなんて無いんですよ。
それでは、よあけのばんのお二人にもう一曲歌ってもらっている間に、わたしの魂は ルーヴルへ帰ろうと思います。そ、Nonsugar さん。 あなた偉そうに、わたしの脚本を書いているけれど、わたしのことまだ見たこと無いんでしょう。 あなたたちもよ。死ぬまでの間に、はやく出かけて、ルーヴル美術館に会いに来てね。 金色の枠の中で、この世に疲れたあなたをいつでもお待ちしています。

→雨上がり

よあけのばんは、大阪で世にも小さな音楽劇団として活動しています。どこかで公演を見ていただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします。