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透明なベール

パシャン、と音がしました。

下を向いて波打ち際でゆらゆらしている木の葉や枝、ペットボトルなんかを見て歩いていました。

音のした方へ頭を上げると、また、パシャン、と音がして、跳ねた小さな小魚のお腹が夕日を反射してキラッと光ります。

首からぶら下げたカメラを海の方に向けて、じっとファインダーを覗き込んで待ちます。

遠くの方で騒ぐ子供の声や首都高を走る大型トラックのガタガタという音がしますが、私の周りはとても静かでさざなみのゆれるかすかな音が、透明なベールのように私を包んでいる気がしました。

少し右の方から、ジャブジャブと波の音がします。その音はだんだんと近づいて来て、私のファインダーの中に入って来ました。

それは4本の足でした。ゆっくりと浅い海をかき分けるように、10秒ほどかけて53mmのファインダーの中を横切って行きます。

フレームアウトする直前で、パシャンと音が聞こえました。それは、カメラを向けた方とは違う方向から聞こえましたが、それでもわたしは反射的にシャッターを切ります。

カメラから顔を離して左へ目をやると、高校生の男女が海の中を歩いて行きました。

気づけば私を包んでいた透明のベールはなくなっていました。

10代の男女の他愛のない会話は、さざなみの澄んだ音にも大型トラックのガタガタにも相応しくて、傾いた西陽の色が染める世界の質感が、やさしく溶け合っていくように見えました。

パシャン、とふたたび魚が跳ねます。

急いでシャッターを切りますが、写ったのは魚が跳ねた後の水飛沫だけでした。


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