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夕日を撮ろうと決めた話

学校終わりの夕方、
重い体を引きずっていつもの電車に飛び込む。

席はいつも通り満員。うぅん。
今日も立って耐えるか…。
疲れた僕はスマホをいじる気にもならず、
ただ、ぼーっと窓の外を見ていた。


ガタンゴトン ガタンゴトン​──────

「えぇー次は○○、○○です。
  お出口はひだりぃgわds…」

あぁ…ダメだ。ねむたい。
車掌さんのアナウンスですら
今の頭では、ぼやぼやと聞こえる。

そのときだ。

ガタンゴトン ガタンゴトン  ドドン ドン
グワアァァァ​───────​───────​


それは、
見事な夕日だった。

まるで絵の具をぶわぁっと滲ませたような、
淡くて、でもどこか儚い。
そんな夕日。

それが
トンネルを抜けた先、わずか5秒の間に、
僕の目に映る。うわぁ…すごい…。


あっそうだ写真撮ろう!
と思ってスマホを取り出す。
でも、構えた頃にはもう遅く、
電車は次のトンネルに入っていた。

…少ししょげる。
ふと周りを見渡せば、
席に座った大人はみんな、
スマホを眺めるばかり。
あの夕日を見たのは僕1人のようだ。


優越感と同時に、
なんだか、寂しさを感じた。



僕がスマホを持ったのは高校に入学してから。
それまでは父のガラケーをおさがりで使っていて、塾に通う時はそれで家族とやり取りをしていた。LINEやYouTubeは無かった。友達にメッセージを送れば1通3円かかる。

あぁ、スマホが羨ましい。
そんな気持ちでいっぱいだったけれど、
その頃の僕は周りを見てこうも思った。
「みんな下向いてて怖いなぁ」

あの光る板を1時間眺めたら、
お金でも貰えるのかしら?なんて。
電車に揺られ、塾からの帰り道。
僕は少し怖かった。

もちろん今はスマホを持ってる。
電車内だけじゃなく家でもかなり使う。
夕日を見れたのだって、きっとたまたま。

でも。
あの夕日みたいな、
身近な幸せを見つけたいと思える。
少なくとも今は、そう思って毎日を過ごす。

今日の夕日はどうだろう。
僕は今日もあの5秒を待っている。

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