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我が儘とヤキモチ【恋の備忘録】

[恋の備忘録n回目]

 最近、以前に比べると圧倒的に恋の悩みが減ったよなと自分でも感じる。多分むこう――いわゆる「ガールフレンド」であり「彼女」のことだけどそういった代名詞を使うのがなんとなく嫌なのでこの言葉でその意味を指している――会う頻度が変わったから。

 思い返せば、今までのむこうと自分の会う頻度は異常だったんだろうなと思う。お互い、電車で30分程度の隣町に住んでいるというのに約3か月に1度しか会わなければ電話も年に1度するかしないかの頻度でしか行わない。毎日メッセンジャーアプリでやりとりはしていたけど、同じだった中学を離れてからは高校、大学とお互い別々の生活圏で暮らしている。こんな状況を見た周囲の友人たちからは「同じ県内に住んでるはずなのに、遠距離恋愛してるよね」と何度ツッコまれたことか。

 勿論、当時の自分も「普通ではない」ことは自覚していた。そもそも自分は昔から恋愛脳気質で寂しがり屋で依存性が高いメンヘラ気質の塊であり、付き合いたての頃(中学時代)は帰りのホームルームを終えるとむこうと会えなくなることに心が落ち着かなくなり土日を挟むだけで虚無になってしまうほどの豆腐メンタルだった。中学を卒業して最初に訪れた春休みは言わずもがなむこうに会えない日々が続き、恋煩いを拗らせ一時はご飯さえ食べれなくなった程である。
 そんな弱小メンタルなのに何で会う頻度が異常に低かったのかというと、むこう自身があまり寂しさを感じなかったり他者に依存しない性格であること、自分がむこうの生活にあまり干渉したくなかったので自分からは極力「会いたい」などを言わないようにしていたこと、好きな人に対して自分の弱さを見せたくないという変な意地が働いていたことが多分主な理由。
 高校入学前最後に会ってから次会うまでに4か月以上の月日が経っていた。そして不幸なことに自分の中で「これがデフォルトだ」という固定概念が生まれてしまう。

 気付けば、そんな生活が実に4年以上と続いていた。自分の中では「一月も経ってないのに会うなんて傲慢だしあり得ない」なんて思っていた。しかし今年の夏前にちょっとした出来事があり、8月からはほぼ1か月に1度は必ず会うような頻度に成長している。
 ちょっとした出来事というのは簡単に言うと、ついに自分が「もっと頻繁に会いたい」という本音をちゃんと伝えたのだ。それまでの会う頻度は自分にとっては満足なものではなかった。それでも無理矢理自分を納得させていたが流石に心が疲れてくる。それと同タイミングでむこうが(学校生活の忙しさなどが原因で)メンタルが不調になり、唯一のコミュニケーションだったLINEでのやり取りも縄のように太かったものが今にも切れそうな細い糸ぐらいのレベルに下がっていたのだ。そういった状況下で自分はいつも恋愛相談に乗ってもらっている友人にアドバイスをもらい、むこうに本音を伝えた。そしてそれがどうやら正解だったようで、月に1度会う状況が3,4か月と続いている。

 こうして私は無事に幸せになることができたのでした。めでたしめでたし――と行けばいいのだが現実はそうもうまく行かない。悩みが一つ解消されたのなら、同じくしてまた新たに一つ悩みが増える。

 「そろそろ次会う日を決めようか、月末あたりはどう?」とうちが訊く。
 するとむこうは「xx日までは厳しそうだけど、その次の週なら大丈夫かもしれない」と答える。詳細は分からないが、近いうちにむこうと会えそうだと分かり自分は安心する。
しかし程なくして「ごめん、試験があるからその次の週もダメだった」と連絡が来る。その瞬間、自分はひどく裏切られたような気分になった。
 もちろんむこうに悪意は無かったんだろう。というかこの程度の予定変更なんて他の友人とだったら普通にあるし、普段であればそれが起きたところで「あーそれは仕方ないね、それじゃ他の日にしようか」と特別な何かが起きることも無く話は進んでいく。しかしむこうに対してだけは何か違った。悲しさとか寂しさとかネガティブ感情が生まれ、更には怒りのように激しい感情までが伴ってく。そしてこの展開は過去にも何度か経験していることから「呆れ」の気持ちが付随し、ついにはその連絡に対して返事をする気力さえ失った。

 どうして?どうして自分はむこうに対してこんなにも冷たい反応をしているの?好きという感情が無くなったわけではない。相手が大切な人だという自覚もある。それでもなお、むこうからの「会えない日が長引く」という連絡を見るたびに再び激しい感情が生まれ、何も返さず無視をすることを続けているの??
 自分自身に問うた。そして自分が動揺していることにも気が付いていた。それでもむこうに対して素直になれない気持ちの理由が分からなかった。

 考えてみれば、これまでむこうと過ごした日々の大半は会ってない時間の方が長いし、月イチで会うことができるなんてSSR級のガチャイベントのようなものだった。それがここ最近はたまたま何度も実現できているわけで、それはとても有り難いことで。そして同時にむこうはうちが示した要望に応えようと、むこうなりに頑張ろうとしてくれているわけで。それが分かっているのに、「どうして会えないの?」「なんとか時間作れないの?」「なんで会ってくれないの??」と我が儘な疑問が止まらない。今までより会う頻度が高くなって幸せのはずなのに、今まで会えない日が続いてもこんなことにはならなかったのに、月に一度ぐらいはあえるかもって期待しちゃうだけでどうしてこうなってしまうの?

 それからというものの、スタンプ一個で返信を済ませてしまったり、日常的な雑談をしようにもなんとなく気まずさを感じたり、改めていつ会えるのかを訊こうとするとまた自分の感情が爆発しそうになるしで疲労を感じている。現状、お互いが繋がり続けるための唯一の手段になっているLINEも楽しさを感じない。そしていっそのこと会いたいと思う気持ちもあやふやなものになっている。

 果たして自分はむこうに対する興味を失ってしまったのだろうか。でも、むこうに依存する気持ちはどこかに残っている。会ってむこうに甘えるときのことを妄想する自分がいる。まだキスすらしたことないのに、むこうに甘噛みしたい気分。むこうへの独占欲のようなものが、自分のなかでひどく生じている。

それでようやく気付いた。

 きっと自分はむこうに依存してほしいんだろう。こっちがむこうに対して必死なのと同じように、むこうもこちらを求めてくれればいいのに。
 むこうは真面目な性格だから、恋愛よりも学業の方を優先する。それは学生としては正しいことで、素晴らしいことで、綺麗なことだ。でも、むこうはいつも成績だとか単位だとか研究室だとか、そういうことばかり気を取られている。恋愛を求めないで、眼中にあるのはいつも学業の事ばかり。そしてその先、将来において社会の中で自己防衛策を作るための事ばかり。結婚とか不確定な未来に淡い期待をすることなく、確実なカードを手札に加えるため――なんてあくまで自分の想像でしかないけれど。むこうが実際どういう思惑でいるのかは分からない。でも恋愛より学業重視なのは事実。そして自分には依存してくれないことも。そんな事実が悔しくて、自分はヤキモチを妬いて拗ねている。

 きっと、幸せな悩みではあると思う。そして恐ろしいことでもある。会う頻度が高くなって、多少自分の我が儘を通せるようになって、それが実現できなければ大切な人であろうと傷つけてしまうような行動をする自分。壊れてしまう前に、いっそ自棄になって自分で壊してしまう方がマシだとかそういう類のことなのかもしれない。

 原因が分かってもなお、感情に整理はつかない。むこうから届いたLINEにどう反応すればいいのか分からない。冷たい反応をしてしまいそうになる自分に動揺をしている。


 我が儘さと嫉妬心を抱え、今日も布団に眠る。