ガンダム衛星の情報まとめ-キューブサットを添えて

 ガンプラ転売問題。ガンプラの卸業者が小売店に対して売り渋り、独自の小売りルートから高値でコンシュマーに直接販売するという何ともアレな手法が発覚し、昨今(ささやかながら)高騰してたガンプラの転売価格が値崩れを起こし、買い占め転売で小遣い稼ぎをしていた人々の顔がガンダムカラーになった今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
 東京2020オリンピックゲームズにかこつけて打ち上げられたガンダム衛星についてweb上でざっと収集できる情報をもとに説明と短評を加えた、一切の独自取材に基かないコタツ記事です。

事実関係

 web上で確認できる事実と短い説明を時系列で示す。

ガンダム衛星打ち上げ

 ガンダム衛星(G-SATELLITE)は日本時間2020年3月7日にSpaceX社の無人宇宙船ドラゴン1(Dragon 1)のミッションCRS-20(SpX-20) に搭載され地上を離れた。ドラゴン1はその後国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングし、積み荷を移すことになる。
 この衛星はキューブサット(CubeSat)と呼ばれる直方体衛星規格に則っている。キューブサットは打上時から放出時までのサイズが規定されており、短辺は10cm、他辺は短辺のn倍で、nは1から3である。
 ガンダム衛星は10cm*10cm*30cmの3Uサイズである。

東京2020オリンピックゲームズ開催延期決定

 2020年3月24日、内閣総理大臣がいち興行主に対して便宜を図ったうえで協議を行い、興行の開催延期を決定した。

ガンダム衛星軌道投入

 2020年4月28日、G-SATELLITE はISSの「きぼう」実験棟に備わった小型衛星放出機構(J-SSOD)から放出された。衛星運用サービスプロバイダはSpace BD株式会社。COSPAR IDは1998-067RK。

ガンダム衛星2号機打ち上げ

 2021年6月4日、ガンダム衛星2号機はSpaceX社の無人宇宙船カーゴドラゴン2(Cargo Dragon 2)のミッションCRS-22(SpX-22)に搭載され地上を離れた。カーゴドラゴン2はその後ISSにドッキングし、積み荷を移すことになる。
 なお興行公式webページおよびJAXA webページにおいて2機目の存在について一切言及していない。なお"ガンダム衛星2号機"はこの記事で便宜的に付けた名である。他所では通用しない。

ガンダム衛星2号機機軌道投入

 2021年6月22日、ガンダム衛星2号機(BD-28)はモーリシャスのキューブサットMIR-SAT 1 とともにISSのJ-SSODから放出された。衛星運用サービスプロバイダはSpace BD株式会社。COSPAR IDは1998-067SP。

東京2020オリンピック開催

 2021年7月23日から2021年8月8日まで。パラリンピックは2021年8月24日から9月5日の間である。そして娯楽が飽和した時代の子供に夢を与えた(迫真)。おじさん子供じゃないからわからない。

応援宣言

 プログラム公式サイトにて2021年8月30日付けで状況報告記事が投稿された。全文を転載する。税金使って開催してるんだからいいでしょ。

>超小型衛星G-SATELLITEの状況報告
>2021.8.30
>超小型衛星G-SATELLITEは、東京2020大会を応援すべく2020年4月28日に宇宙空間に放出されました。
>地球低軌道を飛行しながら、応援の準備のため各機能を立ち上げていく過程で、格納状態のガンプラ2体の状態を確認する写真撮影、その画像の地球への送信は成功しました。
>しかし、ガンプラ2体の宇宙空間への展開、および電光掲示板の稼働が行えず、復旧を試みましたが衛星内電子機器の不具合により稼働しないことが発覚しました。
>宇宙から応援を送るという本プログラムの意志は変わらず、超小型衛星G-SATELLITEはガンダム、シャアザクを載せて今も地球低軌道を周回飛行し続けています。
>※格納庫に設置されたカメラにより宇宙空間で撮影されたガンダムの姿

 Wayback Machineのログによると8月15日から9月5日の間に掲載された事がわかる。

証拠隠滅

 東京オリンピック2020興行に関するウェブサイトはG-SATELLITEの公式ウェブページともどもweb上から消滅した。2022年3月8日現在、ドメインにアクセスできない。平和の祭典ならずっと置いとけばいいのにね。平和が嫌いなのかな?

https://participation.tokyo2020.jp/jp/oneteam/08.html

逃亡後

その他発表・報道・参考ページ

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00064.html

https://rlist.io/data/46982896/gsatellite

当事者外の状況

掃き溜めs

 5ちゃんねる掲示板ではスレッドが立ってから100レス付いた後に沈んでいった。全く注目されないよりはずっとマシだろう。

 まとめBlogでも取り上げられ、こちらでは「そもそも知らなかった」「こんな事よりガンプラ作れ(転売屋による供給不足問題が燃えていた時期だった)」「中抜きで開発費が無かったのだろう」などと言われたい放題である。
 「意味のない研究などない」
 といった意見もあるが、ガンダム衛星は本当に意味のある研究だったのだろうか?
【悲惨】ガンダムを宇宙に打ち上げるプロジェクト、失敗していたのが判明し無事宇宙ゴミへwwww - ガンダムブログ(情報戦仕様) (gundam-futab.info)

まぎらわしい情報

 その筋のウェブページではBD-28とMIR-SAT 1のCOSPAR IDが定まっていない。UNOOSAではMIR-SAT 1に1998-067SNを、BD-28に1998-067SPを割り当てている。https://www.space-track.org/https://www.n2yo.com/ではBD-28に1998-067SNを割り当てている。Gunter's Space PageではUNOOSAと同じCOSPAR IDを紹介している。
 この記事ではUNOOSAの登録情報を採る。

https://www.zarya.info/Diaries/Launches/Launches.php?year=2021

HiZ-GUNDAMは無関係

 ガンマ線バーストを用いた初期宇宙・極限時空探査計画HiZ-GUNDAMは全く無関係である。とはいえさすがにこの件と混同している人は見たことがない。
 商標法的にはセーフだが、変な所で波風が立ちそうな名前である。

http://www2.nao.ac.jp/~scjastphys/mp2020/presentations20180913/HiZ-GUNDAM_180913.pdf

ツッコミどころ

そもそもこれガンプラじゃないよね

 残念ながら一般に市販されているガンプラキットとガンダム衛星は殆ど関係ない。

https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201905150001292.html

 ガンダム衛星に搭載されたスタチューはメインストリームグレードの1/144(全高125mm前後)よりも小ぶりな1/200とされており、どの市販ガンプラとも異なる。また材質は耐熱性などの都合から3D UVプリンティング造形などに使われるハイテンプ樹脂(High Temp Resin)を用いている。ガンダムのプラモデルという文脈でのガンプラとは到底呼べない代物だ。

 まるで市販プリウスとゴリゴリにチューンされたスーパーGTプリウスを並べて両方同じプリウスだと言い張るようなものである。いや、コンポーネントどころか骨組みから全く別物なので、台湾製のバッタものガンプラの方がポジション的には近いだろうか。台湾製バッタものとの違いは、使用許諾を取っている点くらいだ。

 なお商標法的にガンプラ(またはグンプラ)の商標区分に人形が含まれるため、ハイテンプで作ろうがチタンで作ろうがヌイグルミであろうが、キットであろうがなかろうがガンプラの名の排他的使用権の範囲内である。バッタものダメ。ぜったい。

ガンダム衛星2号機は本当に存在するのか?

 前述のとおり公式では2号機の存在を明かしていない。
 そもそもガンダム衛星2号機の存在は以下の投稿から浮かび上がってきた。

>The mystery 'BD-28' commercial satellite deployed from J-SSOD-13 on ISS on Jun 22 is actually G-SATELLITE 2. The satellite is owned by OneTeam, a collaboration of Tokyo U's Nakasuka Funase Lab and various companies. @planet4589

https://ria.ru/20210702/sputnik-1739676204.html

 UNOOSAの登録情報は以下のよう。1号機1998-067RKについては用途が明確に示されているが、2号機と思われる1998-067SPについては何も記されていない。

G-SATELLITE 1998-067RK
BD-28 1998-067SP

 UNOOSAの登録情報からBD-28がガンダム衛星2号機であるとする証拠は見当たらないが、矛盾する情報もまた登録されていない

 ガンダム衛星1号機オリンピックゲームズ開催数か月前の4月下旬に軌道投入するという当初スケジュールから、衛星の寿命を数か月とし、また副ミッションとして搭載した電光板にメッセージを表示するとのことであったので、大会期間中にSNS等で表示メッセージを募集、衛星に送信表示、カメラ撮影、画像を地上で受け取りSNS等で公開という運用もできただろう。

 地球低軌道上では主に太陽由来の宇宙線を受ける。この放射線は地上の被ばく量よりも圧倒的に高く、電子回路を物理的に破壊し、あるいは信号電圧に干渉することで誤信号の受信や誤動作の原因となる。放射線による悪影響を避ける為には放射線遮蔽、誤信号検出、機器の多重化、低密度な回路の採用といった工夫が考えられる。しかしこういった対策を行えば地上で同じ機能を果たす機器よりも嵩が増し、質量が増加し、性能は低下する。地上で再現が難しい要素では開発と試験の手間を増え、サイズの増大は打ち上げコストに跳ね返る。
 時代は遡るが、地球低軌道よりも強い放射線の降り注ぐ月軌道での月測地を主任務としたLunar Reconnaissance Orbiter(LRO)(アポロ着船を撮影したことでも有名)のLunar Reconnaissance Orbiter Camera(LROC)カメラユニットは16.5kgに達し、平均割り当て電力は27.6Wとしている。感覚的な参考までに1Uサイズキューブサットの発電能力は2W強程度である。

https://www.fit.ac.jp/~tanaka/FITSAT/Kenta.pdf

https://lunar.gsfc.nasa.gov/library/lro_space_science_paper.pdf

 僅か3kg未満の3U衛星に万全の宇宙線対策を施すのは困難であり、寿命を削って小型軽量な機器を積むのが当然の判断になる。

 またISSから放出し軌道制御を行わない場合は軌道要素的に数年で地球へ落下するため、そもそも何十年も運用できるような設計を目指すべきではない(副次的に可能なら理解できる)。
 キューブサットはこうした性質のものであるから、興行開催延期が決まった時点で1号機によるサービスに見切りをつけ、2号機の打ち上げの打上げに向けて準備するのはごく自然の流れだ。

 以上から、2号機が存在するという確たる証拠はないが、2号機を軌道投入しなければ当初予定したサービスを催行できず、よって2号機を軌道投入したと考えた方が合理的だろう。

大会終了後に謎の応援宣言

 事実上の失敗告知がリリースされたのは8月30日付け。8月8日の閉会後である。ゲームが終わった後に応援宣言する神経がちょっとよくわからない。
 2機目もミッションを遂行できず、作動の為に試行錯誤しているうち興行が終わってしまったという感じだろうか。応援宣言には1号機の展開前画像しか添付されていないことから、2号機はそれよりも前のフェーズでコケただろう。展開前撮影フェーズか、ヘルスチェックフェーズか、通信確立フェーズか、地上設備側の問題か。私のような外野からは何もわからない。

 早めに敗北を認め、1機目の画像を使ってお茶を濁す手もあったのだろうが、2号機の運用を諦めきれなかったのか、はたまた契約上の問題や人間関係上の問題があって意思決定が出来なかったのか。この件について興味があるマスコミ関係者がいらっしゃれば、真実が闇の中に沈む前に取材してみてはいかがでしょう?
 ただし少なくともこの記事に書いてあることとリンク先資料の全てくらいは最低限理解してから行かないと失礼になりますよ。無知の突撃取材ダメ。ぜったい。

これスペースデブリ?

 スペースデブリとは自然の流星物質や運用停止衛星、運用を終えた打上機や宇宙船またはその一部、意図的または非意図的に軌道投入された人工物である(日本のwikipediaには自然物質と人工物を分けると書いてあるが、根拠不明で勝手な区分である。おそらくデブリ回収ビジネス界隈の人がスペースデブリの増加率を大きく見せる為に自然物質を排除したのだろう)。要は軌道上にある運用中の人工衛星と宇宙船、そして小惑星未満のサイズの天体をスペースデブリと呼ぶ。軌道上物質という意味でスペースデブリも運用中衛星や宇宙船も一緒であり、異なるのは自力で衝突回避が可能なものが混ざっている点と、資産価値の高さの2点のみだ。極論すれば資産価値の低いものがスペースデブリである(そんな定義はない)。

 ガンダム衛星は主ミッションこそ達成できなかったものの、一応運用(通信)できているのでスペースデブリの範疇ではない。一方でキューブサットはその小ささが故に軌道制御力を持つのが難しく、実際のところほぼ全てのキューブサットは自律軌道制御を行えない。つまるところ高資産価値宇宙船である宇宙ステーションや物資輸送船、人員輸送船、または高価な人工衛星にとって、キューブサットは運用中でも"避けてくれない低資産価値のお邪魔"である。
 ISSから放出したキューブサットは単純に初期の軌道高度が低く、そこに被る低離心率の人工衛星の数はさほど多くないし、放っておいても勝手に数年で地球へ落ちるので、その脅威度はさほど高くない。とはいえ輸送事業者や人工衛星運用者が回避するべき軌道上物質の一つである。
 2機のガンダム衛星は2022年3月8日現在それぞれ、1998-067RKは近/遠点高度334/338km、1998-067SPは395/401kmである。どちらも数年内に大気により減速し、降下し、霧散するだろう。

一発で上手くいくと考えていた?

 今から振り返ればこういう後知恵も思いつく。結局2機も軌道投入するくらいなら、最初から2機同時に軌道投入しておけば1機故障時にバックアップを保持できたのでは?
 オリンピックゲームズの開催は国際公約(笑)であり、人類あげて国家あげての平和の祭典(笑)なのだから、それくらいの工夫をしてしかるべきではないか。3機でも4機でもよかったし、同じミッションを与えた別設計の衛星を同時に軌道投入する事で確実性を増すこともできただろう。 

 平和の祭典。本気でそんな事を考えているナイーブな人間はわりと多いのだが、プログラム関係者に限って言えばそういった幼稚な集団幻想は「利用すべき対象」であり、全く信じてなどいなかったのだろう。手の届く範囲でガンダム宣伝費を支払い、手の届く範囲で研究開発を行い、決済の為の政治的コスト削減と宣伝効果の最大化に興行を利用したのみ。関係者の名誉を傷つけない最善の方法は、愚かなオリンピックゲームズ熱を利用したと断じる以外に思いつかない。
 いや、傷ついているか。貴族趣味のバカ騒ぎに乗じたのだから、少しくらいは痛い目に遭ってください。

 結局主ミッションを達成できなかったとはいえ、展開前撮影(衛星側の制御信号受信とデータ送信、そして地上局運用)は上手くいったようなので
>「ダイハードな衛星を目指せ」
 この点は達せたと評せよう。

オリンピックとコラボして得した?

 自前の衛星は金次第という時代である。1U衛星ならプロバイダに1000万円も出せば受け入れ試験のうえISSから放出してもらえる。設計製造費は別途支払う必要があるが、ミニマムな自作衛星なら実費数万円で組めるし(技術費は数桁高い)、他者と機能を相乗りすれば負担の分散になる。そんなわけでわりとパーソナルな(結婚祝い衛星WARP 01 (Nichirin) 1998-067SAなど)用途の衛星も飛んでいる。
 無料打上枠となると狭き門だが、学術機関なら比較的容易に入り込めるだろう。オリンピックの威をかぶったプログラムであるため、猶更容易に無料打上枠に入れそうではあるが、プロバイダとしてBD社が入っているため無料というわけにはいかなかったのではないか。つまるところ運賃面でオリンピック効果は無かったのではないか

https://www.gsaadvantage.gov/ref_text/47QRAA18D004R/0SP5MI.3LRPFU_47QRAA18D004R_NRFAS.PDF

 オリンピックゲームズの興行スケジュールに振り回された衛星であった。1機目は打ち上げてから17日後に興行開催延期が決定。ISSから放出する時点で主要ミッションは用を成さない事が確定していた。この衛星の具体的な活用方法は明らかになっていないが、開会式やテレビ番組のコーナー等で撮影画像を用いる、DSN局を借り切って画像を高頻度更新するなどのサービスができただろう(普通はそんな事をしない。金の力でグーパンチ)。
 2機目を軌道投入した経緯は明かされていない。1機目が機能試験時に既に故障しており、2機目を投入せざるを得ない状況であったことは間違いない。たとえ1機目が正常動作したとしても、1年間の軌道上待機は想定していなかったろうから、2機目を打ち上げる必要はあっただろう。
 良く言えば興行の延期によりリベンジの機会が与えられたと言える。とはいえ通常であれば原因の洗い出しから再検討、再設計、再製造、再試験と踏むべきプロセスは少なくない。1年で改善できればわりとスムーズな範囲だろう。しかしガンプラ衛星は何が何でも1年後の興行に間に合わせる必要がある。
 また再設計再製造再試験となれば追加のコストもかかり、これをパスしなければ輸送事業者に託せない。最も容易な対処は抜本的な再設計を行わず、再試験を回避できるような小改変を施すか、全く改良を行わずに新造するか、無改造の予備機を使用する事だ。
 公式発表では電子機器不具合によるとしているが、2機とも展開撮影を達せずに不具合を起こしていると考えられるため、おそらく1年では手の施しようがないほどの問題があったのだろう。
 以上のことからオリンピックゲームズに足を引っ張られた衛星プログラムと言えるのではないか。

 一方でリベンジの話が出てこないあたり、東京2020オリンピックゲームズにかこつけて組み立てられたプログラムであり、北京2022を応援する義理も合理性もないし、ガンダムが独力でガンダム衛星を実現させる事もできないのだろう。そういう意味で東京2020オリンピックゲームズがあったからこそ実現した衛星プログラムであった。

 創通、東京大学、JAXA、JOCその他協力大学や協力企業、多くの大人の皆さんが寄ってたかって暗躍し、闇に葬られたこのプログラムはまさに夜のオリンピック。”日本のものづくり”と煽り立てたマスコミ様も含め、お疲れ様です。

類似点のあるプログラム

自撮り衛星RSP-01(COSPAR ID 1998-067SB)

 展開式カメラを用いて自撮りを行うキューブサットである。
 ガンダム衛星との類似点は、キューブサットである点(1Uサイズ)、ISSから放出した点、駆動部を持ち衛星の外形が変わる点、衛星自身の撮影が主ミッションである点、Space BD社が運搬サービスプロバイダを担う点である。
 リアクションホイールを搭載し、カメラは指令下でシャッタースピード調整機能を備えるなど1Uながらスペックの高さが目立つ。
 2021年3月14日にISSから放出された後に通信確立運用、そして撮影運用を行い、カメラ部の展開に成功低解像度画像取得に成功した。その後は高解像度画像を撮影し、データを分割送信中の2021年6月13日以降衛星からデータ取得ができなくなり、2021年8月以降は完全に信号を見失った。2022年3月現在はシステムのリセットを試みている状態だ。近/遠点高度は375/380kmである。

ソーラーセイル実験衛星LightSail-2(COSPAR ID 2019-036AC)

 太陽光圧で軌道制御を行う技術の実験を行ったキューブサットである。
 ガンダム衛星との類似点は、ガンダム衛星とほぼ同スケールである点(3Uサイズ)、駆動部を持ち衛星の外形が変わる点、衛星自身の撮影がミッションに含まれた点である。
 ソーラーセイルの展開に成功し、展開状態を確認するためのカメラ画像を複数取得した。遠点高度を上げる運用に成功した事がある一方、姿勢制御能力不足が明らかになった。2022年3月現在、近/遠点高度671/683kmである。

OPUSAT II HIROGARI(COSPAR ID 1998-067SG)

 折り紙状パネルの展開とその形状解析を主ミッションとしたキューブサットである。
 ガンダム衛星との類似点は、ガンダム衛星とほぼ同スケールである点(3Uサイズ)、駆動部を持ち衛星の外形が変わる点、衛星自身の撮影がミッションに含まれた点である。
 2021年3月14日にISSから放出された後にパネルとカメラパドルの展開および撮影画像取得に成功した。アマチュア無線帯を用いたメッセージボックスサービスを継続的に提供している。近/遠点高度は344/351km。

https://www.osakafu-u.ac.jp/osakafu-content/uploads/sites/428/pr20211207.pdf

妄想

 2020年8月9日、興行予定期間終了後にもガンダム衛星1号機は主ミッションを果たせず、四苦八苦する東大の衛星開発運用部。それを見かねたBD社がガンダム衛星の予備機を買い取り、自社保有のガンダム衛星2号機として打上費用自社持ちで軌道投入し、東大に運用を委託した。
 リベンジのチャンスを金で買えるなら金を出そうという判断だ。ガンダム衛星プログラムが成功して注目を集めればキューブサット打上の需要が増し、サービスプロバイダとして売り上げ増も見込める。これなら社内稟議も通るだろう。
 2021年6月22日にガンダム衛星2号機を軌道投入したもののミッションフェーズは1号機よりも手前で滞った。1号機で取得した画像をもってミッションの部分的成功とし、オリンピックゲームズ関連番組等で扱われる選択肢もあったが、それを蹴って2号機でのフルサクセスを望んだ。しかし2021年7月23日を過ぎても進捗は思わしくなく、興行終了日の2021年8月8日になっても動作不全であった。
 興行終了後も遅すぎたリベンジを果たそうと運用を試みたが、ガンダム衛星プログラム延長期限の2021年8月末日をもって応援宣言を出し、このプログラムの幕引きとなった。

足で藪をつつく

 学生や社会人チームが数々の実績を挙げるキューブサット。
 JAXA、JOC、東京大学、創通といった各分野で日本を代表すると言っても過言ではない組織が動き、富野由悠季氏、山崎直子氏といったお歴々まで雁首揃えて作り上げたその衛星は放出前からその目的を失い、デブリのようであった。
 何十年もの間に渡って宇宙ロボット漫画で戦艦を真っ二つにし、無数の人工都市を軌道に打ち上げることを食い扶持にしてきた人間も、現実の宇宙ではニクロム線の一本も焼き切れない。まったく哀れな玩具屋さんだ。

>東京2020大会が終了した後、衛星は1~2年ほどで地球大気圏に突入するので「宇宙デブリ」となることはない。アニメのガンダムは大気圏突入能力を有していたが、今回の衛星およびガンプラにその機能はなく、大気圏突入時に燃え尽きる予定となっている。

 いい加減な事を言ってはいけない。運用終了衛星はスペースデブリの範疇である。ディケイまで運用終了しないからデブリではないと言うこともできなくもないが、ガンダム衛星に関してはオリンピックゲームズに絡めた演出が主ミッションなのだから、実質興行終了後は用の無い衛星であり、スペースデブリも同然だ。

>国際宇宙ステーションからの、衛星放出後は1~2年ほどで地球大気圏に突入

 1年ですか。太陽活動が極端に活性化する事でも予測されたのでしょうか。それなら仕方ない。ガンダム衛星1号機の軌道投入は2020年4月28日。そろそろ2年ですが大丈夫ですか?早く落ちるといいですね。
 がんばれ!(ニュータイプパワーで軌道修正中)。

 いい歳こいた大人が大金使って嘘ばっかり言ってると、私はピキピキピーマンになりますよ。

 宇宙開発と一言に言ってもガンダムのように何もない空間に建造物を浮かべる方法の他に、月や火星といった天体の開発やメテオロイドからの鉱物採取も含まれる。ガンダムの宇宙開発だけを念頭にした宇宙開発批判は用語の使い方からして乱暴の極みだ。こういう玩具屋さんになってはならない。

 現実の宇宙開発の心配をする前に、玩具屋さんとして平和の祭典(笑)の為の演出をちゃんとこなせるようにお仕事をなされてはいかがだろう。

 まぁ私としては、虚飾の興行に右往左往する人々の醜態と、ガンダム衛星失敗というわかりやすいオチまで付けて笑わせてもらったので大満足だ。ありがとうがJAXA。ありがとうJOC。ありがとう創通。ありがとう東京大学。バッハの足の味は美味しかったですか?

わりと大事な追記 - COSPAR IDとデオービット

 orbit.ing-now.comのログによるとG-SAT(1998-067RK)は2022年4月17日に高度200kmを割り、同20日までに機能を失った。UNOOSAの登録データによるとorbit decayは4月18日。
 MIR-SAT1(1998-067SN)は2022年4月18日に高度200kmを割り、同21日までに機能を失った。UNOOSAの登録データによるとorbit decayは4月18日。
注)軌道データはorbit.ing-now.comの「MIR-SAT/1998-067SP」による

 MIR-SAT1と同時に放出されたBD-28(1998-067SP)は追記時の2022年8月21日時点で289*300kmであり、2022年9月14日頃には地球へ落下するだろう。飛行日数は450日程度となる筈だ。
 「紛らわしい情報」段で取り上げたIDの取り違えの件は飛行日数から答え合わせができる。1998-067RKが722日、1998-067SNが302日であり、同型衛星の減衰にこれほど大きな差が出るとは考えにくい。
 この差に納得のゆく情報がある。MIR-SATは展開式構造であり、これが正常に稼働すれば投影面積が大きくなり、一般的にはより強く大気の影響を受けて減衰が大きくなる。

MIR-Sat 1 - Gunter's Space Page (skyrocket.de)

 一方G-SATとBD-28の飛行日数は722/約450と釣り合わない。この証拠からBD-28がガンダム衛星ではない可能性と、フィギュアの展開には成功したがその他のシステムに故障が発生し機能を喪失した可能性、G-SATとBD-28が異なる仕様のガンダム衛星であった可能性が思いつく。ただし憶測に対応できる証拠はなく、現状は何とも判らない。ただBD-28が非公式の場でガンダム衛星2号機と言われていたというだけだ。

 ガンダム衛星の落下について触れられたTweetは以下1件だけ確認できた。

ISO00TENさんはTwitterを使っています: 「※未確認情報 東京オリンピックに合わせ 軌道上に放出された 「ガンダム衛星」は… 計算が正しければすでに落下… 大気圏内で燃え尽きたはずである。」 / Twitter

 関連企業、東京大学、IOC、JOCによるプレスリリースは発見できなかった。またマスメディアによる独自取材の形跡も発見できなかった。
 地球上でガンダム衛星の結末に注目していた人は手指で数えられる程度だったかもしれない。


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