見出し画像

雑記|クマハギ

山に入る時、動物の痕跡を見つけるのが楽しみの一つです。

誰の?はもちろん、そこで何をしていたのか。その動物にとって、その行動にはどんな意味があったのか。それとも特に、意味など無かったのか...。

養老孟子さん曰く、自然とは「人が意識的に作らなかったもの」。人とは異なる知覚で世界を認知して、彼らなりの"意識"があるであろう生き物達の世界を勝手に妄想しては、こっそり楽しんでいます。

去年は、"クマ剥ぎ"が目につきました。
初夏の頃、クマが造林木の樹皮を引き剥がして、その下(形成層)を齧った後にこんな跡が残ります。

造林木は一部でも傷がつくと商品価値が下がります。樹皮が剥がされ過ぎると、木は水を吸い上げられなくなって枯死します。

人の目からみれば「獣害」です。林業の分野では深刻な問題なので、上に書いたような「楽しみ」というのは不謹慎ですね(すみません)。けど、林業被害の話をしたいのでは無い、というか、そういう論文はたくさんあるのでそちらに譲るとして、「クマはなんでこんなことするのか?」ということを考えました。クマにも悪気があるわけでは、無いはずなので。

クマ剥ぎの理由は、「形成層にはほのかな甘みがあるので、これを摂取している」が通説です。つまり食べてるらしいです。ただ、"諸説アリ"です。

少し前の文献には、「将来の冬眠穴にするために、木に傷をつけて"洞(うろ)を作っている"」という説もありました。洞の出来にくい針葉樹に頻発することや、上の写真のように牙でこそげとるかのような跡が残ることから、"食べている"説が有力ですが、実際のところはクマにきいてみないとわかりません。

そもそも、クマ剥ぎの頻発する7月前後は、ヤマグワ、サクラ、キイチゴ等豊富な時期のはずで、こんなことしてまで木を齧る必要があるのか?と思います。疑問に感じたので、かつてのクマの先生(修論の指導教官)に見解を伺いつつ、予想してみました。

結論、おそらくは「食文化」のようなものではないでしょうか。つまり、樹皮の下の甘味に気付かない個体は一生クマ剥ぎをしないし、知ってしまった個体はクマ剥ぎを頻発する。子グマは母グマの行動を真似して知るので、クマ剥ぎは次世代に引き継がれる、という構図です。これなら、クマ剥ぎの発生頻度や被害密度に地域差があることにも説明がつきそうです。

人に置き換えるなら、なんでしょうね。国や地域によっては昆虫を食べますが、多くの人は敬遠する。そんな感じかな?

ちなみに「嗜好品」という可能性も考えました。コーヒーやタバコを誰もが嗜むわけでは無いのと同じイメージですが、栄養として摂取している可能性が高いので、ちょっと違う気もしました。

一応しっくりきたのですが、言葉を持たない生き物が、食べるもの・危険なもの等の情報を親子間でどのように伝達しているのか不思議でなりません。視力がよくない代わりに、嗅覚や聴覚がとても過敏な彼らには、世界はどんな風に映っているのか、いつかクマにきいてみたいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?