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麹の種類と分類

写真は豆麹です。ちょっと前回から間が開きましたが、今日は、麹の違い、麹菌の違いについて書いてみます。

麹の種類・3つの観点

さて、まずは麹の種類ですが、観点によって色々分けることが出来ます。ここでは『原料の違い』『菌の種類』『用途の違い』の3つを取り上げます。他の分け方もありますが、一般レベルならこの3つの違いを抑えれば十分かなと思います。

まず、原料の違いに着目すると「米麹」「麦麹」「豆麹」などと分類されます。米に生えれば米麹、麦に生えれば麦麹ですね。仮にコーヒー豆に麹菌を生やせば「コーヒー豆麹」、グリーンピースに麹菌を生やせば「グリーンピース麹」です。これらは試みとして製作されており、実験的、先進的なレストランなどではメニューで出ていたりすることもあります。

続いて、菌の種類に着目すると「黄麹」「白麹」「黒麹」となります。菌株ごとの特色の違いは、後ほど書きます。ここでは、麹菌は「黄麹菌」「白麹菌」「黒麹菌」がいると思っておいて下さい。焼酎などでラベルに「黒麹仕込み」とか書いてありますが、アレです。また、沖縄で豆腐よう等に用いられる「紅麹菌」というのもありますが、これは、いわゆる『麹菌』と違うので、この説明も後ほど。

最後に用途別ということで、これは「その麹をなんのために作るのか?」という基準で分けます。そのものズバリ、「味噌麹」「清酒麹」「醤油麹」「焼酎麹」ですね。

塩麹ブームの時に、「醤油と麹を混ぜた調味料」を「醤油麹」とネーミングして売り出されたことがありました。私見ですが、正直、これは混乱の元になったと思っています。元々醸造業界では「醤油麹」とは、「醤油を作るための麹」(主に割った小麦と大豆に麹菌を生やした物)だったのですが、一般消費者は「醤油麹」というと「醤油に麹を混ぜた調味料」だと思ってしまいました。

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上の写真が、醤油を作るための麹である「醤油麹」(写真提供:醤油ソムリエ黒島慶子さん)。下が、調味料としての「醤油麹」です。全然違いますよね。

今は、だいぶ落ち着いてきました、というより、違いがあることを知った上で、どっちの意味で使っているかを確認してから話しをするようにしていますが、一時期はアンジャッシュのコントみたいな状態になっていました。


というわけで、3つの観点がありますが、これは相互に矛盾しません。黄麹菌で、味噌を造るために、米で麹を造れば、それは「米麹であり、黄麹であり、味噌麹」ということになります。

極端な話、エンドウ豆に黒麹菌を生やしてあま酒に使えば(おいしいかどうか分らないけど)、その麹は「エンドウ豆麹であり、黒麹であり、あま酒麹」です。

黄麹、白麹、黒麹

さて、原料の違いや用途の違いはイメージしやすいかと思います。でも、黄麹、白麹、黒麹は実際に見てみないとわかりづらいところ。

S(醤油)-002

焼酎-002

AS(焼酎)-001

はい、上から「黄麹」「白麹」「黒麹」です。

「黄麹」といっても実際には黄色というより緑色をしています。この緑色を「麹塵色(きくじんいろ)」といい、昔は、高貴な色とされていました。9世紀、菅原道真の詩歌にも「麹塵」という表現が登場します。

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麹塵袍を着た後二条院の肖像(『天子摂関御影』、14世紀前半以前)

また、「白麹菌」は「白麹」といいながらも、オリーブ色に近い色をしています。「黒麹菌」は濃い焦げ茶色ですね。

先ほど「用途分類と種類分類は矛盾しない」と書きましたが、現実レベルでは、「黄麹菌」は主に、清酒、味噌、醤油の製造に使われ、「白麹菌」「黒麹菌」は主に焼酎や泡盛の製造に使われることが大半ではあります。

生物学的に見ると、この3種類、どちらもアスペルギルス属ですが、さらに細かく分類が分かれ、「黄麹菌」は主にはアスペルギルスオリゼーに属する物が多く、「白麹菌」「黒麹菌」はアスペルギルスルチエンシスという分類になります。この辺は次回もうちょっと詳しく見ます。

「黄麹菌」と【「白麹菌」「黒麹菌」】との間には大きな違いがあります。特徴的な違いは、焼酎や泡盛に使う「白麹菌」「黒麹菌」は、クエン酸を生成します。暑い九州沖縄地方では、焼酎製造の途中段階(「醪(もろみ)」という状態です。)で腐りやすいので、クエン酸を生成することで腐敗から守っていたのですね。近年ではクエン酸の酸味に着目し、清酒などにも使われたりなどしています。

さて、甘酒の麹や、スーパーなどで売っている麹って、真っ白ですよね?なので、あれが「白麹」と思われるかもしれませんが、あれは「黄麹」なのです。これもややこしい。

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これは「黄麹」なのです。

なんで、こんなことが起こるのかというと、「白麹」というのは、「黒麹」がもともとあって、それが色が白く変化した種です。元々の焦げ茶色と比較して、オリーブ色は薄いので「白麹」となります。

それに対して、我々がよく見かける写真のような真っ白い麹の多くは、まだ緑色の胞子が映えてくる前の段階なので白いのです。時間がたってくると、麹菌が生えてきます。

3日目4日目

発酵食品を造るときは、約丸2日(日数としては3日目)前後で麹の成長を止めて次の段階へ移行しますが、3日目を過ぎても成長させていると、このように緑色の胞子がたくさんつくようになります。

そして、ごめんなさい。さらに話をややこしくさせてしまうのですが、「黄麹菌」が元になって、色が薄く白色になった種というのも存在します。

味噌(白麹)

味噌(黄麹)

見ての通り、真っ白です。比較するとより分るかと思います。これは「黄麹菌の中でも特に色が白いやつ」という扱いなので、「黄麹菌」です。この菌で麹を造ると、色を持っていないので、もの凄く真っ白な麹に仕上がります。

色の変化がないので、お店屋さんの店頭に置いておいても「色が濃くなった」というクレームになることが少なく、業務用としては、あま酒はもちろん、西京味噌のような薄い色の味噌などにも、好んで使われることが多い菌株です。

生活実感としての「白色」に近い物が「黄麹」で、「オリーブ色」っぽいのが「白麹」だったり、「醤油麹」が2つの意味を持っていたり、色々ややこしいですよね。それだけ、麹が生活の中に根ざしているからこそ、それぞれの地域や産業ごとに名称が独自につけられるということなのかもしれませんね。

今日の話はここまで。

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