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Withコロナ時代の「コミュニティ」,「社会的処方」を考える


 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が蔓延している。4月18日現在で世界で15万人もの人がなくなり、日本でも感染者数が1万人を超えた。未曾有の感染症だ。COVID-19は死亡率が高く、集団免疫を獲得するまで観戦を続けると日本でも数十万人の死亡者が見込まれる。そのため、世界を始め日本でも、感染者数を爆発的に増やすことなく、医療崩壊を防ぎながら、ワクチンや治療法が確立するまでの間、耐え忍ぶ戦略が取られている。そのための三密であり、クラスター対策であり、外出を控える行動であり、自粛要請であり、ロックダウンである。逆にいうと、ワクチンや治療法が確立するまでの間は、たとえ日本の新規感染者数が落ち着いたとしても、クラスターを作らないような三密での行動を続けなければならない。少なくとも1ヶ月2ヶ月の話ではなく、年単位の話になる。僕たちは、Withコロナ時代を迎えることになる。そんな時代のケアとまちづくりはどうすればいいのだろうか。

 そもそもケアとまちづくりとは何か。詳しくはマガジンを読んでみてほしい。

 僕らは、人々のウェルビーイングを作っていくためには、医療者のみが発信するだけではなく、地域コミュニティに上手にアプローチするまちづくりのスキルを持った者が必要であると考えている。医療者が街に出て屋台を引いて健康の話をすることで医療に無関心の人ともざっくばらんに話すことができるし、病院の中に図書館やカフェを作って地域コミュニティの居場所にすることで病気になる前からケアについて考えるきっかけを作るといったことがケアとまちづくりだ。孤独はタバコと並んで最も人の死亡に寄与しているとも言われていることから、医療者がまちづくり関係者とマイノリティも参加できる居場所を作ることで人々の健康を作っていくことができる。こうしたコミュニティの処方を「社会的処方」という。

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医療福祉関係者が行うモバイル屋台de健康カフェの様子

 Withコロナ時代は、ケアとまちづくりにとっては逆風といえるだろう。医療者が街に出て行くこと、地域の人が病院や施設に入っていくことは感染のリスクになる三密であるからだ。実際に様々な人が訪れる病院や介護施設は軒並み面会謝絶である。子供たちが遊びに来たり、奥様がランチに訪れたりするような様子は全くみなくなった。僕らはどうケアとまちづくりを行っていくべきだろうか。人とのつながりが処方となる社会的処方はどうすればいいのだろうか。

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近所の子供達が集まる高齢者住宅 銀木犀も駄菓子屋を閉めた
写真は下河原忠通さんのfacebookより

 オンラインは一つの解決策だろう。三密を避けながら、人とのつながりを維持できる。現に、ミーティング、打ち合わせ、飲み会など様々なことがオンラインで行われている。これを機に普段あまりしゃべらない遠方の知人も飲み会に誘った方も少なくないだろう。僕もオンラインYATAI CAFE(モバイル屋台de健康カフェ)を行ってみた。様々な人が集まってくれて、ゆるく話をした。ただオンラインには課題もある。リアルで話すよりも情報量が少なく、講義はともかく数人での会話にはややストレスがかかる。ミーティングが終わったらすぐに回線が切れるため余白が少なく、雑談が生まれにくい。様々な課題はあるが、Zoom、Skype、Google hangoutなどのアプリの使い方になれていければ、ほどよい距離感のコミュニケーションができるようになってくることが予想される。人数が多くなればグループを分ける、大人数の場合、ファシリテーターがしゃべる人を指定するなどの方法が考えられる。グループにタイムラグなく分けられること、物理的距離が離れていても参加できること、その人の暮らしが画面上から感じられることなど、オンラインだからこその面白さもある。慣れれば、そういったメリットがより強く見えてくるに違いない。さらにより情報量の多い雑談に向いているソフトウェアも出てくるだろう。そうすればもう少し会話が楽になるはずだ。

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オンラインYATAI CAFEの様子

 そうしたオンラインの可能性が見えてくる一方で、オンラインの波の乗り遅れている人たちがいる。スマホを持っていない高齢者、障害を持った人たち、ネット環境のない世帯などである。ミーティングも打ち合わせも飲み会もオンラインになっていく中、もはやオンライン環境が使えないことが障害になっているといってもいい。すぐに対応しなければならない会社のような利益型コミュニティや若者を中心とした趣味型のコミュニティはオンラインに適応できているが、井戸端会議、高齢者サロンに集まっていた地縁型のコミュニティはオンラインが使えないとなかなかに厳しい状況である。僕の内科外来に来ている患者さんに話を聞いてみたところ、家でテレビを見たりしているようである。一方で、電話やLINEなど自分の持っている連絡手段で近所の方や家族に何度も連絡を試みている人もいるようだ。今ある古典的ツールで解決可能な課題はあるはずであり、こういった解決方法は素敵だ。本人ができる手段で家族や友人とのつながりを維持するようにおすすめしてみることも社会的処方といえる。医療者の人が見ているのであれば、ぜひやってみてほしい。僕は学生向けに体験ツアーを企画している方にZoomやSkype、Wherebyなどの方法をおすすめしてみた。

 オンラインもさらに進化していくに違いない。ケアとまちづくりにおいて、「つながり」だけではなく、「役割」や「生きがい」も重要である。それはオンラインでも変わりない。ただつながるだけではなく、オフラインでの関係性のような役割や生きがいをデザインできるかが鍵になってくるだろう。人との物理的な距離ができたことで生きがいを失いつつある患者さんがいればオンラインの世界への切符を処方することもケアではないだろうか。たとえば、オンラインでの絵画教室をやってみるとか、オンラインで駄菓子屋さんをやってみるとかだろう。よりオンラインツールの情報量が多くなり、人々がオンラインに慣れていくことでいいデザインが生まれていくだろう。社会的つながりを保った物理的距離(Physical Distancing With Social Connectedness)をどうデザインするか。それを考えることがWithコロナ時代のケアとまちづくりかもしれない。

 たとえば、僕はオンラインYATAI CAFEの一日店長を役割を失った人にやってもらうのも面白いかもしれない。オンラインで自分の役割だったお店の商品の説明をしてもらったりしてもいいし、雑談してもいい。オンライン化で生きがいをデザインしたい。

 また僕が住むまちでは、TOYOOKAEATSなるUbereatsのようなプロジェクトがスタートした。Uberは採算が取れないけど、休業した個人事業主を中心に買い出しに行かない/行けない人にテイクアウトする商品を届けるゆるい配達サービスだ。たとえば、このプロジェクトにケア関係者が関わることで、ケアとまちづくり的な活動になる。リタイア後の医療福祉関係者が配送するだけで高齢者の見守りになるし、近頃の暮らしや社会的つながりを聞くことでソーシャルバイタルサインの確認にもつながる。ソーシャルバイタルサインとは、生活背景、家族関係、緊急時の連絡先、地域とのつながりなど、患者をとりまく社会的な側面のことである。コロナで患者を取り巻く社会環境が大きく変化している中、ソーシャルバイタルサインを知ることは重要なことである。社会的つながりを保った物理的距離(Physical Distancing With Social Connectedness)をデザインできる。人は動いてはいけないがモノは動いてもいいはずだ。配達は面白い着眼点だと思っている。

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TOYOOKA EATSをはじめた渡辺瑞帆さんのfacebookより

 新たな感染者が出なくなってから獲得免疫ができるまでの1年程度は、ソーシャルディスタンスを保つことができれば外出、移動も構わないというフェーズになる。そのフェーズではオンライン以外もケアとまちづくり的な活動になりうる。2メートル空間をあけるというデザインをどうおもしろおかしくできるかはウェルビーイングに生きるコツかもしれない。

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コミュニティナース研究所より

 今はただ辛い時期だ。ケアとまちづくり、社会的処方のような活動には逆風ですが、社会的つながりを保った物理的距離(Physical Distancing With Social Connectedness)は存在する。変化する状況に合わせて、必要な物理的距離は臨機応変に取りつつ、つながりをデザインすることこそケアとまちづくりだと思っている。

参考文献
1)Bergman, D et al.Physical Distancing With Social Connectedness.March 2020(翻訳)
2)西智弘ら.社会的処方 孤独という病を地域のつながりで治す方法.2019
3)孫大輔.密山要用.守本陽一.家庭医が街で屋台を引いたら:モバイル屋台による地域健康生成プロジェクト.2018

(photo by hiroki yoshitomi


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