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小説とか詩歌とか

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幻視者になりたい。
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2023年12月の記事一覧

【詩】氷像

吹雪には吹雪の憂いが
神様には神様のてらいがあり
影すらも青白い氷像が
ひとりでにつくられる

それはあなたによく似ていて
あなたの指紋はしたたり落ちる

(第19回文芸思潮現代詩賞 入選)

【詩】デパート

緑光灯は死化粧のように
デパートを覆い
回転扉から
古い海の匂いがやってくる

家電売り場にいくつも映っている
象牙質めいたトランポリン選手
そのたくましい跳躍のあいだに
私は誰かの死を感じていた

あの日
遠雷があった日
寝具売り場に横たわる
あなたの妊娠線は
この世でいちばん美しいものだった

(第19回文芸思潮現代詩賞 入選)

【詩】変電所

私の背骨が燃える音を
どうかあなたが聞いてください

果実を沈めたくなるような湖に
変電所が埋まっているものだから
虚ろなコインランドリーの乾燥機は
かつて踊りに耽っていたのを
すっかり忘れてしまったようなのです

(第19回文芸思潮現代詩賞 入選)

【俳句】雑十三句(その二)

【俳句】雑十三句(その二)

カルディで珈琲しばく春の昼

瓶詰めの安納芋や春来たる

経年のaiboが踊る蝉時雨

海底を這う夢を視る夏木立

人形を組み立ててゐる夜長かな

そぞろ寒レンブラントの昏き陰

初嵐ざつくばらんに墓標立つ

表裏逆に着ていた赤セーター

寒の雨積もる話があるはずだ

音だけの世界にいたい冬景色

走つても孤独同士の木馬たち

人間が機械を演じるときは青

ほんたうに冷たいさうだ満月は

【俳句】雑十三句

【俳句】雑十三句

カーディガン葡萄酒めいて光りたり

珈琲をただしく蒸らす春隣

新緑のセロハンテープで指を切る

推敲を繰り返し繰り返して春

音楽堂すみわたるほどの無音

花疲れ社内メールの波来たる

どうしてもあの子が欲しい青嵐

泣きながらブランコを漕ぐ又従兄弟

提灯のひかりに紛れ死ぬ蛍

晩夏光ショート動画をスワイプす

熱帯魚水の一部になってゐる

ブローティガン甘酒を舐めるやうに読む

返り血をしづ

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