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過去との交感

思い出す

過去と現在が入り交じったり、(矛盾した言いかただが)リアルタイムでつながったりする映画が好きだ。

先日、ずっと観たいと思っていた映画「異人たち」をようやく観た。ハリー役の俳優を知っている気がして、ポール・メスカルで検索してみたら「アフターサン」がヒットした。

「アフターサン」は、娘がホームビデオを見ながら、亡くなった父親のことを思いだすというのが筋といえば筋だが、父親が亡くなったことは明示されない。役者の表情や、聞こえてくる会話の断片などから観客に伝わるようになっている。そのほかの事情についても、セリフや回想シーンでは示されないのに、「きっとこういうことだろう」と確信がもてる。ポール・メスカルは、その父親を演じた俳優だ。今回の「異人たち」の役でも繊細さが際立っていた。

二本に共通する点として「思い出すこと」を美しく描いていることがある。また、もうひとつ、私の好きな映画「秘密の森の、その向こう」という作品では、少女が自分の幼い母親に出会う。思い出すこととはちがうかたちで、過去とのつながりをもつ。

ひきつれて歩く

通りすぎてしまったら、そのときの自分は跡形もなくなってしまうと思っていた。が、実際にはいつもそばにいるのではないか。自分が集合住宅のようなものだとすれば、楽しい日々を過ごしていた自分も、つらい状況におかれていたときの自分も、みんな同じ建物に住んでいる。

しんどいとき、誰かに助けてもらえるとはかぎらなかった。他人から理解されづらい悩みを抱えながら、平気な顔で過ごした日々もあった。そのときの私を知るのは、私だけなのだ。過去の自分がふと現れて、涙やいらだちをあらわにしていたら、あなたのことをずっと見てきたし、これからも見ているということ、あなたがめげずに歩いてきたから、いまの私がここにいるのだと伝えている。

いま現在の、私の過去へのふるまいは、このさきも引きつがれるだろう。人知れず苦しい時間を過ごすとき、未来の私だけは、私のことを見ている。

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