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生きているってステキですね。 映画『風立ちぬ』解説 第1話

「お父様~」

軽井沢の高原を歩く二郎を、発見した菜穂子は、同じ方向にいる父親に向かって叫びます。(写真は、スタジオジブリの無料壁紙)

この二人の数年ぶりの再開は、菜穂子の一方的なものです。けなげです。二郎は菜穂子のことを覚えていません。しかし、大風が吹き、パラソルが飛び、二郎が受け止めることによってつながります。

折りかさなるモチーフの数々

ここまでの場面のモチーフをあげていきます。

漫画版『風立ちぬ』でも同じ様な場面があります。主人公二郎は、菜穂子に一目惚れし、緊張のあまり転んでしまいます。(おなじみの宮崎作品のパターンですね)

そうです。映画版とはシチュエーションが男女逆になっています。

写真の菜穂子は、モネの絵画をモチーフとしていると考えます。パラソルと洋服の色が一致します。この映画の目的の1つとして、モネに代表される印象派の絵画表現の映画化が挙げられると思います。

また、この映画の原作堀辰雄『風立ちぬ』の他、『菜穂子』『麦藁帽子』といった作品からも着想を得ています。

このように、『風立ちぬ』では前提条件を知っていると深く理解できます。

この記事では、宮崎作品の最難関にして最高傑作『風立ちぬ』を完全解説する事を目的にしています。(監督は、これを作って一度引退したので少なくとも傑作だと思ったのでしょう。)

本当の『風立ちぬ』の姿を皆さんにお伝えできればと考えています。語ることが多すぎるので、連載形式になります。

めくるめく宮崎駿ワールドへようこそ。

『風立ちぬ』企画書「飛行機は美しい夢」

まずは、2011年の『風立ちぬ』企画書を確認して映画のテーマを見てみましょう。

「零戦の設計者堀越二郎とイタリアの先輩ジャンニ・カプローニとの同じ志を持つ者の時空を超えた友情。」『ジブリの教科書18 風立ちぬ』(以下同)

友情がテーマに思えますが、実際には菜穂子との愛情をテーマとしているのがこの映画です。なぜでしょうか。

「やがて少年は東京の大学に進み、大軍需産業のエリート技師となって(中略)ゼロ戦は世界に傑出した戦闘機であった。」

続いて飛行機の話題ですね。宮崎駿監督は、飛行機が何よりも好きです。ジブリという名称もカプリオーリの軍用偵察機からきています。

「少年期から青年期へ、私達の主人公が生きた時代は今日の日本にただよう閉塞感のもっと激しい時代だった。」

閉塞感として、関東大震災、世界恐慌、貧困と結核、革命とファシズムなどが挙げられます。

「後に神話と化したゼロ戦の誕生をたて糸に、青年技師二郎と美しい薄幸の少女菜穂子との出会い別れを横糸に、カプローニおじさんが時空を超えた彩をそえて、完全なフィクションとして1930年代の青春を描く、異色の作品である。」

最後のまとめになって、やっと菜穂子が登場します。要するに、飛行機と社会の変化を描く映画であって、本来のテーマである愛はさりげなく描くということでしょう。

その為、注意深く映画を見ないと、飛行機を作るだけのお話のようにみえてしまいます。これは、企画段階から意識していたのでしょう。本作のわかりにくさの原因の一つです。

カプローニは、先生であって友人でもあります。彼との交流によって神話のゼロ戦を作る。そのためには、実は菜穂子が一番重要ということです。

ここで、気になったのは、たて糸横糸の例えを用いている点です。神話と織物。タペストリーで描かれる『風の谷のナウシカ』のオープニングを思い出してしまいます。

「お父様~」

解説に戻ります。

二郎は静養のために軽井沢に来ています。これは、自ら設計した飛行機の試験に失敗したためです。飛行機は空中で大破し、パイロットはパラシュートで脱出します。

一方の菜穂子は、病気のため悩んでいます。当時の結核は不治の病でした。

この写真の場面では、前述のとおり二郎がパラソルを受け止めます。飛行機で落ち込む二郎と病気で悩む菜穂子。この二人の再開によって、物語は進んでいきます。

つづく




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