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イラストレーターにとって東京が憧れの地であるワケ:アートディレクター、デイビッド・ロバート氏インタビュー

クリエイターから見た東京の魅力を探るべく、東京歴の長いアートディレクター、デイビッド・ロバート氏に話を聞きました。デイビッドは、雑誌The New Yorkerの象徴的なレイアウトからインスピレーションを得て、東京というフィルターを通して街の様子をアートに落とし込むコラボレーションプロジェクト『The Tokyoiter』の共同設立者でもあります。Y+Lにとっても親友的存在であり、ロゴデザインやブランド戦略の面で多くのプロジェクトで共に働く仲間でもあります。

文化やクリエイティブのメッカである東京をベースとしているY+Lは、国内外のアーティストと繋がることができてラッキーです。東京からのインスピレーションに満ち溢れている人、東京がホームな人、遥か遠くから東京に憧れる人。東京という街への愛で繋がるコミュニティがあるということは、とても刺激的です。イラストレーターにとって東京が特別である理由について、デイビッドとの対談をお届けします。

David Robert 写真:Alex Abian 

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簡単な自己紹介と、東京に留まることになったキッカケを教えてください。
名前はデイビッドで、フランス人アートディレクターとして日本に住み出して約10年になります。東京に来る前は、パリでブランディングに特化したアートディレクターをしていました。物心着く頃から絵と写真が好きで、自然とグラフィックアートを学び、グラフィックやイラストレーションに従事するようになりました。
2013年に仕事面でもプライベート面でも日本移住のチャンスが巡ってきました。当初は1年のつもりが、まだまだここにいたい!と思うほど東京に恋に落ち、その気持ちを持ち続けて今では東京に腰を据えています。

日本のイラストレーションは何が特別でしょうか?

日本はイラストレーションに溢れています。郵便局に地下鉄、カフェの看板はもちろん、クレジットカードにもイラストが絵描かれていますし、雑誌にも多いです。本当に、どこにでもイラストが溢れています。

写真:David Robert

日本でよく見るイラストの例として、有名なドン・キホーテと言うショップの手書きPOPがあります。イラスト付きの店頭POPパネル(キャラクターと特徴的な丸文字)のほとんどが手書きで作成され、店舗スタッフが作成を担当しています。このように、日本はイラストが身近で、非常に多くの異なる種類に囲まれていると言うのはかなりユニークだと思います。アートディレクターやイラストレーターとしては、とても刺激的な環境だと常々感じています。

手書きPOP Image credit

日本におけるイラストの歴史:
日本のイラストは12世紀に起源があるマンガと、江戸時代(1603〜1868年)に発展した浮世絵の影響を受けている。
マンガや日本のコミック本のイラストは、源氏物語などの12世紀の絵巻物や木版画、20世紀初頭の雑誌の影響を強く受けており、現代のマンガは、戦後のアメリカンコミックスやカートゥーンの影響をより受けている。
浮世絵は、江戸時代(1603~1868年)に初めて確立され、元来白いインクのみを使用した木版のインク印刷の一種である。これらの芸術作品は娯楽のひとつの形で、多くの場合(過去や未来のことよりも)現在の社会生活を描いていた。

アートがイラストになる理由:
Eden Galleryによれば、イラストはアイデアを説明したり描写したりすることを目的としており、必ずしもアーティスト自身の視点である必要はない。一方で、美術と絵画とイラストの違いについては今も議論が続いている。

イラストレーターにとって、東京がこんなにも特別なハブである理由は何だと思いますか?
街がイラストで溢れている環境は、まるで街全体が美術館のようです。地下鉄に乗れば、新築マンションのアニメーション、デパートのイラストポスター、コンピュータゲームのアートワーク、広報ポスターなど、さまざまなイラストスタイルを目にします。
小さなギャラリーもたくさんあり、ショーは1日のみの開催の場合もありますが、常にクリエイティビティに富んでいます。外国人として、自分の文化的背景とは異なる高度な寄せ集め感が際立った多くの珍しいものや予期せぬものに触れる機会があるので、自然と想像力を掻き立てられます。

Tokyoiterについて教えてください。Tokyoiterを始めたキッカケは何ですか?
2013年に日本に移住してから、グラフィックデザイナーやアートディレクターとして広告エージェンシーで働いてきました。当時は地元のクリエイティブに携わる人やイラスト関連のコミュニティーを知らなかったので、外国人のクリエイティブ界隈の人々が集まるPecha Kuchaや、現在は開催終了してしまったPause TalkPause Drawのようなイベントに参加するようになりました。

そういったイベントで国籍を問わずイラストレーターの人と出会い、交流が生まれました。お互いの作品を共有したり、ネットワークが広がることでより多くのイラストレーターと知り合うことにも繋がりました。そんな折に、やはりイラストレーターである友人のアンドリュー・ジョイスと出会いました。彼もまた、東京に関するプロジェクトでより多くのイラストレーターを巻き込みたいと考えているところでした。

『The Tokyoiter』の共同設立者Andrew JoyceとDavid Robert
写真の提供:David Robert

そこでお互いの東京でのアートコミュニティーをThe Parisianerのようなプロジェクト(イラストがカバーを飾る歴史あるThe New Yorkerへの敬意を示したプロジェクト)と融合することを提案したところ、二つ返事でプロジェクトが即動き出しました。

素晴らしい作品をぜひ紹介したいと思うお互いの身近な友人・知人に声をかけると同時に、The Parisianerにも丁寧に連絡をし、東京版を作りたい旨を伝えたところ、協力的にサポートしてくれました。The New Yorkerからは返事がなかったものの、ウェブサイトとインスタグラムのアカウントを開設し、現在では100近くのカバーが刊行されており、その数は増え続けています。

Iriya氏によるThe Tokyoiterカバーデザイン

セレクションやキュレーションのプロセスについて教えてください。
セレクションのプロセスは至ってシンプルです。自分たちのネットワーク内で声をかけるか、イラストギャラリー(galerie le mondeHB galleryなど)での展示や、TOKYO ART BOOK FAIRのようなイベントでアーティストを探します。時には、アーティスト側からの掲載希望の問い合わせもあります。
最近はSNSのフォロワーも増え、世界中のイラストレーターから掲載の希望があります。なので、こちらから探し回る必要はなくなりました!作品への敬意の他に、2つのポイントを大事にしています。

1. 作品を掲載するイラストレーターは、少なくとも一度は東京での時間を過ごしているか、東京に住んだことがあること。マンガの世界や外国から見た「カワイイ」文化のイメージ、サムライ、トトロのような、よくあるリアルではない日本のイメージを掲載することはしたくないのです。イラストレーターをインスパイアするものを求めているので、これは僕たちが譲れないゴールデンルールです。

2. アーティストに作品を依頼する予算は一切ありません。僕たちはそれぞれの仕事をしながらこのプロジェクトを運営している普通の人に過ぎません。あくまでも情熱のプロジェクトなのです。と言っても、オンラインショップでの売り上げは、イラストレーターに常に公平に分配しています。

Thomas Gilbaut氏によるThe Tokyoiterカバーデザイン

最近ではAIが自動生成するアートが話題になっていますが、カバーを選ぶにあたって変化はありましたか?例えば、TokyoiterはAIによるイラストを採用しますか?
良い質問ですね。つい最近アンドリューともその事について話したのですが、とても面白い議論でイラストレーターのコミュニティーでも旬なトピックです。僕自身はAIイラストに興味はありますが、Tokyoiterへの採用についてはまだ答えが出ていません。当たり障りのない解答になってしまいますが。
AIと言うのは、ペン、ブラシ、水彩、Photoshop、Appleペンシル、Procreateのブラシのようなツールなのです。ですから、とてもクリエイティブに使いこなすことも可能ですし、ただある作品をコピーする道具にもなり得ます。TokyoiterでAIを使った作品を絶対に受け入れないとは言いませんが、まずは作品が良く、クリエイティブであり、そして作品に対して誠実であると言うことが前提になります。

Tokyoiterにはインスタグラム等で多くのフォロワーがいますが、イラストレーターとクリエイティブに携わる人を繋げるのにどのように役立っているのでしょうか?
東京はクリエイティブ関連の人やイラストレーターにとってすごく魅力的な街なので、Tokyoiterは日本に興味があるそういった界隈の人に直接アピールすることができると思います。プロジェクトを応援してくれる方からたくさんのメッセージをいただき、ラッキーなことに世界中のとても才能溢れるアーティストから掲載希望の問い合わせをいただくようになりました。

長年大好きな作風だと感じていたアーティストからもメッセージをいただくことがあり、二人で始めた小さなプロジェクトが憧れの人からも注目してもらえるようにまでなったという事に感動します。

過去にはいくつか展示会も開催しており、実際に集まって作品のウラ話や込められたメッセージを話し合うのは常に楽しい時間です。

The Tokyoiterのもう一つの大きな功績は、プロジェクトが注目される事によって実際の仕事につながったイラストレーターもいる事です。そう言った瞬間に立ち会えるのは、とても誇らしい気持ちになります。元々、そう言った側面がプロジェクトの目的の一つでもありました。作品をシェアすることで、多くの才能が注目を浴びる手助けをしたかったのです。

James Daw氏によるThe Tokyoiterカバーデザイン

東京進出を夢見る新進イラストレーターにアドバイスをお願いします。
イベントやパーティーに顔を出したり、ギャラリーに足を運んでネットワークを広げましょう。周囲の人やイラストエージェンシーにできる限り自分の作品を売り込むのです。常に新しいアーティストが求められているので、とにかく自分の作品の露出を増やすのです。
繋がりが広がり、新しい友達ができ、クライアントが見つかるかもしれません。非常に競争率の高い業界です。なので、自分の作品とその露出にどれだけアクティブになれるかで、自分の選択肢が広がります。


今後の展望について教えてください。デイビッド自身、またはTokyoiterに待ち受けているものは何ですか?
The Tokyoiterはアートを楽しむプロジェクトとして開始後すぐに、印刷したものの購入希望について問い合わせがありました。それから長い間、常々ショップをオープンして欲しいという連絡をいただき、ベストな方法を模索した結果、ついに2022年11月にオンラインストアをオープンしました。

数年に渡り様々な方法を試した上で、最終的に限定カバーの季節ごとのリリースに落ち着きました。毎シーズン、コレクションから10枚の新しいカバーを追加し、各限定150枚のみのプリントです。​​​​​​毎月4枚の写真を掲載するイラストレーター向けのニュースレター形式である Pencilbooth newsletterも開始しました。非常にシンプルなメールボックス内の作品を直接見たい人向けのニュースレターで、SNSのようなアルゴリズムはありません。

新しいカバーやアートワークの舞台裏をシェアしているので、購読者は各イラストレーターのプロセスについて詳しく知ることができます。生活が「新しい」日常に戻りつつある今年こそ、展示会を開催したいと考えています。
Tokyoiterを通じて、自分は新しいイラストレーターを発掘したり、素晴らしい作品を管理、キュレーションしたりすることに非常に興味があることに気づきました。このプロジェクトに触発されて、日本のイラストレーターの作品を海外に売り込むためのエージェンシーを立ち上げることにしました。

The Tokyoiterの一部の表紙はオンラインで購入で来ます。
写真:David Robert

Tokyoiterで多くの才能と出会ったように、日本と東京には素晴らしいアーティストがたくさんいると信じています。彼らが海外で目に留まり、プロジェクトに繋がるのを手助けしたいと思っています。エージェンシーの名前はilastuoです。名前の通り、日本語のイラストという意味です。もし海外からこの記事を読んでくれていて、次のプロジェクトにイラストを使おうと考えている方は、ぜひilasutoを覗いてみてください!

詳しい情報はコチラ:

日本語編集・翻訳:中島 碧
英語編集:荒木エマ、ルーシー・デイマン


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