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「ジブリの中なら誰が好き?」の話

どうにもこうにも暇なとき、「〇〇の中なら誰が好き?」という会話をひとたびはじめてみると、ものすごく気まずい関係性の相手を除けば、暇つぶし程度には盛り上がる。

中学2年とか高校2年とか大学2年とか。
全国的に暇な人間が増える「2の学年」の頃。
わたしも例に漏れず暇で、「〇〇の中なら誰が好き?」という、何も生み出さず何も動かない会話を友人とよくしていた。

実はこの手の話はとても好きで、実際の好きな人の話をするよりもうんと好きだった。
本当の恋の話をする方が、問題解決ができて生産性が高そうだけれど、わたしと恋人の様子をいつも隣で見ているわけでもない人に相談したところで、その人にとっても「知らんがな」という感じだろうし、わたし目線の偏った情報からさらに偏ったアドバイスをくれるだろうし、何より恋愛の話をするというのは、わたしの最もやわな部分をさらけ出す行為であり、いざとなったらその場から逃走してしまおうと思うくらい恥ずかしいので、本当の恋の話はあまりしない。
そんなわたしでも「〇〇の中なら誰が好き?」トークなら、ちょうど鏡の中で目を合わせるときのように、ものを間に挟むことによる心理的安全性を得ることができるのだ。

ついこの間、ひさしぶりに『魔女の宅急便』を観た。
テレビを観ていたら、たまたまBGMで『海の見える街(キキが修行の場に選んだ町を見つけたときに流れる音楽)』が流れてきて、どうにもこうにも我慢ができなくなってしまい、昨年同居人が買ったジブリDVDセットの中から引っ張り出してきたのである。

そういえば、高校2年のころ、「ジブリキャラの中なら誰が好き?」という話題になり、みんなが「天沢聖司!」とか「ハウル!」とか言う中で、わたしは「トンボ!」と答え、全員から「えぇ~~!」と言われたのを思い出した。
わたしは熟考した上でトンボに至ったので、当時は「なぜこの者たちはトンボの良さがわからぬ」と不思議に思っていたが、今になって考えてみると、我々が大人になってようやくトンボの良さが身にしみるのであって、16歳のうら若い娘たちにとっては、メガネにそばかす、ダサい格好のひょろひょろにしか見えなかったのかもしれない。

ちなみに言っておくと、これは「実際に付き合うならトンボ」という話であって、「入学式で一目惚れするならトンボ」という話ではない。
わたしがトンボに至るまでには綿密なシミュレーションがあるのだ。


もしもわたしが「ジブリキャラに入学式で一目惚れするとしたら」、相手はアリエッティの翔くんだろう。
わたしは色白で線が細くてか弱そうな人に一目惚れしやすい。
窓の外で散っていく桜を一人で見ている翔くんの姿に一発で落ちると思う。
翔くんが入学式に出席していれば、の話だけれど。

けれども、奥手なわたしは数ヶ月たっても翔くんに話しかけることができないので恋愛には発展しない。
そんな中、「一緒に過ごしているうちにだんだんと好きな気がしてくる人」が現れる。耳をすませばの杉村、もしくはおもひでぽろぽろのトシオである。
一目惚れした翔くんとは打って変わって、色黒でガッチリとしていて「あいつって良い奴なんだけどねぇ」と女子に噂されるタイプである。
わたしはこのタイプの人間と妙に仲良くなりやすい。
悪いやつではない。ただどうも色気がない。恋愛に発展するタイミングを上手に逃す。そんなタイプである。
一緒に過ごしていると、それなりに楽しくてそれなりに居心地が良い。
「あぁ、これが本当の恋愛ってやつかぁ」などと思い始める。
入学式で一目惚れした翔くんに憧れつつも、数ヶ月後にはは杉村やトシオが「ちょうどよい」かもなぁ、と考えているのだ。

けれども、この手のタイプを好きでいる期間は短い。幼稚園時代の恋愛くらい短い。
恋愛とか、別に良いかなぁ、と思い始める。勉強も頑張りたいし、部活も忙しいし。何より友だちといるほうが楽しい。彼氏なんていらなかったわ。
不思議なもので、そう思った次の日くらいから急に恋愛の波がやってくる、というのはよくある話である。
「恋愛を諦めた瞬間からあれよあれよという間に付き合うことになる彼氏」、それが、魔女の宅急便のトンボなのだ。
ファーストインプレッションは最悪である。
魔女子さんとか言ってきて、頼んでもないのに助けてくれて、会うたび話しかけてくる軟派な男。
彼とは実は入学式の日にもう会話をしている。杉村やトシオよりも先に出会っているのだ。
けれども彼の距離感の縮め方が早すぎて、混乱したわたしは不快な気持ちを表現することでしか対応できない。
杉村やトシオと一緒にいても「魔女子さん、今日は飛ばないの?」とか言ってきて、翔くんを眺めていても「ねぇねぇ、何見てるの?」と聞いてくる。
そのわりに女友だちと妙に仲が良かったりして、「何よ、誰にでもああなのね!」と思わされる。
かと思ったらデートの約束に遅刻するわたしを大雨の中で待っていたり、落ち込んでいるわたしを何の気なしに気分転換に連れ出してくれたりするのだ。
裏表がなく、幼稚園児のころと同じ感覚で人と接しているがためにデリカシーがないと思われがちだが、本人には何の悪意もなく、何なら善意もなく、ただただ素直に振る舞っているだけ、というタイプだ。
そのことが理解できると、急激に好きになる。
ただの軟派男かと思いきや、何にでも好奇心旺盛で、ただただ「知りたい!」という気持ちだけで動いている。その相手が女の子だろうが飛行物体だろうが、すべて同じ気持ちで「知りたい!」だけなのである。こんなに純粋でいやらしくない人がいるだろうか。

だから、「ジブリキャラの中なら誰が好き?」と聞かれたら、「ダントツでトンボ」なのだ。
天沢聖司もハウルもとっても魅力的だけれど、なんだか「友だちの彼氏(めっちゃ良い人)」という感じ。
わたしはトンボのことを「デリカシーがないなぁ」と思ったり「やっぱり良い人!!」と思ったりしながら、のらりくらりと生きていきたい。


ちなみに同居人はトンボととってもよく似ていると思うのだけれど、本人はそうは思わないらしい。
わたしが贔屓目に見すぎているのか、彼が自分を客観視できていないのかは謎である。




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