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アローバース『アース・プライム』感想

DCコミックスより2022年4月から6月にかけて全6号が刊行された、アローバースのコミックシリーズ『アース・プライム』の各号感想。

お気に入り度:★★★★★ 5 / 5 


#1: バットウーマン

作品内容

「肉と泥」〔Flesh and Mud〕
バットチームがレナ・ルーサーの力を借りて、二代目クレイフェイスに立ち向かう。実写ではできずにいた『バットウーマン』と『スーパーガール』のクロスオーバー・エピソード。時系列は『バットウーマン』シーズン3 第7話と『スーパーガール』シーズン6 第20話の後。

「夜デート」〔A Night Out〕
夜、ルークがステファニー・ブラウンとの食事に出掛けるが……。『バットウーマン』シーズン2でいい雰囲気になったものの、テレビ本編ではその後全く音沙汰がなかったルークとステファニーの話。時系列は『バットウーマン』シーズン3 第5話の間。

感想

「肉と泥」は、邪悪な兄弟を持つ同士であるライアンとレナの絡みは勿論のこと、クライシスやパラゴンの話もあって、アローバース感たっぷり。アローバースを観たことがないコミック読者にアローバースを紹介する意図もあるという『アース・プライム』の一話目に相応しい内容だと思う。

初対面のライアンやルークに対して、カーラの名前を会話の中で出す際に「私の親友のカーラ」と云うレナは、やっぱりなんか重いな……!(それともアメリカ人の感性では普通のことなのかな?)

#2: スーパーマン&ロイス

作品内容

「記念日」〔The Anniversary〕
毎年自分たちの結婚を結婚日の4日後に祝っているクラークとロイスが、その由来である結婚一周年目での出来事を息子たちに語る。

「父の日」〔Father's Day〕
クラークが自らが記者を志すきっかけとなった亡き父 ジョナサンに想いを馳せる。

「野焼き」〔Controlled Burn〕
ジョン・ヘンリー・アイアンズが戦った漆黒のスーパーマンの生い立ちを描く。果たして、なぜ史上最高のヒーローは史上最悪の虐殺者と化したのか?

感想

漆黒のスーパーマンの気の毒な少年時代からヒーローをやっていた青年時代、そして人々を虐殺するようになってからを順を追って描いた「野焼き」は、パラレルワールドの過去が舞台という番外編の番外編ながら、テレビ本編の理解を深めてくれる。

ケント夫妻とは幼い頃に死別し、ジョー=エルからは愚かな地球人類を救済するよう促されたカル=エルは、クリプトン人共通の漆黒のスーツを身に纏ってヒーローとして活動し始めるが、やがて改善されない地球人に愛想を尽かす。漆黒のスーパーマンと青と赤の我らのスーパーマンの最大の違い、それは「地球人との繋がり」なんだろう。

そういえば、『スーパーマン&ロイス』には『レイン・オブ・ザ・スーパーメン』の4人の新スーパーマンのうち〈スーパーボーイ〉〈スティール〉〈エラディケイター〉に当たる人物が登場しているわけだけど、残る〈サイボーグ・スーパーマン〉に当たる人物はどうやら漆黒のスーパーマンらしい。なんたってコースト・シティを大爆発させている。

漆黒のスーパーマンがサイボーグ・スーパーマンの要素を持つキャラクターなら、今後テレビ本編にも本格的に登場して、ジョン・ヘンリー・アイアンズと再び相対する光景を見たいものだ。スーパーマンと同じ名前・外見・能力を持ちながらも邪悪なる者と、スーパーマンとは様々な部分が異なりながらもスーパーマンの精神を継ぐ者の因縁の対決、間違いなく熱い。

ところでこの号、発売から数ヶ月後に『スーパーマン&ロイス』がテレビ本編(シーズン2 第15話)で「実は『スーパーマン&ロイス』の世界はアース・プライムじゃない」と云い出したので、3話ともアース・プライムの話じゃない。つまり、『アース・プライム』は全6号中2号が丸々アース・プライムじゃないということになる。

DCコミックスが此度のコミックシリーズの名前を決める際に「『アロー』の話がないのに『アローバース』はなあ。かと云って、コミックなのに『CWバース』もなあ」と悩んだのは察せられるけど、果たして『アース・プライム』で適切だったのだろうか?!

#3: レジェンド・オブ・トゥモロー

作品内容

「(元)レジェンド・オブ・トゥモロー」〔The (Ex) Legends of Tomorrow〕
レイが音信不通となったレジェンズの救助に行こうと、現代にいる元レジェンズを集めたところに、ミックの子供たちとモナが誘拐される事件が発生する。時系列は『THE FLASH/フラッシュ』シーズン8 第1話から『レジェンド・オブ・トゥモロー』シーズン7 第12話の間。

「ブースターのお出かけ」〔Booster's Day Out〕
ブースターゴールドが消えた相棒のスキーツを探すべく、任務を抜け出す。時系列は『レジェンド・オブ・トゥモロー』シーズン7 第13話の間。

感想

個人的に此度の『アース・プライム』の物語の中では「(元)レジェンド・オブ・トゥモロー」が一番面白かった。テレビ本編では出番を終えた主役級のキャラクターたちがテレビ本編と同じノリで再び活躍する。外伝に何を求めるかと云えばこういうの、って感じ。

深刻で奇妙な騒動と並行して、レジェンズの同窓会や、親になることへの不安を抱いているレイの心情を描く。楽しい気分にもしんみりした気分にもなれて、実に『レジェンド・オブ・トゥモロー』らしい物語。ついでに後日談が唖然とするくらい突拍子のない終わり方をするところも『レジェンド・オブ・トゥモロー』らしい。

カーターのサベッジへの過剰反応は、カーターの人生を思えば過剰どころか当然なんだけど、サベッジが今では地獄のジェンガおじさんと化しているせいでどうにもこうにも面白可笑しい。我が子に「サベッジって名前の奴は信用しちゃ駄目だからな」って、そんな名前の奴はそもそも怪しいわ!

「ブースターのおでかけ」にも懐かしいキャラクターが登場していて、これまた嬉しかった。しかしこの話、テレビ本編の今後の布石を打っているのに、そのテレビ本編がシーズン7で打ち切られてしまったから、読んでいて切ないものがある。ブースターがまたアローバースに出れるといいな。スキーツと再会できるといいな……。

#4: スターガール

作品内容

「長旅」〔Road Trip〕
コートニーたちとひと夏の家族旅行中のパットのもとに、パットの昔の敵がある想いを伝えようと訪ねてくる。Stargirl Wikiによれば、時系列は『スターガール』シーズン2 第13話の後。

感想

『スターガール』のテレビ本編はまだ観たことがなく、特に内容を調べてもないから、「アローバースは観たことがないけど『アース・プライム』を手にとってみたコミック読者」の気持ちで読んだ。全然普通に楽しめる。勿論、テレビ本編を観ていた方が楽しめるのだろうけれど、日本未上陸で日本語化されてないから難しい。早く日本に来てくれ。

「長旅」はアース2の話ではあるものの、牧歌的でスーパーヒーローに溢れたゴールデンエイジの世界が描かれていて、ちょっと不思議な気分になった。『アロー』の初期の世界観とは全く対照的な世界観。アローの活躍がゴールデンエイジまんまの世界までも創ったと思うと感慨深い。

#5: フラッシュ

作品内容

「サイドキックの掟」〔Sidekick Rules〕
バリーとアイリスが夫婦旅行でセントラル・シティを離れた2049年、バートが姉のノラに叱られつつもヒーローになろうと奔走する。

「研修日」〔Training Day〕
アーガスの新米警備員が上司にスーパーヴィラン収容施設を案内される。物語は次号収録の「ファントム・パンチ」へと続く。

感想

「サイドキックの掟」はフラッシュ号のメインの回ながらも、主役はフラッシュ(バリー)ではなくインパルス(バート)とXS(ノラ)。二人ともテレビ本編で時々主役回があるとは云え、レギュラーになったことはないから馴染みはまだまだ薄い。けれど、せせこましい姉弟のキャラクター性とポップな画風のコミックは相性が良く、思った以上に楽しかった。

#6: ヒーローズ・トワイライト

作品内容

「救済者コンプレックス」〔Savior Complex〕
ヒーローたちに激しく敵意を抱くマゴッグが仲間を率いて2049年に出現。各地でマゴッグの軍勢とヒーローたちの戦いが勃発するが、ヒーローたちは戦いの最中に緑色の煙に包まれて次々と消えていく。残されたバートとノラはある人物にヒーローとしての力量を試される。

「ファントム・パンチ」〔Phantom Punch〕
アーガスの収容施設を脱走したスーパーヴィランたちに、ファントムガールとシスコが立ち向かう。物語は『フラッシュ』シーズン9へと続く。

感想

最終号。『フラッシュ』の脚本家が手掛けているせいか、クロスオーバー号というよりフラッシュ号の第2弾な内容。レジェンズもバットウーマンも全然出番がなくて残念。されど、「救済者コンプレックス」が作品の垣根を越えて各々集まったヒーロー軍団とヴィラン軍団の激突を描いていることには違いない。こういうクロスオーバーをテレビでも観たい。

2049年ではライアン・チョイは二代目アトムになっていて、ミアは片腕が機械になっているらしい。一体何があったんだ。クラークは旧アース38と同じくスーパーガールに後を託してスーパーマンを引退している模様。一方、ジェフはまだブラックライトニングをやっていて凄すぎる。レイはホール・オブ・ジャスティス組になったのかな? 椅子貰った?? やったね!

…まあ、未来の出来事がころころと変わるアローバースで「救済者コンプレックス」が正史で在り続けられるかは些か怪しいけれど。

「ファントム・パンチ」の方は直球でテレビ本編に続く内容だった。『アース・プライム』の最終話として多分相応しい。脱走したヴィランの中には何故かテレビ本編には出ていないグリーンランタンのヴィランがいたけど、あれは『フラッシュ』の現ショーランナーのエリック・ウォレスが『ブラッケスト・ナイト』の実写化を企んでいることと関係するのだろうかね。

総括

『アース・プライム』はこれまでのアローバースの外伝コミックとは一味違った。本編を補完する物語や実写では制作が難しい物語など、コミックという媒体ならではの物語がオムニバス形式で紡がれつつ、壮大なクロスオーバー・イベントへ繋がっていく。『クライシス・オン・インフィニット・アース』ぶりのクロスオーバーの興奮があった。

続編制作は現状決まってないようだけど、「救済者コンプレックス」を読む限り作家は続編を作る気があるらしい。是非とも期待したい。

もし続編が出るなら、今度はグリーンアロー&キャナリーズ号やペインキラー号もほしい。あと、「誰でもヒーローになれる」というメッセージを備えたアース・プライムを舞台とするのをやめ、スーパーマンしかヒーローがいない世界を描くのを選んだ『スーパーマン&ロイス』のことを一旦忘れて、アース・プライムのスーパーマンの物語を見たいとも思う。

…というか、『バットウーマン』と『レジェンド・オブ・トゥモロー』が「放送局のThe CWとしては続けたかったけど、ワーナーがスタジオスペースの契約更新をやめた」というあんまりにもあんまりな内容で打ち切りになってしまったので、もう本当にコミックに期待するしかない。どうか、続いてくれ!


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