君川優樹@『追放者食堂へようこそ!』

なろう作家。オーバーラップ様より『追放者食堂へようこそ!』書籍1巻とコミカライズ連載が…

君川優樹@『追放者食堂へようこそ!』

なろう作家。オーバーラップ様より『追放者食堂へようこそ!』書籍1巻とコミカライズ連載が進行中。

最近の記事

ある中華屋

「こんな所に中華屋があったのか」  今日の夕方、道端で『ラーメン・中華屋』という看板を黄色に点灯させる小さな中華屋を見つけて、僕はそう呟かなかった。  僕は生来独り言の少ない人間であるので、小説の登場人物のように、思ったことをひとりでに呟くことはほとんどない。これはつまり、「こんな所に中華屋があったのか」と心の中で思ったのだ。  入ってみると、店内はいかにも寂れた中華屋といった具合で、大体の味の見当が付きそうな雰囲気が漂っていた。こういう照明が薄暗くて、どこもかしこも古

    • 村上春樹はノーベル文学賞を獲れるのか?

      10月10日、つまり明後日にノーベル文学賞の受賞者が発表される。 選考関係者のスキャンダルによって前年の受賞者発表が見送られたノーベル文学賞であるが、今年は1950年来異例の2名同時受賞が予定されている。 そんな中で、毎年この時期に全国の書店を右往左往させている村上春樹であるが、今年こそは受賞することができるのだろうか。 ブックメーカーの予想ノーベル文学賞の予想でよく引き合いに出される、ブックメーカーの人気度を見てみよう。以下は英国の『ナイサーオッズ』、1位から5位まで

      • 読んでも人生は好転しないSF小説ベスト10 (10位~6位)

        ネット上に漂う無数のWEBサイトには、SEOの観点から効果的に読者を流入させるために設定された、過剰なタイトルが散見される。 たとえば「SF小説」でグーグル検索をかけた時、トップに躍り出るのは「死ぬまでに読んでおきたい・一度は読むべきSF小説〇選」といった具合のタイトルだったりする。 しかし現実問題として、どのような名作SFを読んだところで実際的な問題は解決されないし、生きていく上でSF小説の読書遍歴がプラスに働くことは無い。 「グレッグ・イーガンを全冊読破した」という

        • 『ジョン・ウィック:パラベラム』を見る前に。現代アクション映画史のおさらい

          私たちのキアヌ・リーブスがカムバックした。 こんな風に書くと、まるでキアヌが落ちぶれていたかのように聞こえてしまう。 しかし各所でそのように言われる程度には、キアヌ・リーブスの俳優としてのキャリアはステップアップせずに、言うなれば停滞していた。 キアヌについて皆が話すことと言えば、映画への出演や賞の受賞についてではなく、彼のちょっと変わったプライベートについてのゴシップばかり。俳優としてのキアヌ・リーブスはいわば古い伝説であり、面倒くさい映画オタクたちの心の中で生き続け

          『ジョーカー』 ありふれた暗黒と、映画がジョーカーに”到達”するまで

          『ジョーカー』の本予告編が公開された時、そのシリアスでリアルな雰囲気に興奮すると共に、私は一つの不安も感じていた。 「果たしてこのダークさは、ありふれた陳腐な物になってしまわないだろうか?」という不安である。 人の心の闇、もっといえば狂気を描いた作品というのは無数に存在している。挙げればキリがないほど存在している。そして実際、監督自身が『タクシードライバー』や『キング・オブ・コメディ』といった作品に影響を受けていることを公言しており、本作にはそのオマージュが散見される。両

          『ジョーカー』 ありふれた暗黒と、映画がジョーカーに”到達”するまで