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連作短歌

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ふだんの短歌です
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2020年1月の記事一覧

連作短歌「ひいらあり」

隕石が墜ちるカーテン裏返る男の指を忘れてしまう カーテンで終わるしりとり 概念としてのみ車内に浮かぶカーテン ひいらあり眼に音がとびこんでくるまあるい風がまわすカーテン

連作短歌「伝言があるんですけど」

ほかのことなんにも覚えていないけど夢で拍手をしていたような ちょっとした伝言を預かっていてしばらく死なないことを信じる 通勤の時間が数分のびそうだ。高輪ゲートウェイ駅のせい。

連作短歌「ジャーニーマン」

新しくはじまりましょう 旅立ったつもりないまま旅立っている 一月に大きな手帳を買ったけどほとんど何も書いてなかった 野望とか夢とか恋とか妄想は煩悩なので旅に出ましょう

連作短歌「ジオラマ」

平日に通勤定期を利用して都内の美術館から見た雪 透明な糸一本で吊るされてときどきゆれる月のかなしさ ジオラマの海辺の街に夜が来てこのままずっと夜なのかもしれない

連作短歌「パノラマ」

休日に通勤定期を利用して海のにおいのしそうな駅へ 神社からまっすぐ伸びる坂道の先がどう考えても海だ 海がパノ、ラマ風がパノ、ラマ僕が、パノラマ、アイデンティティがパノラマ

連作短歌「夜の球体」

夜の球体 離れたところにいるひととつながることも可能な時代 空間のにおいか水のにおいかわからない 顔を洗ってもう一度寝る まんなかに浮かんだ夜の球体の屋根より高い思い出のこと 海に合う髪型にして会いに行く 聞き覚えのある声で呼ばれる 暗い森で出会った少女に深呼吸を教えてあげて 夜の球体

連作短歌「みらい」

覚え合うことはそれぞれ別だけどいつか一緒に忘れ合おうね 真剣に答えたはずが笑われた 短歌の〈君〉はみらいのこいびと バイタリティーぼくろがほしい ラジオには知らない曲が流れててほしい 教員になって母校に配属されテストの誤植を黒板に書きたい 現状を追認してるだけですが気にせず騙されていてください

連作短歌「去年も今年もソール・ライター」

毎日を団子のように貫いて、去年も今年もソール・ライター 仕事はあるし暇ってわけじゃないけれど、いちばんおそい雲を見ている 伝わるか微妙だなあと思いつつ、推敲したところをもとに戻す 人生がスピンオフだと思えたら、なんだかとっても気が楽だなあ 思ったより伝わる、思ったよりキレられない、思ったより生きやすい

連作短歌「スピンオフ」

ひさしぶりに行くとセルフになっていた 雨じゃないのに雨のにおいだ ほんとうにきみのもんかよおぼろげな昨日の夢で撫でた頭は 同窓会みたいでスピンオフみたいな夢のおもいでばなしする夢 寝てるのに無理矢理起きて顔洗う社会人ってこういうことか パターンがすこし複雑すぐ青になったりなかなかならなかったり

連作短歌「雪なのに真夏」

溶けないアイス解けない数式おわらない夕方だれもいない校庭 雪なのに真夏で君の口だけがうごいてなにも聴こえない夜 底冷えの京都の祖母の住む家に屋上がありオルガンが鳴る 違うけど似ているけれど同じじゃない 第三希望まで埋める進路 五時間目家庭科室の木の椅子に座って眺める窓の外。雪。

連作短歌「春なのに秋」

狭い道で黙って縦になるだけの僕ら違った出会い方なら 春なのに春の短歌はできなくて秋とか冬の短歌ばっかり 戦争をやっているのに僕たちはどうして仕事睡眠短歌 ずれていく壁掛け時計の秒針のふるえも意味ありげに見えてきた おたがいが生まれ育った幼稚園時代のはさみを見せ合っていた

連作短歌「説明しにくいものについて」

やさしさとおもいだしたらいうわとで溢れるような世界であれば 歌ってるように喋って喋ってるように歌って去る人、君は もう僕の言い淀むときの沈黙も待っていてはくれないんですね もうすでになにかがちがう一昨日に書いた言葉がせつなく見える 後悔は生きていないとできないと誰も言わないなら俺が言う