マガジンのカバー画像

連作短歌

910
ふだんの短歌です
運営しているクリエイター

記事一覧

連作短歌「ストレッチ」

驚いたことほど記憶に残るって仮説で君と会うたびに寝る すごく強いテコ入れをしてこの里に残るやわらかさを胸に貼る 卒業のことをときどき思い出す 行事ではなく感情のこと

連作短歌「ごぶごぶ」

逆戻り ポップアップで買ってきたキーホルダーが小指に似合う お互いの責任だから反省も後悔もない花火大会 順番が回ってくるのを待っていた感じになって時間をあげる

連作短歌「🍑」

怒られた思い出のある公園を今日も横目で見ながら歩く 後ろから見ればこんなに素晴らしい人生だって笑う桃園 空き店舗を見かけるたびにちょっとだけ妄想しちゃう あいつのせいで

連作短歌「アキへ」

心理的視野狭窄という言葉 夕焼けに立ち夕焼けを見る 秋の朝テイクフリーの箱のなか昨日まであった茶碗の不在 あきらめが得意なほうだと思ってた自分が自分で意外な徹夜

連作短歌「なし」

転職に失敗したり失敗に失敗したりした二十代 友達が店員だからコーヒーを頼むとくれる果物が梨 雷の塗り絵があれば忘れたい人をそれぞれ色にしてゆく

連作短歌「しゃっくり」

銃撃のニュースのあとでこの夏の危険な暑さを終わらせる風 階段を降りたら夜が濡れている なんでもいいのに選ばれないで 新潟に行った知人のエピソードトークの終わり際のしゃっくり

連作短歌「表情管理」

話されている内容は話したい内容だった時点で古い 正しさにたまたま沿ってた性質をだからといって大音量で 水族館の族ってなんだそれだけで次に会うまで考えている

連作短歌「底」

ちょっとだけ大事なことのほとんどは地下道を歩きながら伝えた 退屈がこびりついてるこの窓をどんなに染めても無駄よ 紫 部分的に愛せる人らを出会わせて出会わせてつくる柔らかい椅子

連作短歌「開き直り」

実物はいつも見劣りしてしまう私の思い込みのほとんど 我慢してもやしをたべる 我慢して残り時間が過ぎるまで居る 夕方の重い空気を引きずったような会話にまた泣かされる

連作短歌「シークレット」

いまどきのたのしいことをこっそりとおしえてくれるはとこのなぎさ わるくない趣味のいくつかあるけれど早くおわってほしい毎日 広く浅い海と流せば絶対に泣ける動画で生きるを延ばす

連作短歌「揉み返し」

梅雨晴れのナイトゲームに憧れてソロホームランにまた憧れて 流星群 わかる悪口わからない悪口これはこれで賑やか 金縛りかと思ったら揉み返しだったみたいだみんな気をつけろ

連作短歌「再現できなくて」

この人は最初からいたこともなく最後までいたこともないよな 二年前ならば違ったわけもなくそれをあと何年やればいい 坂道が組み合わされてさっきまで泣いてたことは有耶無耶になれ

連作短歌「急に藤棚」

木があって歩道があって橋がある音が聴こえるそのままの音 アーケード商店街へ連れていく途中の道に急に藤棚 会話しながら歩いてる人を見ていると体験してみたくなる

連作短歌「わすれる。」

今朝もまた憶えていないふりをして都合がいいと思ってもらう この足に染みついている目的のない歩き方ここぞとばかり 山手通りに積雪の朝ほとんどの通行人が自分に見える