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卒論の指導-How to train your dragons

 こんにちは。イリノイ大学の山田かおり (@KaoriYamada01) です。自分の研究室を開いて2年、仲間を集めるエピソードや研究機器を集める件のnote記事の他にも、普段の研究生活のどたばたなどはTwitterでちょいちょい呟いています。私が結構しょっちゅううちの子自慢をしているので、どうやって指導をしたらそんないい子達が育つのか?とご質問をいただきました。あの子達はもともといい子達なんだよね、と言ってしまうと話は終わってしまうので、一応考察をしておきます。

日米そもそものシステムの違い① ラボ配属

 (私が学生をしていた頃の) 日本では、学部4年生になる前に卒業研究をする研究室への所属が決まりました。全員がどこかのラボに所属するわけで、希望が一つのラボに集中すれば、ジャンケンなり話し合いなりなんらかの方法で、人数をばらけさせます。その結果、希望していない研究室に配属されることもあるわけです。また、学部卒で就職する場合は就職活動でろくに研究する時間が取れなかったり、修士に行くにしても修士卒で就職する場合は就職活動で忙しかったり、なかなか研究に集中させたい指導教官と、集中できない学生の間で温度差があることもあるかと思います。

 アメリカ (の私が所属している大学の学部) では、学部1年の頃から、研究経験を積みたい学生さんが、教官にアプローチしてきます。教官のほうも研究室紹介を登録しているんですが、それを見てここは面白そうと思ったら割と軽い気持ちでアプローチしてきます。ラボ経験で単位が取れますので、ボランティアでラボの手伝いをしながら研究経験を積む、というのがひとつ、パートタイマーでお小遣い稼ぎをするというのが、もうひとつです。PIと学生さんとのそれぞれのケースバイケースです。
 うちの学生さん達は、お金ではなく研究への興味で来ていますので、時給つきの退屈な下働き (お皿洗いとか) よりは、ボランティアでもいいのでなんか面白い研究っぽいことをしたいということで来ました。ピペットの使い方などは授業で習ったらしいけど、DNAもたんぱく質も細胞もネズミもさわったことはない、という状態。1-2週見習いとして技術を一から教えて、いけそうだと思ったので、時給を払って仕事をしてもらうように手続きしました。時給はPIの研究費から出ますが、大学からのフェローシップで時給分を賄うこともできます。私は学部生たちがしてくれる仕事で助かってる部分がある=価値があると思うから時給を払ってますが、このあたりはそれぞれのPIの考え次第ですのでここでは議論しません。

 学生さん達はもともと興味があって来ているので、やる気があります。また合わないな、やる気がなくなってきたな、となると辞めることもできます。彼らが参加してくれたのは学部2年か3年かくらいの頃でした。最初は私のプロジェクトの論文を出すとか研究費申請書を書くとかのためのデータ取りの一部を手伝ってもらう形で、手技をひとつづつ習得してもらいました。そうこうしているうちに、彼らのほうから卒論のプロジェクトをうちでしたいと言い出しました。そこから、どんな感じのテーマが好きか?どういう手技が必要だが習得できるか?など個別で話しました。ひとつには卒論を始める前からラボに参加して、ここでやるかどうかも決められるし、気に入らなかったら他に行くこともできたでしょう。指導教官側もある程度学生さんのスキルや得意不得意もわかったうえで、いろんな選択肢を提示できるし、細かい調整もできます。

日米システムの違い② 実験計画書

 次にもう一つの利点は、卒論プロジェクトをうちでやると決めた時点で、実験計画書(要旨程度の長さです)を提出することになっているので、学生さんがプロジェクトの中身を一応理解している必要があります。また、大学からでる学生さんの卒論用の研究費にも申請しましたので、そこでもしっかりした実験計画書を書くためには中身を理解、整理する必要があり、いい訓練になりました。余談ですが、二人共、研究費を取得できました!このあたりのじたばたはTwitterで呟きましたね。

日米システムの違い③ 講座制 vs 独立PIラボ

 日本の講座制だと、教授の授業を聞いて研究室に参加したいと思ってきた学生の実際の指導には准教授や助教が当たることもあるでしょう。そうするとたとえば助教がこうしなさいと指導しても、学生側が反発して、いえ!教授の考えを聞いてみないと、違うかもしれませんし!というふうになると面倒くさいですよね。

 アメリカだとAssistant Professorという職であっても独立したPI、自分の責任の下指導していますから、学生さんとPIの間にしっかりした信頼関係を築きやすいです。私達のプロジェクトが面白いと思ってきてくれて、初めての手技も全部私が手取り足取り教えて、トラブルシューティングは全部自分のことのように対処して、そりゃ私のプロジェクトの一部を担ってくれてるので当たり前なんですけど、お互いにwin winの助け合いでやってきているので、そこそこ頼られている自負もあります。

技術指導の工夫など

 そういう日米の違いにより、アメリカではかなりやりやすい部分はあります。その上で、初めてラボに参加するような学生さんに指導するにあたって、工夫してきた点を記しておきます。

 まず研究室を立ち上げる前に、主な実験手法についてwordファイルでまとめておきました。これは自分がポスドクで入ったラボの影響が大きいのですが、まずきちんとした実験プロトコールを文書化すること、それを見ながら実験して気づいた点などを記入することで、次回はもっとうまくできるというやり方です。また私が特任助教をしていたころおつきあいがあった同学科の他ラボでは、実験手法を一つのバインダーにまとめていて、ラボ単位での手法の共有と再現性には有効そうだと思ったので、参考にしました。私のラボでは、主だった実験プロトコールをまとめてクラウドフォルダに入れてシェアすることで、基本どんな実験でも読めばできる状態にしています。ポスドクさんはほっておいても読んでやってます。学生さんには最初は手技を見せながら一緒にやります。

 必要な試薬類も目録や保管場所はエクセルにまとめてフォルダでシェアしています。が、実際は学生さんからの再頻出質問は、「あれ、どこ?」だったりします。ねぇおかあさん爪切りどこだっけ?くらいのニュアンスです。上から2番目の引き出しよ、くらいのニュアンスで返事をします。Slackで連絡を取り合ってるので、「あれ、どこ?」「これ、どうやんの?」「これってあれだっけ?」程度のやり取りが頻繁にあります。彼らの持つ小さい疑問を全部解決することで、安心して実験できる状態にしています。

 出たデータについては厳しく、うまくいかなかった原因の考察ややり直すときの工夫など厳しいことをいうこともありますが、次にやることや指針がはっきりしていたほうが彼らも安心して取り組めるような感じがします。

 割りとゴール設定は近くに置いているかもしれません。今日はここまで出来たら上等、Thanks, Excellent! Great! すごいじゃん、よく頑張った、これすごいよ?とほめる機会があればほめてますし、マイルストーンをクリアしながら、先に進めるようなのが理想かなと思っています。

おわりに

 私のようなまだ未熟なものが学生さんの指導法について語るなんていうのは、まだ赤ちゃんが1-2歳のママさんが育児法を語るようなもので、実際どう育て上げられるかはまだ未知なので、その育児法が合ってるか合ってないかはわかりません。かといって子育てを終えた段階で私は立派に育て上げたと語りだすのも、時代が変わってしまってそぐわないのかもしれません。ですので、まだ研究室を立ち上げたばかりの若手が今こんな感じで奮闘しているという記録が、同じくらいの状況の人達にとってなにか参考になるのか、あるいは反面教師になるのかというつもりでここに記すことにします。

 お読みいただきありがとうございました。

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