「地震で罹災する確率」を計算してみた

地震の発生確率やある震度以上の揺れに見舞われる確率が公表されていて、よく話題にもなると思います。では、これらの地震や揺れで、罹災したり死傷したりする確率はどのくらいなのか、考えてみたことはおありでしょうか。

全国地震動予測地図(たとえば2020年版)の解説のなかに、「確率の数値を理解する上での参考情報」というのがあります。

確率の数値を理解する上での参考情報:地震発生確率・地震動超過確率の例と日本の自然災害・事故等の発生確率の例
次の図は、「今後 30 年以内に数%」という値が日常生活において無視出来るほど小さな値ではないことを理解するための参考情報です。確率論的地震動予測地図に示されている、「今後の一定期間にある震度以上の揺れに見舞われる確率(超過確率)」は「ハザード」の評価結果であり、ここで例示した事象の「発生確率」や「リスク」と同列に比較出来るものではありませんが、数値の重みを受け止める上での参考情報として見て下さい。

全国地震動予測地図2020年版 地震動予測地図の手引編 p.25

この資料では、「地震発生確率」や「地震動超過確率」(震度6弱以上の揺れに見舞われる確率)との比較として、「台風で罹災」「大雨で罹災」「台風で死傷」「大雨で死傷」の確率がしめされています。災害に関する統計から、それぞれの災害により年間の罹災者数や死傷者数を、その年の人口で割ることで、1年間あたり、人口に対して、台風や大雨で罹災したり死傷したりする人の割合を求めます。それをもとに30年間にある人が台風や大雨で罹災したり死傷したりする確率を算出しています。2020年版では、「『消防庁の災害年報』に基づく1999~2018年の20年間の値から計算」したとなっており、以下のような数字になっています。

台風で罹災(1999~2018年のデータによる) 0.40%
大雨で罹災(1999~2018年のデータによる) 0.22%
台風で死傷(1999~2018年のデータによる) 0.012%
大雨で死傷(1999~2018年のデータによる) 0.0013%

全国地震動予測地図2020年版 地震動予測地図の手引編 p.25

地震で罹災または死傷する確率

災害に「災害年報」には地震に関する統計もふくまれているので、同じようにして「地震で罹災」「地震で死傷」の確率を計算してみました。計算における仮定は上記の資料に従っています。

簡単に閲覧できる「災害年報」として、総務省消防庁のWebサイトの「地方防災行政の現況」を利用します。2024年1月時点では、平成23年〜令和3年(2011年〜2021年)の11年間の資料をみることができました。人口については、e-Statの「推計人口」を参照しました。

  • 台風で罹災(2011年〜2021年のデータによる) 0.48%

  • 地震・津波で罹災(2011年〜2021年のデータによる) 0.37%

  • 大雨で罹災(2011年〜2021年のデータによる) 0.13%

  • 地震・津波で死傷(2011年〜2021年のデータによる) 0.066%

  • 台風で死傷(2011年〜2021年のデータによる) 0.012%

  • 大雨で死傷(2011年〜2021年のデータによる) 0.0012%

台風や大雨の数字が上と少しちがうのは、計算のもとにしたデータ(1年間あたり、人口に対して、台風や大雨で罹災したり死傷したりする人の割合)の期間がちがうからです。2011年だと、大きな被害の生じた東北大学地方太平洋沖地震ふくみます。2012年〜2021年の10年間のデータをもとに計算すると以下のようになります.

  • 台風で罹災(2012年〜2021年のデータによる) 0.48%

  • 地震・津波で罹災(2012年〜2021年のデータによる) 0.14%

  • 大雨で罹災(2012年〜2021年のデータによる) 0.13%

  • 地震・津波で死傷(2012年〜2021年のデータによる) 0.012%

  • 台風で死傷(2012年〜2021年のデータによる) 0.012%

  • 大雨で死傷(2012年〜2021年のデータによる) 0.0013%

どの年代でデータをとって計算するかによって多少かわりますが、地震・津波で罹災したり死傷したりする確率は、台風や大雨で罹災したり死傷したりする確率と大きくは変わらないといえると思います。台風や大雨にくらべると、大きな地震や津波の頻度は小さく、罹災や死傷する人数が多くなる場合があるので、データをとる年代のちがいによる計算結果のばらつきは大きくなります。

2011年〜2021年のデータをとった場合で、死傷する確率が罹災する確率の何倍になっているかをみてみましょう。大雨、台風、地震・津波についてそれぞれ約1/100、1/40、1/5です。いったん災害にあうと、大雨や台風より、地震・津波のほうが死傷する割合が高いようです。災害発生前に避難できる可能性、建物やインフラの対策などの違いでしょうか。

「揺れに見舞われる確率」との関係

「確率の数値を理解する上での参考情報」では、大雨や台風で罹災または死傷する確率と、今後30年の地震発生確率や今後30年で震度6弱以上の揺れに見舞われる確率(超過確率)と比較されています。今後30年で震度6弱以上の揺れに見舞われる確率については、以下のように書かれています。

70%以上の例:水戸・根室・高知・徳島・釧路
60%以上~70%未満の例:静岡・日高・和歌山・高松・津・千葉・奈良・さいたま
50%以上~60%未満の例:大分
20%以上~50%未満の例:東京・神戸・名古屋・松山・岡山・宮崎・横浜・甲府・大阪・岐阜・広島・十勝・那覇
20%未満の例:鹿児島・新潟・京都・福井・宇都宮・大津・空知・熊本・秋田・福島・鳥取・佐賀

全国地震動予測地図2020年版 地震動予測地図の手引編 p.25

これらの数値と比較して、上で求めた「地震で罹災」「地震で死傷」の確率はかなり小さい数字です。これは、震度6弱以上の揺れに遭ったからといって、すべての人が罹災したり死傷したりするわけではないから、と考えることができます。

「建物被害・人的被害の被害想定項目及び手法の概要」では、死傷者数の想定では、1980年以前の木造建物の場合、震度6弱の地震では0〜20%弱、震度6強の地震では20%弱〜80%強の建物が全壊することが想定されています。さらに、その地域の建物数、建物に何人くらいの人がいるか、さらに、ある係数(木造建物の死者数の想定では0.0676、負傷者の場合0.177)をかけて、死傷者数が想定数されます。きちんと検討したわけではありませんが、震度6弱以上の揺れに見舞われる確率と「地震で死傷」の確率の違いは、このあたりの数字でおおよそ説明できるかもしれません。

地震である場所が強く揺れれば、耐震性に応じて一定の割合の建物が壊れ、その下敷きになった人が一定の割合で亡くなったり怪我をしたりします。家に住めなくなる場合もあります。そうならないためには、建物の耐震化や家具などの固定をすすめて、いざ揺れたときに身に危険がおよぶ可能性を下げるしかないと思います。

おわりに

ここに書いた確率の数字は、基本的には、国内では、いつでもどこでも大きな地震に遭遇される可能性がある、ということを言っていることになります。自分のことばでうまく伝えられないと思っていたところ、能登半島地震後のこちらのツイート(ポスト)をみつけました。このようなことだと思いました。


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