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ヨルシカと文学と読まない僕

ヨルシカの最新曲『月に吠える』。『又三郎』『老人と海』に続く文学オマージュ連続3部作目で、萩原朔太郎の同名の詩から発想された。n-bunaナブナさんの作る曲には故郷、音楽遍歴、死生観など様々な価値観が横断するかのように広くてヨルシカの曲にも息づいている。
そんなこれらの曲を聴いていると、文学に親しみがない人間にも響く良さが強く感じられる。

本を読むことの苦手意識

実は僕自身、小説や文学作品、さらには漫画もほとんど読まず、本棚の9割は鉄道の雑誌や図鑑などで埋め尽くされていた。しかも、耳より目と頭で楽しむ読書がどこか苦手意識があって、月刊誌『鉄道ファン』を読んでも写真しか見ていないことを親に咎められることもあった。読書感想文も頭がフリーズするか混乱し何一つ考えが追いつかなかった。こんな風に嫌な思い出が先行してしまう。しかし、今回の3部作はどれもこれも琴線に触れる良さを感じる。

又三郎

宮沢賢治『風の又三郎』のオマージュ。3部作の中で比較的知っていて、おそらく同世代で『にほんごであそぼ』で見ていた人にとっては、大まかに知ってるという人は少なくないだろう。

青い胡桃を吹き飛ばせ。
酸っぱいかりんも吹っ飛ばせ
どっどど…

と言ったあのセリフも織り込まれ、加えて、「鬱屈した現代社会も吹っ飛ばす」という希望や想いが込められているのは今の我々に強く刺さる。風を吹っ飛ばすような疾走感あるメロディは新快速に乗っているとよく合う。

老人と海

ヘミングウェイの同名小説のオマージュ。大まかなストーリーを一つも知らない超初見だったものの、リリース前にこの曲とタイアップしたwebCMを見聴きすると涙がホロリ。フルが良い曲だという想像は難くなかった。海のように広がるようなメロディの他、海の音や貝殻の効果音も非常に良い。

遥か遠くへ まだ遠くへ
僕の想像力という重力の向こうへ

この歌詞を見ると、閉塞感漂う社会や様々な恐怖に苛まれる僕を打破してくれそうな希望を感じる。いつかこの歌詞のように「遠くへ向こうへ」自分で行けたら…

月に吠える

そして、『月に吠える』。先ほど同様ストーリーの知識は0で題名も初対面。n-bunaさんのものと思われる吐息や咳払いが効果音に織り込まれているのがちょっとクセ。それでも、耳に残るし、全体的にいいメロディだ。

我が儘にお前の想うが儘に

という歌詞やその前後を見ると、高校の現代文(?)でやった『山月記』の虎を連想させるかのよう。全く似て非なると思うが、この歌詞を見ると、本能で生きづらい僕や現代の雰囲気にリンクして共感できる。『山月記』もそんな話だった気がするし。

文学に関しては右も左も分からないような感じで、多くの闇を抱える僕ではあるが、n-bunaさんが持つ文学のセンスを好きな音楽と良い声に落とし込まれたオマージュソングは、文学的センスの良さを耳で垣間見れたと思う。
「YOASOBI」も小説から音楽に仕立てていて、これもまたハマった。それぐらい、音楽と文学って相乗効果のような良いものを持っているようで、たとえ苦手な人間でも楽しめている。
ヨルシカの文学オマージュ3部作で文学の良さや楽しさを音楽の力で伝えてくれていて、自身も文学を愛するn-bunaさんは言葉に表しきれない凄いものを持ってると思う。

ストリートミュージシャンの投げ銭のような感覚でお気軽にどうぞ。