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腓腹筋に機能低下が生じると ~足関節底屈以外の知るべき役割~

腓腹筋は大腿骨内側上顆・外側上顆から起始し、アキレス腱を介して踵骨に付着する筋肉です。腓腹筋はヒラメ筋に次いで、下腿後面に存在する大きな筋肉です。


腓腹筋の主な役割は足関節底屈になりますが、腓腹筋のその他の着目すべき役割に「歩行時の蹴り出し」と「膝関節の可動域への関与」があります。今回の記事では、この2つの役割について考えていきたいと思います!


1.歩行時の蹴り出し

腓腹筋の役割に「歩行時の蹴り出し」があります。歩行の蹴り出しというと足関節底屈になりますが、ここで大切なのは腓腹筋の求心性収縮による底屈ではなく、腓腹筋の遠心性収縮によるエネルギー蓄積が十分に行われた後の足関節底屈が大切になります。


腓腹筋が遠心性に伸張されることで、収縮要素や直列弾性要素に弾性エネルギーが蓄積され、その後の筋収縮に蓄積されたエネルギーが利用できます。これをストレッチショートニングサイクルといい、効率的な歩行の蹴り出しに欠かせない機能になります。


腓腹筋は足関節底-背屈の動きで、おおよそ内側頭が0.42㎜、外側頭が0.95㎜の長さの変化が生じると述べられています。小さな変化かもしれませんが、この腓腹筋の長さの変化はSSCによる歩行効率だけでなく、後ほど説明する膝関節可動域においても重要と考えています。


まずは、腓腹筋と歩行の関係について考えていきます。健常者で腓腹筋の機能低下が生じていなければ、歩行の蹴り出しや歩行スピードの低下が問題となることは殆どないのですが、高齢になると歩行の蹴り出しの強度が顕著に低下し、前方への推進力の低下が顕著になります。


具体的には、高齢者は若年者に比べて前方床反力のピーク値や足関節の運動が不足した状態で歩く傾向にあり、これが歩幅や歩行スピードの低下に関係していると考えられています。


高齢者の歩幅や歩行スピードの低下の原因の一つとして考えられている1つとして、腓腹筋の短縮があります。高齢者の腓腹筋束は、若年者と比較して歩行周期中に短いままであることもわかっており、腓腹筋の長さと力の生成が変化することで歩幅や歩行スピードの減少に繋がっています。


また、腓腹筋自体の筋力低下も生じると、下腿の前傾を遠心性に制御できなくなります。そのため、ストレッチショートニングサイクルによる、弾性エネルギーの蓄積が不十分となるため、歩行スピードや効率が低下する可能性が考えられます。


高齢者に腓腹筋の機能低下が生じる理由として、多岐の原因がありますが、私は「姿勢の変化」が重要になってくるのではないかと考えています。


姿勢が変化する代表例として、変形性膝関節症(以下:膝OA)があります。膝OAになると、関節の変形に伴い、膝関節伸展制限が生じることが多く、軽度膝関節屈曲位での歩行を呈することが多いです。


膝関節が軽度屈曲位となると腓腹筋が常に短縮位となる他に、トレイリングリム(立脚最終域)の肢位が不十分となることやストレッチショートニングサイクルによる、弾性エネルギーの蓄積が不十分となり、効率的な蹴り出しが行えません。


このように腓腹筋の低下が生じると、歩行効率が低下してしまう可能性が高いです。そのため、歩行効率を最適化するには、腓腹筋の長さを保持することがとても大切になります。


腓腹筋の機能を改善させるためには膝関節伸展制限を改善する必要があります。逆に、腓腹筋の機能が改善すると膝関節伸展制限も改善する可能性があるため、「腓腹筋の機能・膝関節伸展制限」どちらにも介入する必要があります。


2.膝関節関節可動域(伸展制限への影響)

腓腹筋は膝関節後面を走行する2関節筋であり、膝関節屈曲の作用も持ちます。そのため、腓腹筋の短縮や周辺組織との動きが制限されると、膝関節伸展制限を引き起こす可能性があります。


膝関節後面の腓腹筋の走行を確認してみると、”内側頭は半膜様筋”と”外側頭は大腿二頭筋”と交差するように走行していることがわかります。この交差する部分が、膝関節伸展制限を考える上で大切になります。


内側頭と半膜様筋、外側頭と大腿二頭筋の交差部をエコーで確認してみると、疎性結合組織が存在していることがわかります。疎性結合組織が存在するということは、その部分は動く必要がある部位と考えることができます。


腓腹筋の内-外側頭は膝関節屈曲-伸展、足関節底屈-背屈で筋束の長さが変化するだけでなく、筋腹自体の動きも出現します。具体的に述べると内側頭は足関節背屈時に内側に約5mm程度移動します。伸展制限がある膝OAでは、腓腹筋の動きが減少しています。


外側頭も同様に膝関節・足関節の動きに応じて移動が生じます。外側頭周囲には疎性結合組織以外に総腓骨神経の枝が分布しており、外側頭の動きが制限されると膝関節伸展制限に関与すると考えられます。


以上のように、腓腹筋の内側-外側頭の動きが制限されると、膝関節伸展制限に繋がる可能性があります。つまり、膝関節伸展制限を改善するには、腓腹筋の動きを改善する必要があります。


ここまでをまとめると、腓腹筋の機能を改善することで膝関節伸展可動域が拡大し、腓腹筋が歩行の蹴り出しに効果的に作用することができます。また、膝関節伸展制限を改善することで、腓腹筋が歩行時に弾性エネルギーを貯蓄することができ、効率的な歩行に繋がります。


同じことを述べますが、膝関節伸展可動域制限と腓腹筋の機能低下のどちらが主たる問題になっているのかを考えて「腓腹筋の機能・膝関節伸展制限」どちらにも介入する必要があります。


3.腓腹筋の問題点の見つけ方

今回は腓腹筋に着目をおき、歩行の蹴り出しや膝関節可動域制限について考えているため、腓腹筋の評価方法にフォーカスを絞って説明していきたいと思います!


まずは膝関節伸展制限が存在するのかを確認します。私は伏臥位で踵の高さの左右差HHD(Heel height difference)を確認しています。踵の高さ1cmの差は約1°の膝関節屈曲拘縮と相関があると述べられています


この評価に足関節背屈を加えることで、さらに踵の高さに差が増大する場合、腓腹筋の短縮や拘縮が存在している可能性が高いと判断します。


腓腹筋の筋力評価は「Heel raise」を実施しています。踵の高さに左右差はないのか?踵が内返しや外返しをしていないか?を確認します。また、「PFBT(plantar flexion break test)」を実施して、腓腹筋の筋力低下が生じていないかを確認します。


歩行で確認するポイントとしては
・股関節や膝関節が屈曲位となっていないのか?
・歩行スピードは低下していないか?
・トレイリングリムのポジションが取れているのか?

など、腓腹筋の機能低下が生じている際に確認できる、歩行の問題点を評価します。


身体所見である程度、腓腹筋の機能低下が生じている可能性が考えられたら、エコーで画像評価も実施します。エコーでは、足関節底-背屈時の腓腹筋の動きや圧痛を確認しています。


その他に、腓腹筋の機能低下と膝関節伸展可動域制限の関係性についてはこちらの記事もご確認ください。


4.腓腹筋への介入

腓腹筋に機能低下が生じていると判断した場合、腓腹筋への介入を実施していきます。可動域制限が生じている場合、腓腹筋内側頭-外側頭(片方or両方)に徒手介入していきます。


腓腹筋内側頭の動きが制限されている場合、足関節底屈-背屈に合わせて、腓腹筋内側頭を深層+内側へと徒手誘導します。圧痛が強い場合も多いため、愛護的に実施する必要があります。


外側頭への介入は総腓骨神経からの枝や疎性結合組織に対して介入を実施していきます。内側頭は異なり、外側頭の周辺には全周性に疎性結合組織が存在しているように見えるため、幅広く徒手介入を実施していきます。


内側頭・外側頭の動きが出現してしてきたら、しっかりと筋収縮を入れ、腓腹筋の動きや長さを改善させていきます。私は遠心性収縮と求心性収縮を同時に入れるため、eccentric calf raiseを実施します。


ストレッチは筋萎縮と線維症を予防する可能性が示唆されており、高齢者や膝OAを有している方には、腓腹筋の機能低下を予防するために自主トレとして指導するのもよいかもしれません。


歩行へ汎化させるトレーニングとしては、後方歩行や段差を用いたトレーニングを実施しています。トレイリングリムの肢位を意識して、股関節伸展や足関節背屈を引き出すトレーニングを実施しています。


今回の記事は以上となります

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yoshiki

【資格】
・理学療法士
・運動器認定理学療法士
・三学会合同認定呼吸療法士
【専門分野・得意分野】
・足関節、肩・肘関節
・エコーによる動態評価と治療
【主な仕事】
・整形外科クリニック勤務
・高校サッカーのトレーナー
【運用WEB】
・Twitter:簡単な文献紹介やエコー画像を投稿しています!
・note:Twitterには記載していない情報を提供しています。

「解剖学は裏切らない」と思っています。形の違いや破格はありますが、筋肉や靭帯、骨の位置を知っていれば、評価・治療に直接結びつきます。私は解剖学的観点とエコーを用いて、皆さんに基礎的な部分を分かりやすく伝えていきたいと思います!

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