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iOS14へのアップデートでメディアの歴史が変わる

皆さんこんにちは。
YJキャピタルの山下(@JP_YJC)です。

今日はiOS14のアップデートに端を発する、メディアビジネスの地殻変動に関するポストです。
先日、Facebookの収益が大きく低下する見込みで、FacebookがAppleに苦言を呈している、というニュースがありました。

今日は、既存メディアがなぜAppleの規制で収益が低下するのかの詳しい解説、今後メディアビジネスにどんな変化が起こっていくのか、考察していきます。

iOS14の規制って?

まずはiOS14のアップデートとは何なのか、簡単に紹介していきます。

簡潔に言うと、今回のiOS14のアップデートは「企業に対してサービス利用端末のデータを、iPhoneからデフォルトで開示しなくなる」というアップデートです。

前提として今回AppleがiOS14にアップデートするにあたって機能変更するのは欧米を中心に世論が盛り上がっている「個人情報保護」を行う前提に立っていて、いままで2年間に渡って、iPhoneから企業がユーザーデータを収集できないようなアップデートが繰り返されてきました。

このアップデート割を食っていたのはどこかというと、Google,Facebookのようなアドネットワーク(広告配信システム)を持つ事業者です。

アドネットワークについてかみ砕いて説明すると、GoogleやFacebookは広告配信する際に、より購買意欲の高いユーザーにターゲティングできるように、ユーザーの検索情報やサイト閲覧情報をcookieというブラウザに蓄積される情報や、スマホ一台一台に割り振られているIDのIDFAというものを頼りに情報整理を行ってきました。

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これらの情報を突合することで、「この前見たサイトの広告がやたら出てくる」だったり、「自分が調べた内容に近い広告が出てくる」という現象が起こるわけです。人によってはこれを不気味だと感じるかもしれません。

個人情報への世論の高まりなどを背景に、2018年からAppleはcookieというユーザー識別値の一つの規制を行い、企業のデータ収集期間に制限を設けました。

これにより、企業は以前よりもユーザーデータの収集難易度が高まったのですが、まだ抜け道は存在しました。それが、IDFAというiPhoneの識別値です。
これは、スマホ一台一台に与えられているIDで、学籍番号みたいなものだと思っていただければ大丈夫です。

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このIDFAは特にアプリ上でのユーザー行動を蓄積する際に利用されるIDで、Facebookのようなアプリ上に多くの広告面を持つ企業は、今までの規制でそこまで大きな痛手は受けていませんでした。

IDFAの規制はガチでやばい

Appleの規制も涼しい顔してスルー出来ていたFacebookでしたが、今回iosのアップデートで頼みの綱だったIDFAすら規制することになりました。

しかも、cookieの場合は企業側も工夫してデータ収集する抜け道があったのに対して、IDFAへの規制は対策方法が存在せず、アプリ上の行動から広告配信に必要なデータ収集が完全に行えないことを意味していました。

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広告データが収集できなくなると、購買意欲の高いユーザーに広告配信ができず、企業側のニーズが低下することで、結果的に広告1クリックあたりの単価が低下します。大まかにはターゲティング精度が高いほどクリック単価が高くなると覚えてもらえれば大丈夫です
業種業態にもよりますが、こちらの図のような単価のイメージを持ってもらえると分かりやすいと思います。

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先ほどの車大好き青年Aの例なら、本来1クリック200円取れていたところが、1クリック30円しか取れなくなってしまう、ということがiOS14のアップデートでは起こります。こうした事情から広告収益性が大きく低下することになったのです。

誰がアップデートの影響を受けるのか?

アドネットワークを提供するFacebookなどは間違いなく影響を受けますが、影響範囲はそれだけにとどまりません。
今回の規制で一番被害をこうむるのは自社サイトにGoogleやFacebookのアドネットワークを掲載しているメディアです。

Google Adsenseなどの広告費で運営しているメディアは古くから星の数ほどありましたが、このようなメディアは今回のios規制で、ターゲティングによる、高単価な広告配信ができないので、アプリ面での配信では、ほぼユーザーが誰か分からない状態で広告配信をせざるを得なくなります。

これでは、デジタル広告最大のメリットであった「適切なターゲットに広告配信する」という利点そのものが失われてしまい、クリック単価が低下することでメディアのサイトの収益性は著しく低下します。

これは、インターネットの本格普及を支えてきた「アドネットワークの広告費で運営する基本無料メディア」の継続がかなり難しくなることを意味しており、ios14アップデートがメディアに地殻変動を起こすことになった所以です。

Apple規制以降に強いメディアとは?

まず、前提としてアドネットワークの広告収益のみでメディアが事業運営していくのは、かなり難しい環境に突入していると考えていいでしょう。
AppleだけでなくGoogleも2年後にはユーザーデータの収集を止めると発表しており、今まで影響範囲がiPhoneのみにとどまっていたところが、Android端末やGoogle Choromeを起点としてPCにも影響が及びます。

このように、メディアとしては大きな地殻変動が起こっているわけですが、これが契機になり伸びていくメディアも出てくるのではないかと思っています。
最後に、どんなメディアが今後伸びていくのか、簡単ながら予想してみました。

バーティカルメディア
俗にいう「リボンモデル」というやつですが、特定の領域で強い集客力を持ち、広告主としても、その媒体に出稿するだけでリード確保が見込めるメディアです。
バーティカルメディアの収益は顧客の送客による手数料が売上の主力で、アドネットワークへの依存度が低いため、(自社メディアへの集客に影響は受けますが)相対的には影響を受けづらいです。

リクルートに代表されるSUUMO、リクナビなど、比較的大きな広告予算を持った業種がバーティカルメディアの中心でしたが、今後はバーティカルメディアの領域が美容・食品などの小売(特にEC)にもより広がっていくと思われます。

美容、食品/飲料、家電の広告主はデジタル広告の高いターゲティング機能による広告効果最大化が効きやすいジャンルでしたが、これからはターゲティングに制限が生まれ、広告対効果の低下が予想されます。

例えば、美容ジャンルなら顧客育成から購買まで完結して行えるLIPSのようなメディアは、メーカーにとっても、ECモールの事業者にとっても相対的に重要度が高まっていくと思われます。

ユーザー課金メディア
当然のことながら、Bからの広告予算が期待できなくなれば向かう先はCからの課金ということになると思います。
実際、自社ネットワークを保有しているTwitterはユーザー課金のテストを開始しています。

中国版Twitterのweiboにはすでにユーザー課金として、コミュニティ機能が昔から実装されていますが、こうしたインフルエンサーを活用したコミュニティ課金の流れは、メディアにおいてますます重要視されていくと思います。

コロナ以降、ライブ配信での投げ銭が活況を見せたり、インフルエンサーに有料会員制のコミュニティやファン向けコンテンツを提供するPatreonは急成長しユニコーンになったりと、すでにファンからの課金で大きな経済圏を築く「パッションエコノミー」のトレンドは大きく加速しています。
「パッションエコノミー」については長くなっちゃうので、別でnoteを書こうと思います。

似たような話をTwitchの解説で書いているので、ぜひそちらもご覧ください。

最後に

伸びていくメディアの種類を二つほどご紹介しましたが、皆さんはどう思われましたでしょうか?

感想や、他にも「こんながメディアが伸びそう」といった考察があればぜひ知りたいので、リプやDMなどいただけると大変ありがたいです!
Twitter(@JP_YJC)でライブ配信プラットフォームなど、メディア領域全般の情報発信もしているので、気になる方はぜひフォローください。

長文お付き合いいただき、ありがとうございました!

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