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ユタ州中国語新聞でのリンヤンコラム『審美眼が気質を決める』

 2023年11月、『東方報』でのリンヤンコラム連載。中国語の文章を日本語に訳しましたので、ここでご紹介します。

 ご存じの通り、世界四大文明のうち、他の三つは現在まで継承されておらず、今見ることができるのはその遺跡だけです。ただ中華文明だけが今日まで生命力を保ち、栄えています。それを最大に表現しているのが中国の文字と書道です。

 黄帝の子孫、つまり中華民族であることを幸せだと思うのは、書道を通して私たちの歴史に関心を持ち、毛筆という鍵を使って中国文化の大門を開くことができるからです。「後世の学習によって、古(いにし)えの雅(みやび)な美しさを体得できる(*原文:”利用后天的积学,体会古雅之美”)」というわけです。では「後世の学習」とはどのようなものでしょうか?張浩波先生は、授業を始めるに際し、次の三つの言葉を示されました。「高古を追求せよ」「巧みであるより拙(つたな)くあれ」「度量を雄渾にせよ」(*原文:直追高古,宁拙勿巧,雄浑大气) 
 では、「高古」とは何でしょうか。世間に媚びず、迎合せず、風格を持ち、拘束を受けないことです。
 私たちの先人が文字を発明した時、天地の情報をその中に取り入れました。ですから、一本一本の線はすべて自然を表現しています。漢代から始まって、中国の書道は伝達手段と実用性からもう一つ別の機能を付け加えました。それは芸術性と審美性です。審美性は長年の発展を通じて、ますます抽象化していきました。中国の文字は写実から抽象へという課程を経てきたのです。
 書道が培ってきた審美的な情趣は、文字を通して、美学上の多くの要素に広げていくことができます。絵画と同じように、良質の審美感を培い、見識を高めるのです。一つの物事が実用性だけでなく芸術性も兼ね備えている時、その価値を大きく高めます。書道は線に対する芸術的なデザインです。先祖たちは代々、自覚的な伝承と無自覚の伝承(天性の中にある天人合一の感覚)を通して、一種独特の総合的な審美感を生み出してきました。
 中国の漢字は会意文字で、すべての文字は一幅の絵でもあります。書を書くことは、中国人からいえば、すでにある自然条件を利用して絵画を学び、抽象的な空間思惟能力を訓練することです。字を書くことは右脳の神経を絶えず刺激します。そして外形、様式、画面を認識することによって、豊かな想像力と情感を呼びさまします。
 例えば、「張遷碑」は甲冑を着けて行軍するような勢いがあり、力をためてそれを発揮するのを待つ充実と忍耐が感じられます。「曹全碑」は京劇の長い袖を振るたおやかな女性です。温和で秀逸で生き生きとしています。
 日常生活でも「書道の視点」によって、穏やかな美しさをより深く味わう感覚を養うことができます。張先生が授業中、こんな例を挙げられました:
 一つの町には一つの書道の風格がある。北京は顔真卿の文字で、端正で堂々としていて、慎み深く穏やかで荘厳だ。私たちが住んでいるソルトレークは石門頌の風格で、奔放で豊か、飄々として快適で朗らかだ、と。
 私たちはみんな「書の品格は人の品格だ」ということを知っています。字を通してその人の人格を判断するというのは、中国だけがそうなのではなく、世界に通用する審美感だと思います。
 
 書道を学ぶことの意義は、ただ自分の本質を高めるだけでなく、古代の賢人たちと交流することです。今の自分が古人と心を通わせ交流することは、あなたの性格を闊達なものにし、心身を楽しく朗らかにします。
 中国書道の歴史はまた、中華民族発展の歴史です。我が国の文化を理解し、認識することが、その審美的な気質を作り上げるのです。

 自己の文化を認識することは、祖先を認識するだけでなく、その根源を認識することです。そしてその文化を通して、自分の家族や親戚、友人と一つになることができます。
 「自身を善くすれば、それが天下に広がる」(*原文:”独善其身,兼济天下”)というわけです。それはまた、過去を受けて未来へつなぐことでもあります。中国文化の伝統を受け継ぐ使命感は、私たちの気持ちを大きくし、生命をより意義あるものにするのです!

         2023年11月初 リンヤン、ソルトレークシティー

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