僕の彼女はミノムシ vol.4ミノムシの喜ばせ方

今日ミノムシはサークルへ行っている。文芸部で詩を書いている。広いやつだ。歌、絵、詩。
早くに芸術方面へ行けなかったのはかわいそうかもしれない。秋元康さんが「人は間違った道にすすんだ時、どの地点まで戻れるかが大事」と言っていた。
『親は勉強できた私に期待しすぎだったんだよ。私が潰れちゃった』いつだったかミノムシは言っていた。
僕はミノムシの味方。頑張れミノムシ。

文芸部には僕の仕事が休みの日だけれど、引きこもり気味のミノムシの社会復帰のためにと、この夏から行き始めた。サークルは9時半から12時まで。
僕は西口のカフェの中でミノムシがビルから出てくるのを待っていた。

僕は窓の外に目を向けた。発色の良いブルーのロングスカートが目に止まった。ミノムシがおばさんと一緒に歩いてくる。カフェの入り口で手を振っておばさんと分かれて僕のとこに来た。
『待った?』
「ううん」
『今日はね、今まで話したことのない人と話せたんだ』
ミノムシは初対面の人とも仲良くなれる。そういうフランクなところが僕も好きだ。
「そうか、良かったね。君のお母さんくらいの年の人に見えるけれど?」
『おばさんの方が安全だったりするんだよ』
ミノムシなりに頑張ったことだったのに「葵はいいよね」と妬まれたこともある。学生時代の友達と今は連絡をとっていない。
ひとりでグスングスンしていたのだろう。眉間にシワが入る癖が残っている。最初の頃は俯いて歩いていた。

「具合は悪くなってない?」
『今は元気だよ。このあとどうなるかわからないけれど』
頭痛は突然やって来る。朝元気に外出しても帰る頃にはヒーヒー言っている。
僕の車の後部座席にはタオルケットが置いてある。ミノムシがいつでもミノであるタオルケットに入れるように。
「車で来たからゆっくりできるお店に行こう」
『車で来てくれたの?』
ミノムシの顔がぱああっとなった。ミノムシは文字通りぱああっという表情をする。プププ。
僕はその反応を見たくて車で来たんだ。ミノムシは僕の車を好きでいてくれる。僕は少し自負している。僕はミノムシのキモチをコントロールできる。

"新しい葵ちゃん"を目指している中、「昔みたいに笑って」と言ったら傷つくだろう。でも、僕はミノムシの今の穏やかさが好きだ。

ミノムシが僕の背中を掴んだ。僕はミノムシにピッタリくっついて腰に手を回した。
『へへ』
ミノムシはくっつくのが好きだ。僕はそれを知っている。もちろん、僕もくっつきたいけれど。

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