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写真の「印象操作」にPhotoshopはいらない


何を今さら分かりきったことを……
そう感じる人もたくさんいると思います。
「え、やっぱりマスゴミ最低!?」と思った人もいるかもしれません。

が、事実をありのままに話すと
写真の加工なんかしなくても簡単に印象操作はできます
もちろん、事実を伝えるための報道写真も例外ではありません。
先に言っておきますが、だからといって「都合良く切り取って印象操作をしても良い」と言っているわけではありませんよ!


どうしてそんな「当たり前のこと」をあえて書こうと思ったのか。
自粛要請中なのに、通勤時間帯の品川駅や、吉祥寺、戸越銀座が混んでいるという報道写真や映像が「印象操作だ!!」「わざと人が多いように見せている」などとツイッターで非難の的になっていたからです。


例えば品川駅。
バズったこの方↓のツイートを見れば一目瞭然ですね。
同じ場所から撮影しても、画角の違いで切り取る部分が異なり、
印象は真逆になります。
リプには「詐欺」とか「印象操作」と報道への批判がありますが、写真に関して当たり前のことを伝えてるだけです。


もちろん、撮影する時間によってもかなり印象は変わります
通勤時間帯の8時半より10時半の方が当然人は少なくなる。
また、同じ通勤時間帯でどんなに混んでいても、人が少なく見える時間はどうしても出てきます。そこを切り取れば実際に人が多くても「少ない」と印象づけることも可能です。

逆に人が少ない場所でも、偶然人が行き交う数秒間を望遠レンズで切り取れば、「それなりに人がいる」という印象の写真が撮れます。

この一例だけを見ても、写真から受ける印象はPhotoshopなんか使わなくても簡単に操作できることは明らかです。

だからこそ、撮影者に求められるのは「現実に沿った印象を伝える写真を撮ること」です。

品川駅のような場合、具体的には
日頃からなじみがあれば、そこがいつもと違って人が多いのか少ないのか肌感覚でも分かる。なじみのない場所なら、実際にそこを通っている人に話を聞いて「普段と比べてどうなのか」判断する手がかりをつかむことができる。最近ニュースでよく目にするようになったスマホのGPSの「データ」ならより正確な根拠になります。

つまり、写真の印象をちゃんと現実に沿ったものにするため、判断材料を見た目以外にも求めます。
実際の報道では、写真の印象だけで伝えられない部分を文字で表し(記事や写真説明です)になり、必ずセットで伝えられるわけですね。
以前撮影した写真と同じ画角・同じ時間帯に撮影し並べて比較する手法もよく見ます。

写真は自由に切り取り、好きなように印象づけられるからこそ、
報じる際に「現実と違う伝わり方をしないか」「誤解を生まないか」
に気をつけて印象を巧妙に選ばざるを得ないなのです。
印象の適正化、印象の調整と言えばより正確で耳障りのない表現かもしれませんが、まあ印象操作と言えばその通りですよね。
とにかく、出来事の一部を切り取って伝えることは、正しく印象操作することと表裏一体、切り離すことができないのです。

ちなみに印象をコントロールする方法は、現場での写真の撮り方と、撮った写真のなかでどの写真を選択するかの2段階あります。


昔から何度も何度も語り尽くされてきたことですが、
写真は現象の一部を切り取る行為に他ならないのでウソをつきます。
ウソつきに見えます。

写真が厳密な意味で客観、中立になることはありません。
必ず撮影者の伝えたい意図が反映されます。
だからこそ、報道の現場に出るフォトグラファーは常にそれを自覚し「写真が与える印象が現状、事実に沿っているか」に忠実でなければならないと思います。(言うまでもなく実際の現場でだれもがやっていることです)

いや違う。「印象操作だ!」と非難しているのは「現実に沿わずあらかじめ用意された結論に合う絵を撮ること」や「悪意ある見せ方」を指しているのだという反論があると思います。
確かに現実にそういう報道もあるし、主義主張に合うように無理やり切り取ることは許されることではありません。
ですが、印象を適正操作すること自体は当たり前なのです。

5月1日

↑5月1日午前10時23分の東京駅のホーム。


実は印象操作には2種類あると考えています
現状や事実に沿って伝えたいことをより明確に、より分かりやすくするため「許される印象操作」と、主義主張に合わせるため恣意的に切り取る「許されない印象操作」です。

なのに、ごちゃまぜにされ「印象操作だ!!」「偏向報道だ!!」と批判されます。さらにネット上では、個人的な見方、主義主張、印象と違うから「印象操作だ!」と非難しているのも散見されます。

そんな時は、伝えるということは印象操作(調整)することが不可欠だし、それ自体が必ずしも悪いわけではないということを思い出してもらえればうれしいです。繰り返しになりますが。


ただ、現実問題として、とてもとても難しいのは、2種類の印象操作はその線引きが常にはっきりと引けるわけではなく、明確な判断がつかない場合もあることです。


興味深い矛盾にも思えますが、最初に紹介した品川駅のツイートの2枚の写真がそれを教えてくれます。
同じ場所ですが写真の細部を見ると撮影時間が違います。
画角を変えたなかでも、より人が少なく見える写真(左)とより人が多く見える写真(右)を意図的に選び(もしくはシャッターを押す瞬間を意図的に選び)、「マスコミの印象操作は簡単だと一目で分かるようにちゃんと印象操作している」とも言えます。

どちらの写真も画角と時間は違えど、ありのままを撮っているわけで紛れもない現実。けれど伝えたい主張に合わせてうまく選ばれた2枚とも言える。

すごくい嫌らしい言い方になって申し訳ないのですが、「人が多い」「混雑している」「少ない」とマスコミが報じたことに、現場の写真を撮って「実際は逆だよ」と反論することは非常に簡単だということです。写真はどうにでも印象を操作できるので。



最後に

違和感を持つかもしれませんが
「報道写真は現実を切り取って、伝えたい印象を適正操作した写真」です。
写真の印象は、文字で伝えきれないことを表現するという意味でとても大事で、本質です。写真の面白さ、魅力の源でもあります。同時に誤解を招く可能性のある諸刃の剣でもあります。

ただ、「適正操作」の判断も当然難しい。
自戒の念を込めて書くと、現実だけれども印象を強めるため少し誇張した切り取り方をしてしまい、結果的に「許されない印象操作」になってしまうことも十分あり得る。
無自覚に犯してしまう間違いとしてこれが一番恐ろしい。
良い写真=パッと見でインパクトがある写真、なのでフォトグラファーには常に少し誇張した切り取り方から誘惑されています。



報道写真が印象のコントロールしていることは当たり前のことなのですが、丁寧な説明が必要ですし、それこそ変な誤解を招きかねないので正面から語られることは意外と少なかったのではないでしょうか。
でも、ここに書いたことは十数年間、新聞社でフォトグラファーを続け経験してきた真実です。

そして、今やだれもが世界に発信できる良い時代。
それだけに印象操作は遠い世界の人ごとではないかもしれません。
下の絵の「Media」が「 you」となる可能性が、今やだれにでもあると感じています。

メディア



※注 もちろん報道で使われる写真も多種多様です。例えば、ある記事で取りあげられた「本」「食べ物」を見せるための物取り写真は印象操作を気にする必要はほとんどありません。また、一部を切り取らざるをえない写真でも、人が多い少ないという取材ほど、印象を適正化する必要のない取材もあります。

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