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選挙期間中のモザイク写真を見るたび頭に浮かぶこと


東京都知事選が18日に告示されました。
この週末も、新聞各紙には都知事選の記事に「コロナ禍の選挙戦」を現す場面の写真が掲載されています。

総選挙、参院選などと同じく、注目を集める大きな選挙の取材はフォトグラファーにとって「モザイクとの戦い」になります。(と僕は思ってます)

ご存じの通り、告示、公示後は投票が終わるまで公正を期し、(主要)候補者を平等に並べるか、どの候補者か分からない写真が掲載されます。
多くの場合は後者で、時にモザイク処理されます。
理由は選挙の公平性を保つためです。要は、報道された写真が読者の投票に影響を与えてはいけないという趣旨です。

ただ、多くのフォトグラファーにとって「美しくない」モザイクは避けたいので、現場で四苦八苦します。基本的にどんな撮り手も自分の写真に手が加えられることは避けたいんですよね。

そのために、例えば
口元、手元だけアップ。
後ろ姿を撮る。
スローシャッターでぶらす。
絞りを浅くして候補者をぼかす。
手を振る候補者自身の手で顔が見えないようにする。
光量の差を利用して影にする。

などなど、伝統芸ともいえる代々引き継がれてきたテクニックを駆使します。

「制限がイノベーションを生む」という言葉とは少うかもしれませんが、制限があるから普段は掲載されないテイストの写真が紙面を飾るという側面もあります。

現場でできる努力はします。
けれど、「やっぱりこの写真、どの候補者か分かるなぁ」という場合にはモザイク処理されます。

基本的には、産経新聞も朝日新聞も、地方紙であっても、ほぼ日本全国の新聞が同じ対応をしています。


時に「候補者のたすきの一部に候補者の文字が……」「よくよく見ると画面に小さく映り込んだビラで候補者がわかる」と、モザイクを入れてるのが分からないほどの細部さえ、ぼかすことがあります。
正直「え、そこまでするの?過剰すぎない?」と感じるほど。
公平性を損ねないようにメチャメチャ気を遣っています。
若い頃は、報道機関としての公平性へこだわりの象徴ともいえるこの姿勢を好意的に捉えていました。


なのに……なのに……

ここからが本題なのですが、
投票前に1面で選挙情勢調査の記事がバーンと出ます。
〇〇氏大きくリード
〇〇過半数の勢い
という見出しのあれです。


毎回「おい、絶対に有権者の行動に影響与えてるだろ。なんなら、情勢報道のせいで『結果分かってるからもう投票行っかな~い』人すら生んでいるだろ」と思うわけです。
「写真にモザイク入れてまでこだわる公平性はどこいったんや。モザイクぜーん、ぜん意味なし」と。


しかも納得できるような情勢調査を報道する意義論に今まで出会ったことないんですね。(私の単なる勉強不足だったらすみません。おすすめあれば教えてください)

ずっと行われてきて当たり前のことなので、たいして議論にすらなっていないのが現状だと思います。

情勢調査の結果を1番知りたがっているのが当事者の政党や候補者、選挙関係者だろうから、「選挙妨害だ」とクレームが入ることはないのだろうし。

ただ、もちろん情勢調査自体には意味があると思っています
取材や投開票日の紙面作りの準備には欠かせないと思います。

でも、それを投票日前に記事にして報じる意味は????です。
むしろ有権者の投票行動にとてつもない影響を与えているとすら感じます。


改めて少し調べたら、毎日新聞の紙面審査委員の方が、こども新聞で丁寧にその意味を説明している記事を見つけました。

~引用始~
選挙の情勢調査報道には、有権者の投票態度を変かえる「アナウンス効果」があるとされています。有権者が報道を見みて投票先を変える効果で、反応のタイプには、強いと推定された政党や候補者に票が集まる「バンドワゴン(勝かち馬うま)効果」と、弱いと報しられると同情票が集あつまる「アンダードッグ(負まけ犬いぬ)効果」の二つがあります。
~引用終~

おお、やっぱり影響を及ぼしていることは否定できない。当然ですが……
ただ、僕はその意義を説明する部分にツッコミを入れざるを得ませんでした。

~引用始~
私はメディアが責任を持もって適切な調査結果を報道することで、出所不明の調査で有権者が惑まどわされるのを防ぐ役割があると考えています。
~引用終~


「いや、『出所不明の調査』なんて世間に出回ってますかね??
もちろん自分が知らないからって全部を否定する訳じゃ無いですが、
たぶん出回っても、政治界隈や選挙関係者、選挙を担当する一部の記者くらいでないでしょうか。
メディアの中にいても、端っこにいるフォトグラファーなんかは「出所不明の調査」なんて見たこともないです。


正直、僕には選挙情勢報道の社会的メリットよりデメリットの方が大きいとしか思えません。

なのに、紙面で掲載される小さな写真には、細かい部分まで気を遣ってモザイク……モザイク……

なんかちぐはぐですよね。

注目の選挙が始まり、紙面でネットで選挙活動のモザイク写真を見るたび、僕の頭にはいつもこのやり場の無い、やるせないメディアへの想いが頭に浮かんでくるのです。




ちなみに選挙の情勢報道は具体的な数字を出さない代わりに、決まった文言を使うことが慣例、どころか鉄則となっています。
↓の方のnoteがとてつもなく参考になります。

情勢報道するなら、これは新聞社がHPにちゃんと載せておかないといけでしょ……。だって読者と言葉の意味を共有してこその記事じゃん……。