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映画のはなし①「小説家を見つけたら」

 普段映画は頻繁に見る方では無いが、洋画でも邦画でも、気になったものがあれば見るようにしている。映画を見ること自体は好きだが、いわゆる
映画好きと言われるような人たちほど、今まで映画は見て来ていないように感じる。最近は英語の必要性に駆られて学習目的(もちろんストーリーが楽しみ)で洋画が見たいと感じるようになった。また、たまたまテレビ番組で見かけたが、舞台衣装を担当している方の「どんなに夜遅くに帰っても映画を一本は見る」という自己ルールを耳にし、「毎日は難しくても週に1回は見たい!」と思うようになった。映画にとても詳しい訳ではないが、見て良かったと感じた作品、心が動いた作品をご紹介していきたい。
(少し、展開のネタバレを書いています。ネタバレが無理な方は、
映画を見終わてから読むことをおすすめします)

偏屈なおじいさん作家と、文学バスケ少年の友情
 見ず知らずの年齢も異なる他人同士が、ちょっとしたきっかけで親友と言えるような間柄になっていく。全く異なるはずの2人の間にあるのは、2人であれば分かりあうことができる「共通言語」である。1つでも通じ合えるものがあるからこそ、お互いの事をより深く知っていける。この物語の共通言語は「小説」であり、「言葉」であった。
 
 いつもバスケットボールを手に持っている16歳のバスケ少年・ジャマール(ロブ・ブラウン)は、ある日友達からそそのかされ、怪しい建物の1室に忍びこむ。その部屋の持ち主は、いつもジャマールたちがグラウンドでバスケをしている様子を部屋の窓から覗いていたため、子供たちからは「ウィンドー」と呼ばれて気味悪がられていた。ジャマールは「ウィンドー」の部屋に忍び込むことに成功したが、部屋の主の気配に驚き、自身のリュックを置き忘れてしまう。「ウィンドー」の正体は、1冊しか本を出していないにも関わらず、時が経っても人気が衰えない作家のウィリアム・フォレスター(ショーン・コネリー)であり、彼がジャマールのリュックに入っていた創作ノートを勝手に添削したことによって、ジャマールとは師弟関係となっていく。

 ジャマールは外の世界ではバスケ一色の生活をしているが、家に帰ると本ばかりを読んでいる、静と動を合わせ持つ少年だ。それは興味関心、好みがスポーツと小説の両方を差しているとも言えるが、バスケも小説も、彼が自分の才能を生かして生きていくための選択肢である。ジャマールが住んでいるのはニューヨークの下町・ブロンクスであり、道端で車が燃えている様子が映されたりと治安が悪い。ジャマールは本を読み、書くことによって知識をつけ、学校の友達とは大きな差が出てしまうほどの学力(国語力)をつけていく。そんなジャマールの優秀な成績を知った有名私立高校から転校の誘いを受けて…。人生における1つの決断期を迎えた少年と老人の友情を描いたヒューマンドラマである。

 この映画の魅力は、年齢や育ってきた環境が違う相手とも臆さずに堂々と話すジャマール少年の真っすぐさであり、偏屈だけれど少年との交流を楽しみ、弱さも見せながら小説家としての威厳を見せるウィリアム・フォレスターの人柄だろう。ジャマールの「今の状況を変えたい」という強い思いが、冬の時代を生きる老人の心に火を灯し、少年の才能の芽を育てる決心をさせる。 

  私は、物語に小説や創作することが好きな人物が現れると、とても嬉しくなる。ジャマールにも当てはまるが本が好きな人には二面性があり、表の面では活動的だが、静の面を持つことで他の人物とは何か違う思考をしているところが魅力的に映る。ジャマールも常にバスケットボールを持ち歩いているという動が全面的にありながら、静の面がすくすくと成長し、いつしか動の面と対等に並ぶような、大きな夢へと変化していく。一番印象的な場面で、動と静、どちらの道を選ぶのか決定的に分かれる場面がある。緊張感の中、ジャマール少年がどちらの道を選ぶのか、ドキドキとした気持ちで見てほしい。そして、道を選んだ先も続いていく少年と老人作家との友情には、心が揺さぶられるものがある。
 
 蛇足だが、ジャマールは転校先の高校で友達を作るが、色白のお嬢様と金髪少年という美男美女である。あんなカッコイイ子と綺麗な子に毎日会えて、文学の勉強もできて…と「私も通いたい!」と思うほど素敵な学校だった。


・「小説家を見つけたら」(2000年製作/136分/アメリカ)
  監督 /ガス・バン・サント、脚本 / マイク・リッチ
  ※映画.comからトップ画像を引用



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