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2017年、「経血は赤い」という告白

 イギリスの広告界で初めて、生理用ナプキンの広告で「青い経血」の代わりに赤い液体が使われた。動画はこちら


 母がつけっぱなしにするテレビの中では流行りのモデルが生理用品をポーチから取り出し、開いたものを顔の近くで持ち、その製品の薄さを存分にアピールする。CMの中でそれらが受け止めるのは、「青い経血」である。モデルは生理について具体的なことは一切述べずに笑顔を絶やさず、白いボトムを着たお尻を突き出して颯爽と歩く。


 この間、生理二日目なのに白いボトムを履いて大学へ行って、服を汚してしまった。ズボンには言い訳がしきれないほどの大きな血のシミがついた。それを隠すにはトップスの丈も微妙に短く、舌打ちしながらトイレを出た。

 家には使い終わった生理用ナプキンを捨てる場所がない。公共トイレにあるような小さなゴミ箱は自宅のトイレの中には一つもないため、私は新品のナプキンが常備されている、頭上にある「秘密の」棚をあけ、ナプキンの入っていた袋に捨てる。ナプキンが入っていた袋に入った血だらけのゴミを持って、リビングの大きなゴミ箱には行けない。母は一人のタイミングを見てそのゴミを、ゴミ箱の奥深くに隠す。ナプキンを替えようと小包装を破ろうとした時、父の足音を聞き、息をひそめるようにして手を止める。足音が遠ざかるのを確認したのち、防水布がついたパンツから血を吸って重たくなったナプキンを剥がす。20歳の女性。

 14歳の頃、ナプキンをつけたまま水着を着ていた。

 家族旅行だった。海外旅行先で慣れない環境の中、生理が始まってしまった。体がだるい。頭がいたい。股から血を流し、下腹部が重い。そんな私に、母はナプキンをつけて水着を着ろと言った。耳を疑った。父には母から説明しておいてくれると思ったのに、母は何も言わない。言われるままに水着に着替える。小さな水着のパンツにナプキンはつけづらかった。その上から水着の一部の短パンをはく。これでナプキンは外からは見えない。はしゃぐ弟と浮き輪を膨らませながら、母は行ってしまう。私は無言で経血が漏れ出す不快感と戦っていた。弟が海に浸かっている姿を浜辺から睨んで、泣き出しそうになるのを堪えた。海ではナプキンもろくに替えられない。

 苛立つ私に対して、ついに父が「なんで海に入らないんだ?」と腹立たしそうに聞いてきた。美しい海がメインの旅行だった。私は何も言えず、海に浸かることもできず、そのままどうにかその何日かをやり過ごした。母は父に何も言わなかったのだ。水着から真っ赤なナプキンを剥がす時、自分の体と、人に言うべきではない「穢れた」生理と、それを耐えなくてはならない自分の性を呪い、静かに泣いた。私は14歳だった。初潮を迎えていて当然の年齢だったのに、父は私が生理用ナプキンを持ち歩き、月に一回股から血を流していることに全く想像が及ばなかったようだった。母も私の身体の成長をなかったことにし、(温泉に行くときに「おばあちゃんがびっくりするといけないからブラジャーはしていかないで」と言われたことを今でも覚えている)私の生理は、この日をもって家庭の中で明確に、タブーとなった。私は家庭の中で、特に父と弟の前で、初潮を迎える前の生理のない女の子を演じ続けている。20歳になった今でも。

 「生理する」という不思議な動詞がネット上で話題になった。アイドルの生放送で生理用ナプキンが映り込んだことに対し、生理=性行為後の出血だと勘違いしていたファンが「生理用品をもっているということは彼女は非処女だ」といったことを掲示板に書き込んだのだ。釣りではないかと言われてはいるものの、実際に生理は性行為後の出血だと思っている人もいるという。生理であることを隠して水着を着せられていた14歳の私が、父と弟に見られないようにスーツケースから生理用ナプキンを取り出す。父も弟も、女性は「生理する」ものだと思っていたのなら、私があんな風に抑圧されていたのも理解できる。

 もし48歳の父が、17歳の弟が、妻と娘と暮らしているにも関わらず経血が青いと信じているのなら、私は告白しなくてはならない。大きな声で。私はもう初潮前の女の子ではないということを。「経血は赤い」ということを。


 



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