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津波警報・注意報が“格上げ”された事例について調べてみた

【はじめに】
この記事では、2021年3月24日に放送された「ウェザーニュースLive」内の『教えて予報士さん』コーナーで取り上げられた「津波」に関する話題に関連して、津波警報や注意報が「格上げ」された事例について見ていきます。

1.津波警報・注意報は更新されることがある

このコーナーの1つ目の質問は、直近1か月で起きた地震に関連して、

  日 時  最大 速報→暫定  深さ
・2021/02/13 6強 M7.1→M7.3 約60km
  津波注意報「なし」 → 実際に津波を観測
・2021/03/20 5強 M7.2→M6.9 約60km
  津波注意報「あり」 → 実際には津波観測せず

この2つの地震で、「『津波注意報』が出るときと出ないときの違い」と、「津波注意報が出されなかったのに、実際に20cmの津波が観測された」ことなどが紹介されていました。その中で、

「たまにあるのが、津波無いですとか、若干の海面変動ですって言ったのに実際に津波来ることがあるんですよ。そういう時は出し遅れになるんですけど、津波注意報を出すということはあります。

(05:40)山口剛央     

「2月13日の地震で考えると、確定の震度やマグニチュードが入った時点で『津波の心配はありません。』とお伝えすると思うんですよ。そこで、『あ、無いんだ良かったな』とすぐ情報源を見るのを止めてしまうのは危険だということにもなりかねないということですよね?」

(06:00)武藤彩芽キャスター

「最悪は、無いと思ってたら、実際に後から津波注意報が発表された事例って稀なんですけどあるんですよね。 最新の情報を入手し続けるというのが重要です。」

(06:30)山口剛央     

という会話がなされました。

津波に関する情報の第1報は、地震発生から僅か数分後に、限られたデータ(速報値)をもとに発表されます。それゆえ、誤差を大きく含んでいます。

ですので、その後の「解析」や津波の実測の値によって、情報が修正され、津波に関する情報が更新されていくこともあり得るのです。前提として、「津波に関する情報は更新されうる」ものだということを、今一度ご理解いただきたく思います。(マグニチュードの速報値・暫定値については、以前書いた記事をご参照ください。)

(参考)過去(東日本大震災以前)の事例について

過去(東日本大震災以前)の主な見逃し、出し遅れ事例については、ホームページの『津波予報データベース』さんの頁のリンクを貼らせて貰います。

但し、これらは、現在のような体勢が構築される以前のものが中心なので、今回取り上げたいのは、東日本大震災以降の事例です。

厳密に言えば、2009年に「次世代地震津波監視システム」に移行されて以降となります。

配信資料に関する技術情報(地震火山編)第294号
地震津波監視システム2中枢化に伴う地震津波関係電文の本文中で用いる情報発表官署名の変更について【抜粋】(2009年3月2日~)


これまで気象庁本庁、札幌・仙台・大阪・福岡管区気象台及び沖縄気象台の6箇所のシステムから発表してきた地震津波情報について、本庁及び大阪の2箇所から発信する全国版情報に集約・統合

2009年以前は6箇所の本庁・気象台から管区ごとに発表されてきた地震津波情報を、全国版情報に集約して発表するようになりました。

以前は例えば、「00時01分にA地方の××県」→「00時03分にB地方の○○県南部と▲▲県」みたく地域毎に微妙なラグがあったのですが、
それが集約されて、「××県、○○県南部、▲▲県」などエリアを跨いで一括で発表できる体制になったのです。

1.2011/03/11 東北地方太平洋沖地震

システム変更があって初の事例となったのが、「東北地方太平洋沖地震」(東日本大震災を引き起こした)津波でした。

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最初は「M7.9」と速報値が求められ、その後、検潮儀が次々欠測となる中、「大津波警報(当時は大津波の津波警報)」が西日本にまで拡大していき、地震発生直後は「津波注意報(0.5m程度)」だった海岸に対しても、警報へ切り替えられていきました。

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これは流石に歴史上、稀有な例かも知れませんが、「最初が注意報」或いは「津波予報以下」だったとしても、『格上げ』される可能性があることを、強く教えてくれる事例だと思います。

だからこそ繰り返しになりますが、地震直後に「津波予報以下」だったからと言って、絶対に津波が来ないとは限らないことを肝に銘じる必要があるでしょう。

2.2012/03/14 三陸沖

震災からほぼ1年後に起きた「三陸沖」の地震は、日本海溝より東側の海域で起きた地震でした。

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2012/03/14 64km M6.9 三陸沖
18:08 最大震度4
18:12 津波注意報(青森県太平洋沿岸、岩手県)
    釧路沖の「海底津波計」での記録を考慮
18:35 津波注意報(北海道太平洋沿岸東部・中部)追加

当初、津波注意報が発表されたのは、三陸海岸のみでしたが、
その後すぐに釧路沖の「海底水圧計」が津波を観測しましたし、発震機構の解析で「断層の向き」を考慮した結果、地震発生から30分弱経った18:35、北海道にも津波注意報が追加されました。

実際この地震では、青森県と北海道で20cm前後の津波が観測されています。「向き」の予想が異なっていましたが、データを元にうまく修正できた事例だという風に感じます。

3.2013/10/26 福島県沖

2013年秋の福島県沖の地震でも、「津波注意報」が地震から40分後、かなり広範囲に追加されました。

2013/10/26 56km M7.1 福島県沖
02:10 最大震度4
02:14 津波注意報(福島県)
    CMT解析でMw7.1(←Mj6.8)と規模修正
02:50 津波注意報(岩手・宮城・茨城・千葉県九十九里・外房)追加

当初、速報値で「M6.8」と算出され、それを元に、福島県の沿岸に対してのみ「津波注意報」が発表されていました。

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しかし、その後の解析(地震波形に基づくCMT解析結果)で、「Mw7.1」と求められたことから、津波注意報の範囲が岩手~千葉県の広範囲に拡大されることとなったものです。

これについては気象庁が「津波予報の評価」を以下の様に発表しています。

本事例では複数の手法のCMT解析結果によるMwの評価に時間を要したため、津波注意報の切り替えまで時間を要し、 結果として切り替えから沿岸に津波が到達するまでに時間的な余裕が無かった。

とはいえ、CMT解析結果を踏まえ、津波注意報の発表を速やかに行おうとしていましたし、結果的に「注意報」が的中したのですから、展開自体は悪くなかったと思います。

4.2016/11/22 福島県沖

久々に「津波警報」が発表されることとなった2016年の福島県沖の地震は、『津波警報』が追加発表された直近例となります。

(1)経緯

2016/11/22 12km M7.4 福島県沖
05:59 最大震度5弱
06:02 津波警報(福島県) 
07:13 館山市布良:27cm 観測
07:26 津波注意報(千葉県内房、伊豆諸島)追加
07:39 石巻市鮎川:80cm(上昇中)観測
08:04 仙台港:144cm 観測
08:09 津波警報(宮城県)追加

この地震は、6時過ぎに「津波警報」が発表された後、2度、『格上げ』が行われました。1つ目は7時26分の津波注意報、そして2つ目が8時09分の「津波警報」の追加です。

伊豆諸島に関しては、館山などでの観測値を受け、7時26分に注意報追加。その直後(7時30分台)に大島や神津島で最大波(10cm台)を観測しました。

そして、「出し遅れ」だと感じるのが、8時過ぎに「津波警報」に格上げされた宮城県沿岸の情報です。

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当初から「津波注意報」は発表されていた宮城県の沿岸ですが、8時の段階で、「石巻市鮎川:80cm(上昇中)」という情報が発表されていました。

一概には言えませんが、福島県相馬で90cm、岩手県久慈と宮城県仙台で80cmなどと20分以上前に観測されている中、「80cm」かつ「上昇中」であるのならば、「津波警報」の発表基準である『予想される津波の高さが高いところで1mを超え、3m以下』を満たしそうに、素人考えでは思います。

3地点で80cmの観測情報が発表されたのが「7時44分」でしたから、それから仙台港で「1m44cm」の最大波を観測する迄に20分の猶予がありました。

2016/11/22 12km M7.4 福島県沖
05:59 地震発生
07:39 石巻市鮎川:80cm(上昇中)観測
07:44 上記情報が公表
08:04 仙台港:144cm 観測
08:09 津波警報(宮城県)追加

しかし、気象庁が「津波警報」を宮城県に追加したのは、「8時09分」で、気象庁が記者会見を行っている最中でした。

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津波警報が追加された直後(実際に観測されたのは警報発表の数分前)に「仙台港:1m40cm(上昇中)」の情報が発表されることとなったのです。

そして、現地調査の結果、宮城県東松島市大浜海水浴場では「高さ:4m」という津波警報の発表基準をも上回る津波が到達していた可能性があるとのことだったのです。

(2)断層の走向(向き)の違いとデータベース改善

何故こうした事態になったのか。結論としては、津波の高さの「予測」をする際に前提としていた「断層の走向(以下、向き)」が違っていたのです。

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断層の向きが、東西方向(福島県向き)でなく、北西・南東方向(宮城県向き)だったことなどが影響し、当初「注意報」だった宮城県(仙台湾)での津波が特に高くなったのだそうです。(上の図がイメージしやすいです。)

そして、2018年7月17日、気象庁の「津波予報データベース」に、新たに『実際の断層の向き等に基づく新たな約2,200通りの津波のシミュレーションを追加』する改善を図ることとなったのです。
(この改善の結果、2016年の地震が起きた場合、津波警報が宮城県にも発表されていたことになります。)

5.2022/01/15 トンガ諸島の海底火山噴火

メカニズム的には、通常の火山による津波と異なる様ではありますが、今回は「津波警報・注意報」の仕組みを使って情報が発表されたということで、敢えてこの記事で取り上げようと思います。

2022年1月15日に発生し、同日中に第1波を観測、翌日になって津波警報・注意報を発表した「フンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ」の海底火山の噴火についてです。(詳細はこちら)

また、「津波警報・注意報」をもっと早く出せたのではないのか? という提案については下の記事をご覧ください。


【おわりに】

ただし、ここでも注意が必要なのは、断層の向きやマグニチュードが、必ずしも「完璧」とは限らず、「津波の予測」も誤差が生じ得るものなのだということを重ねて強く認識する必要があろうかと思います。

津波の予測も日々進歩しているから全幅の信頼を寄せる…………というのは、東日本大震災を見るまでもなく危険です。気象庁の出す情報を正しく理解して避難行動を行うと共に、情報の限界や特性を理解して『もしかしたら』と危機意識を高く持つ方向に考えて行く必要があろうかと思います。

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