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「潮位変化の実測データ」をみていればもっと早く津波警報・注意報を出せたのでは? 説を検証【トンガ火山噴火 編】

【はじめに】
この記事では、2022年1月15日に発生したトンガ諸島付近での火山噴火と、それに伴う日本列島の「津波に関する情報」について、もう少しうまくやる余地は無かったのか探っていきたいと思います。

0.今回の危機意識について

今回のトンガ諸島付近の火山噴火は、俗に100年に1度クラスとも言われ、気象庁の津波情報の前提に盛り込まれていなかったメカニズムであった中で「津波警報の仕組みを使って」警報・注意報を発表したことは一定の評価ができると思っています。

しかし従来から時折見られた脆弱性(普段の地震津波でも認められた内容)がかなり今回再現してしまいました。なので、今回認められた問題のうち幾つかは、今回が特別なケースではなく普段でも起こり得たと考えます。

また、SNS上では「気象庁は最善を尽くした」といった論調のつぶやきなども見られましたが、以下に示す通り(具体的に言えば、「潮位観測情報」の図を見て、実測データを反映していれば、)1時間単位で早く情報を発表することが出来たのではないかと感じました。
その点で、全くの素人である私からみても「改善の余地」があったと感じ、「最善を尽くした」は言い過ぎではないかと感じたのです。

以下に示すのは、例えば、緊急地震速報を最も揺れの強い地域に間に合わせるなどの絵空事ではなく、一般にも公開される情報で改善の余地があったと考えるものです。専門的なことは分かりませんが、少なくとも、この見方をしていたら「違和感」をもっと強く抱けたのではないかと信じて。

1.想定/シミュレーションとの乖離からの対応

昭和の終わり頃(1983年の日本海中部地震の後)から、津波警報・注意報は即時性を高め、今では数分で発表されるようになりました。これは、気象庁が「津波予報データベース」を蓄積し、数値シミュレーションに基づく注警報の発表の仕組みを確立したからできたことです。

ただ、東日本大震災の時や2016年の福島県沖の地震でも明確になった様に、これも全く完璧ではありません。「前提」が間違っていれば、実測値と乖離することが(まま)あるからです。
想定よりマグニチュードが大きかった(想定外)、想定と断層の壊れる方向が違っていた(想定外)など、度々、原因が述べられてきましたが、大事なのは実測データに基づく「より柔軟な修正」への姿勢です。

※ひょっとすると21世紀の気象庁は、シミュレーションに人間の手を加える経験が20世紀の頃よりも減っていて、そこの経験値やノウハウが不足してるのではないかと感じた次第です。(想定外への気象庁担当者間での訓練や、マニュアルは整備されているのでしょうか?)

気象庁 > 津波警報・注意報、津波情報、津波予報について

私が各種の「定義」などを見る限り、津波警報は『予想される津波の高さが高いところで1mを超え』る場合、津波注意報は『予想される津波の高さが高いところで0.2m以上、1m以下の場合であって、津波による災害のおそれがある場合』とされています。

これに則れば、◯◯県に設置している「××港の験潮所」で90cmの海面変動を観測されたとあれば、「◯◯県内で、高いところで1mを超える」可能性の方が高い様に感じるのです。事実、今回、津波注意報止まりではあったものの、高さ90cmを験潮所で観測しているエリアが結構ありました。なのに、そこは上記の「定義」からある種外れて「津波警報」は発表されなかったのです。

まして今回、通常の地震津波とは異なるメカニズムで発生していて、想定よりも早く海面変動が始まっていることなどを気象庁も説明(認識)していたのですから、(結果的に1mを超えなかったとしても、不透明な段階では)安全方向に舵を切った注・警報を出すべきだったのではないかと思います。

2.日付変わる前から潮位は変わってた

と、以上が「戯言(ざれごと/たわごと)」で終わっては困ります。これも2011・2016年などにも感じたことで、「具体的な改善の提案」でなければ、絵に描いた餅であり、素人、門外漢の非現実的叫びに終わってしまいます。

素人目にみて、一番信頼が置けるのはブラックボックス的なシミュレーションよりも、各験潮所からリアルタイムで送られる「実測値」のデータです。想定を現実が上回ったならば、現実に対応する必要があります。そこを今回重点的に書いていきたいと思うのです。

※もちろん、東日本大震災の時のように、験潮所からの通信が途絶する様な事態も想定する必要があります。ただ、警報クラスまでであれば検潮儀が流されることは珍しいと思いますので、転用できると信じています。

3.Rx的シミュレーション

今回の話を少し簡素化してしまえば、
「潮位」は変化していたけど、「地震・火山噴火による津波●●」とはメカニズムが違いそうだったから、「津波警報・注意報」の発表が遅れた
となるように私は気象庁の記者会見などを聞いて感じました。

ただ、素人の私からすると、その思いを要約すれば、
「潮位」が変化しているんだから、発生のメカニズムがどうあれ(不明確であっても)、何らか注意喚起はして欲しかった
という一言に尽きると思います。その観点で、以下の提案に移りたいです。

ワンチャン、法令上または定義上「津波注意報」が出せなかった、出すのに時間が掛かるとしても、『原因不明/調査中ですが、現在、日本各地で潮位が変動しています。津波であれば注意報クラスです。津波注意報の発表にはまだ時間が掛かりますが、どうぞ海岸からは離れて下さい。』などと口頭で注意喚起することは出来たのではないかと思うのです。

① 20時台:「気圧の変化」で異常事態と知る

ウェザーニュースが「ソラテナ(独自観測網)」で図示した「気圧の変化」が、未明には公開され多くの視聴回数を伸ばしていました。

即時にこれに気づくことは経験的に難しくても、こういう異常事態が起きていることに何処かで気がつければ、“対応を早める余地”が出てきていたかも知れません。

② 21時台:「津波注意報」第1報を出したい

気象庁の「潮位観測情報」のページは、無料でわかりやすく「潮位の変化」をグラフで見ることが出来ます。これをチェックしていれば、いち早く潮位の変化に気づくことが出来たと思います。

(1)父島

まずは当初から、地理的に最も早く潮位変化を捉えるだろうと見られていた小笠原村「父島」の観測点です。20時頃から波の周期がかわり、21時の段階で、30cm近い上下幅を捉えています。

上に示しましたが、「津波注意報」というのは「20cm超」が目安ですので、この潮位変化だけを見ても、21時頃の段階で「津波注意報」を出していても良かったのではないかと感じるほどです。(実際の発表は24時過ぎで、このデータはそれより3時間も早かった)
ですから、気象庁は、この段階で「潮位の変化」を捉えてはいたのです。

(2)三宅島坪田

まだ、小笠原村は本土から離れていますから、そこまで慌てる必要はないと考える方もいらっしゃるかと思います。しかし、時刻を同じくして、三宅島の坪田でも、20cm弱の潮位変化を捉えています。それがこちらです。

三宅島といえば本州から100km程度の位置ですから、小笠原とは「緊急度」がまるで違うことが分かるはずです。『もう本土に津波注意報クラスの潮位変化が迫ってきている』と、感じて欲しかったですねぇ。

Rxなりに考えた注意喚起のストーリー
『19時頃、津波による被害の心配はないと発表しましたが、20時を過ぎた頃から、伊豆・小笠原諸島などで津波注意報に相当する潮位変化を観測し始めています。正直申しまして、津波の到達予想よりも2~3時間近く早い理由は現在調査中ですが、防災上の観点から深夜になる前に注意喚起の情報を発表させていただきました。詳細は分かり次第、追ってお知らせします。』

③ 22時台:予防的に「津波警報」も検討できた

(1)父島

その父島では、22時台後半になると、50cmとそれまでの倍に達し、その次の波は90cmに迫る値となっています。もうこの段階(23時付近)で、最低でも「津波注意報」を、予防的ならば「津波警報」を出しておくべきだったという風に感じます。

Rxなりに考えた注意喚起のストーリー
『父島でのデータを見ますと、23時前の段階で上下に50cm近い潮位変化を捉えています。これは十分に津波注意報に相当する値です。その前と比べると倍近い高さになってきています。もし仮に今後更に上下幅が拡大した場合は、津波警報への切替も視野に潮位変化を注視していきたいと思います。」

④ 23時台:予防なら「津波警報」を出せた

22時台に父島で90cmに達した段階で、予防的な意味合いであるならば、遅くとも23時台には「津波警報」を出せていたと思います。

(1)奄美

そして、23時台後半に入ると、数十センチで2時間以上推移してきた「奄美(小湊)」で、従来の3倍近い変化が観測され始めます。

ご承知のとおり、23時55分に1m20cmの潮位変化が認められ、24時15分に「津波警報」が奄美群島・トカラ列島に発表された訳ですが、その直前にも1m弱の変化が観測されていました。この段階で「津波警報」が出せていれば、最大波とほぼ同時だったかも知れません。(実際には20分以上の遅れ)

大きい波の1本目で出せていれば、という話しです。

Rxなりに考えた注意喚起のストーリー
『徐々に本州などでも上下幅が大きくなってきています。どうぞ海岸や川の河口付近からは離れて下さい。そして、奄美の観測点でも、1m近い潮位変化が認められました。
 どうやら午前0時には目算ですが1m20cm程度に達した様ですので、津波警報と同様の行動、標高の低い所では高台や避難ビルなどに避難をお願いします。
 また、今後の観測状況によっては、津波警報・注意報への切り替え(格上げ)も十分ありえますので、今後の情報に十分注意してください。』

⑤ 24時台~:「津波警報」の拡大の有無

実際には、24時15分に「津波警報・注意報」が発表されました。しかしここまで潮位観測のデータを見る限り、「メカニズム云々」の話しを置いておくことが出来たならば、もっと早く情報を発信できたのでないかと感じます。

そして、日付が変わってからは、「津波注意報」から「警報」への切り替えについて見ていきたいと思います。

(1)久慈港

午前3時前に「津波警報」に切り替えられた岩手県。その他の観測点では数十センチ程度でしたが、北部の「久慈港」では1m10cmに達しました。

徐々に満潮に向かっていくにつれ、60~80cm程度の上下幅が高潮注意報の基準に迫っていき、午前2時半過ぎには高潮警報の基準すらも突破します。

しかし、その前から8~00cm程度の上昇が認められていた訳ですし、岩手県はご存知のとおり、リアス式海岸による津波の増幅が顕著な地域です。
久慈港以上に大きな潮位変化になりうると考えられれば、日付の変わる段階(現実には注意報が出た頃)で、本来は「津波警報」を発表していても良かったのではないかと感じます。

(2)霧多布港

北海道浜中町霧多布港では、21時過ぎから音楽記号の「クレッシェンド」の様に波ごとに最大波を更新し続け、午前1時過ぎには「潮位偏差」を1m以上上回る波を観測しています。一気に「高潮警報」基準に達する規模です。

そして、午前3時には引き80cmを観測している所からも、本来であれば「津波警報」を発表していても良かったのではないかなと感じました。

(3)仙台新港

前回の津波警報に当たる2016年11月22日の福島県沖の事例で、高さ1m44cmを観測した宮城県の「仙台新港」。

プラスよりもマイナスの方向に若干大きめに出ている印象ですが、午前0時過ぎの値は特にひと波が大きく、結果的には幸いこの程度に済みましたが、未来が予測しづらい状況なら特に警戒が必要なエリアだったのではないかと思います。

【おわりに】

以上が気象庁の潮位観測情報に基づくシミュレーションでした。纏めると、

シナリオ《 現実のストーリー 》
21時台:潮位変化の兆候を察知
 ↓
23:55:奄美で1mを超える潮位変化を観測
 ↓
24:15:津波警報・注意報を発表

シナリオA《 理想的なストーリー 》
20時台:気圧の変化で異常事態を察知
 ↓
21時台:伊豆・小笠原を元に全国に「津波注意報」を発表
 ↓
22時台:父島の上昇をもとに一部で「津波警報」に切り替え
 ↓
23時台:奄美のデータ等から予防的に全国で「警報」に切り替え

シナリオB《 現実的なストーリー 》
21時台:予想より早い潮位変化に「注意喚起」を促す
 ↓
22時台:「津波注意報」ないしそれに準ずる情報を発表
 ↓
24時頃:奄美などで「津波警報」に切り替え

となります。これは潮位変化のメカニズムの特定は一旦置いておいて、現実に目の前の検潮儀が想像を上回る「潮位変化」を捉えていることを、鋭敏に察知して欲しいと感じたものです。

重ねてになりますが、「メカニズム云々」の話しが無ければ、潮位変化の実測データを元に「津波警報・注意報」をもっと早く出せたはずです。
もし、この潮位変化が1m前後ではなくこの数倍だったならば遥かに被害は甚大なものとなり、今回の説明も苦しいものになっていたはずですからね。(ちょうど2011年の東日本大震災の時の苦言と同じように)

気象庁の皆さんには、高度化した理論やシミュレーションに頼りすぎずに、定義や制度の柔軟な利用の訓練を積んで頂ければと思いますし、報道の方々には「津波報道時の『時系列の整理』」を重点的に取り組んで欲しいと思います。
そして我々=庶民は、津波に関する情報は不確実性が高いことを再認識し、ちゃんと自らの目と耳で情報を取捨選択することの重要性を再確認しなければならないと感じました。

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