見出し画像

「Firebird ファイアバード」:ソ連占領下での禁断の恋物語。同性愛どうのこうのより、この将校がひどい奴だと思う。。

<あらすじ>
1970 年代後期、ソ連占領下のエストニア。モスクワで役者になることを夢見る若き二等兵セルゲイ(トム・プライヤー) は、間もなく兵役満了を迎えようとしていた。そんなある日、パイロット将校のロマン(オレグ・ザゴロドニー) が、セルゲイの基地に配属されてくる。ロマンの毅然として謎めいた雰囲気に、一瞬で心奪われるセルゲイ。同じくロマンも、セルゲイと目が合ったその瞬間から、体に閃光が走るのを感じていた。写真という共通の趣味を持つ二人の友情が、愛に変わるまで、多くの時間を必要としなかった。しかし当時のソビエトでは、同性愛はタブー。発覚すれば厳罰が待っていた。一方、同僚の女性将校ルイーザ(ダイアナ・ポザルスカヤ) もまた、ロマンに思いを寄せていた。そんな折、セルゲイとロマンの関係を怪しむクズネツォフ大佐が、二人の身辺調査を開始する……。

KINENOTEより

評価:★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

日本をはじめ、西側諸国のLGBTQへの理解が急速に進んでいる昨今。もっとも進んでいるのはやはりアメリカで、ハリウッド作品とか見ていると、ディズニーアニメなどでも特に美化することなく、普通に同性への想いをシレっと描いているところはさすがだと思いますし、日本をはじめ、それ以外の国でも普通の恋愛映画の枠組みの中で、同性同士の恋物語を(ゲイムービーという固定の枠ではなく)ラインナップ化できています。ただ、これも特色といえばそうですが、そもそも同性愛が宗教的に認められていないイスラム圏の国々の作品や、映画大国であるインドや統制国家である中国などで近年まで同性愛が政治的に認められていない背景もあり、キャラクターとして同性愛を匂わせる作品はあっても、露骨には描かれないというところもあったりと、映画作品だけで見ても世界のLGBTQの状況がどうであるかが理解できて興味深いところでもあったりします。

そんな中、公開された本作の舞台は、今は西側諸国である旧ソ連国家の一部であったエストニア。後半は舞台をモスクワに移していますが、予告編を観ても分かる通り、ロシア映画ではなく、エストニア(一部イギリス資本が入った)映画の英語劇という分類の作品となります。時代が1970年代の話となっていることもありますが、なぜロシア製作の映画になっていないのかというのは、この映画の製作理由の肝になっているところだと思います。作中のクレジットにも登場しますが、今のロシアは2013年にプーチン大統領によって署名された「ゲイ・プロパガンダ禁止法」により、同性愛だけでなく、同性愛の描写や保護するプロパガンダも含めて禁止されています。作中にも登場しますが、イスラム諸国と同じく、ロシアの国教であるロシア正教会が同性愛に否定的であり、それを受け継いでいるロシア帝国であったり、旧ソ連でも同じような形で同性愛を規制する法典を持っていました。それが1990年代のソ連崩壊のプロセスの中で犯罪として位置づけられなくなったのですが、各地方での文化的に否定的な流れをプーチン政権下で再び規制対象となってしまったという近年の流れになっています。本作は、この世の中の流れに対するアンチテーゼを示す作品となっていると思います。

という映画の内容以前の意義は重要と思いますし、映画の内容的にもシリアスな展開でなかなか悪くない。基本的には、退役前の若き兵士セルゲイとパイロット将校のロマンとの恋愛劇になっていくのですが、この将校が恋愛に対して一癖も二癖もある自己中なやつで、全然ノレなかったです(笑)。もちろん、ゲイカップルにとって、仕事のことや家族のことなど、いろいろな障壁があるのは当然だし、それを本作もきちんと描いている(特に、軍の中の密告とか、今のロシアとかでは普通にあるのだなと思うと震える。。)のですが、それを抜きにして普通の恋愛劇として捉えても、ロマンというやつは酷いなーと思わせる展開になっています(まぁ、映画の話となるのでネタバレはしませんが、、)。単純に無垢なセルゲイの恋愛&自己成長劇としてみれば、大きなスケールでドラマが展開する大河ドラマとなっているので見どころは残るものの、やっぱ核心の部分が”んーーー”という感じだと評価は低くなっちゃいますね。。

<鑑賞劇場>MOVIX京都にて


この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?