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「ゴールデンカムイ」:主人公は全く似ていないが、原作の良さを上手く引き出した秀作実写化作品

<あらすじ>
明治末期、日露戦争終結直後の北海道。二〇三高地での鬼神のような戦いぶりから“不死身の杉元”との異名を持つ日露戦争の英雄・杉元佐一(山﨑賢人)は、ある目的のために北海道で砂金採りに没頭していた。そこで、のっぺら坊という男がアイヌ民族から莫大な金塊を強奪し、捕まる直前にとある場所に隠したことを知る。その男は、金塊のありかを記した刺青を身体に彫った24人の囚人を脱獄させた。刺青は24人全員でひとつの暗号になるのだという。そんななか、ヒグマに襲われた杉元は、アイヌの少女アシリパ(山田杏奈)に助けられる。金塊を奪った男に父親を殺されたアシリパは、父の仇を討つため、杉元と行動を共にするのだが・・・。

KINENOTEより

評価:★★★★
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)

野田サトルの同名コミック作品を、山崎賢人、山田杏奈らのキャスト陣で映画化した作品。監督は、「HIGH&LOW」シリーズで同じような人気コミック作品を映画化した久保茂昭。僕は映画公開を知って、公開前に少し原作コミックを読み始めた(映画鑑賞時でコミック8巻くらいまで)のですが、結構囚人の皮をはぐとか、雑魚キャラから主要敵キャラも無残に殺されたりする描写がサラッと描かれていて苦手な感じのする作品ではあるのですが、それ以上に興味深いのがコミックの枠にも収まりきらない敵キャラの個性の強さとか、北海道の厳しい自然の中でまるで動物のように本能丸出しにかかってくるところのアクションの面白さ、そして何といってもヒロインであるアシリパが披露していく自然をもとにしたアイヌ文化の奥深さ、映画にも描かれる杉元と白石の「孤独のグルメ」級のアイヌ料理の美味しそうな描写にも心和むところがあったりと、アイヌ埋蔵金を巡るミステリー的な面白さと様々要素が同時並行的に描かれる骨太感にやみつきになってしまう。。(書いていても自分でもよく分からなくなりますが、笑)いろんなところの良さが詰まっているところが、原作コミックの魅力でもあるのです。

そんな文字通り、”濃い”原作の実写化作品ということで、「○○の巨人」とか、「〇の錬金〇師」とか、原作ファンのため息が出てしまうようなネガティブな鑑賞にならないのかハラハラしましたが、そんな心配ははっきり言って杞憂でした。ただ、例えば主人公の杉元であったりすると、山崎賢人というより、例えば、鈴木亮平とかのようなもっとマッチョなキャラのほうが原作イメージには合っているかなとも思います。でも、杉元であったり、アシリパであったりの主人公的な存在をあえて薄くすることで、敵キャラである土方であったり、鶴見中尉であったりのほうの濃さがより引き立つのです。特に土方演じる舘ひろしは、もう最高の一言。この作品は北海道を舞台とした日本版ウエスタン(埋蔵金ゴールドラッシュというところもあり)でもあるのですが、銀行強盗の場面とか、もうカッコいいの一言。土方との対立構造となる第七師団の鶴見中尉も決して負けていない。最後のアクションシーンも下手すれば作り物感が前に出てしまうのですが、玉木宏のノリいい演技もあって手に汗握る肉弾戦となっています。

それに主人公グループを取り巻くサブキャラたちも最高。僕の推しの白石も矢本悠馬はその通りな感じの熱演だし、今回は登場場面が少なかった尾形も眞栄田郷敦が醸し出す雰囲気が、次回以降の活躍も予感させる。それにアイヌの村(コタン)の再現度も、そこに出てくる長老や子どもたちもまさに原作のイメージ通り。それに何気にいいのが、CGでしっかり描かれる熊やエゾオオカミ(レタラ)もしっかり演技に絡んでくるところ。もちろん実際の動物たちを使っているわけではないのですが、作り物感が少ないところが結構凄いなと観ていて思います。今回は原作コミックを見てもほんの触りの部分(コミックだと3巻くらい?)しか出てこないことと、エンドクレジット後の今後登場するキャラたちの見た目の濃さ(笑)を見ても、楽しみが膨らんできます。

全体的に楽しいし、北海道のダイナミックな自然の美しさやアイヌ文化の奥深さをスクリーンから直に伝わってきます。昨今はモノの資産化と流通による経済発展で進んできた農耕文化で発展してきた日本民族から、強き者から弱き者まで役割を与えて一族を守る共生社会を形成してきた狩猟文化の蝦夷であったり、アイヌの文化に回帰している(見直されている)一面があります。しかし、忘れてはならないのは近代化の中で、そうした人々を私たちは迫害や差別の対象にしてきた歴史もあるということも忘れてはなりません。こうした楽しいエンターテイメントとともに、アイヌ文化にも触れ、学べる機会にできてくるといいなと思う気持ちの良い鑑賞でした。

<鑑賞劇場>TOHOシネマズくずはモールにて


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