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EndlessSummer

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記事一覧

もう寝そべることのできない畳の上で

途方もなく暑い、夏があった。

あの夏に、あの部屋で起きたすべてのことを、
わたしは生涯、心に抱えて生きていく。

それだけは、決めている。

うだるような湿った海風が染み込んだ畳があった。
痛いほどくっきりと分かれた、生と死があった。
肌と心がいつも火照っていた。
毎日が、冒険だった。

朝が来て、太陽が昇り、私たちを照らし、
夕方オレンジ色の影をつくったら、次は夜がおりてくる。
ただ繰り返す。

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Endless Summer 第3章 恋の最初の一口

学連のヨット連中には、色々なやつがいた。

中でも綾乃がいた、今井浜に拠点がある大学の連中は、あまり真面目にレースでの結果を目指していない、ナンパ型が多かった。

女の子も多くて、男女仲良さそうにワイワイやっていた。

女の子とは呼べないような硬派筋力女子ばかりの僕の浜に比べて、女の子のレベルは悔しいけど高かった。

でも僕は、彼女探しや女漁りに海へ通ってたんじゃない。そんなことが目的なら、渋谷に

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Endless Summer 第2話 約束の交差点で

ものがたりは、始まらなかった。

でも、だからこそ、終わりもしなかった。

ものがたりの1番のハッピーエンドは、「2人はずっと幸せに暮らしました。」だけどそれはシンデレラや白雪姫みたいな、本物のものがたりにだけ許される特別な終わり方なのだ。

僕たちが幸せを夢見て心に描くものがたりは、現実と交錯していて、そこにはたくさんの、どうしようもない、かったるくてうすのろで、低俗で即物的な雑務が浮遊して、空

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Endless Summer 第1話 プロローグ

「BackStreetBoys」の「Shape of my heart」が、僕を眠りの底から呼び戻した。

ジジジジという不快なバイブ音に混じって、サイドテーブルの上のケータイからその音は流れている。

「でんわだ」

僕はばかみたいに声を上げ、その自分の声でいよいよ目覚めた。

といっても、外は漆黒の闇。ここはまだ、夜の世界だ。BackStreetBoysの着メロが一周して、二周目に入ったあたり

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