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明太だし巻きは難しいけど至福の料理【#料理はたのしい】

 私は大の明太子好きである。したがって福岡県が大好きだし、よく遊びに行っては中洲の飲み屋で手あたり次第に飲み歩いていたりする。

 中でも大好きなのは、コレステロール・イン・ザ・コレステロール。

 明太だし巻きだ。

 言葉の通り中に明太子が入っているだし巻き卵なのだが、とろっとした卵とだしのうまみと、中に入った明太子のじゅわっとした食感が病みつきになる料理である。
 関東でも食べられる場所はあるが、福岡ではどこの居酒屋に行ってもメニューにあるし、さすが本場、味に外れがない。

 私はある日、自宅でも明太だし巻きを食べられないかと思いつき、だし巻き卵について調べ出した。すると、だし巻き卵自体、結構難易度が高いらしいではないか。

 俄然やる気になる。

 誰も見ていないのに髪の毛をふぁさっとかき上げ、「我に出来ぬ料理ナシ」などと宣言した。
 なお、食が細いので普段から料理はそんなにしない。誰かに「料理する?」と聞かれて、「できない」と答えると対外的女子力が下がるため、見栄でこなす程度である。

 ただ、お弁当を作る時などに卵焼きは作るので、自信はあった。同じ卵料理でしょ、と。

 間違いだった。

 初めて挑戦しただし巻き卵は、焼く途中で卵の膜が破れてしまい、うまく返すことができなかった。結果、ぐちゃぐちゃになる。スクランブルエッグである。

「馬鹿な……!」
 私は歯噛みした。

 だし巻き卵は、卵焼きと違ってだし汁が入ることにより、なぜか巻くのが難しくなる。水分量の問題だろうか、だしが焦げやすいのか。とにかく、卵焼きと思って甘く見ると失敗する。

 いったんその日はあきらめ、YouTubeでだし巻き卵の動画を見て勉強することにした。複数の動画を見比べたが、誰しも押しなべて「油を敷け」と言っている。それも、一度ではない。卵を巻いた後、卵を流す前に、毎回、フライパンがテラテラするほど油を敷くのである。

 この学びは功を奏した。フライパンを熱し、キッチンペーパーでフライパン全体に油を敷く。卵を流し込む。頃合いを見て、返す。油を敷く。卵を流し込む…。この繰り返しだ。焼き加減、固さはお好みで良いと思う。

 やった。これで、普通のだし巻き卵はできた。

 しかし、私が作りたかったのはだし巻き卵ではない。明太だし巻きだ。

 私は明太子の皮を取り、それをだし巻き卵の巻き始めに乗せた。しかし、染み出した明太子の汁が卵液と混ざり、焦げ付いて、またしても卵の膜が破れてしまった。その上、明太子が焼けて固まってしまい、焼き明太子になっている。お店で食べた時のトロッとした食感とは程遠い。

「馬鹿な!!」
 私は再び吠えた。これは明太だし巻きではない。ただの、スクランブルエッグ・イン・ザ・エッグである。
 今のままでは、この料理を成立させるのは不可能だ。

 しかし私は美味しい明太だし巻きをいつも食べている。あれは何だったのか。夢か幻か。
 私は、よくよく明太だし巻きを食べたときのことを思い出した。そう、口内を駆け抜ける爽やかな酸味があったような気がする。

 シソじゃ。

 私は名探偵のごとく閃いた。
 大葉を敷けば明太子の汁が漏れづらくなるし、熱の伝わり具合も緩和される可能性がある。あとは時間との勝負だ。焼き明太になってしまう前に巻き切るのだ。

 うおおおお!

 私は卵を流し込む。素早く大葉を敷く。頃合いを見て、返す直前に明太子を流す。返す。油を敷く。卵を流し込む…。とにかく無心に繰り返した。何度か失敗したが、最終的に、ふんわりとした卵、じゅわっとした明太子の明太だし巻きを作ることができた

 なお、ここに至るまで、連続十日間、だし巻き卵ないしスクランブルエッグを食べ続けている。

 私は完成した明太だし巻きを皿に乗せ、鼻息も荒く360度写真を撮りまくった。

 これだけ苦労したのである。
 誰かに褒められなければやってられない。

 私は脳内の知り合いリストを検索した。

 そういえば、会社の後輩の女の子が明太子好き仲間だったな。

 私は、一番よくできた明太だし巻きの写真を送り付けた。
「後輩ちゃんも良かったらやってみてね!」などと添える。当然、大葉を敷くなどの詳細は伝えない。簡単に真似されては困る。

 先輩から突然明太だし巻きの写真を送り付けられた後輩は、困っただろうに、いい子なので、「私もうまくできたら写真送りますね!」と返してくれた。なんていい子だろう。マウントを取らんとしたわが身の不徳を恥じるところである。

 申し訳なくなった私は、「明太子と卵の間に大葉を敷くといいよ。破れやすいから気を付けてね!」と自分で掴んだコツらしきものを添えた。

 以来、たまに作っては食べているが、自分好みの味、固さで食べる明太だし巻きは本当に美味しい。これが料理のだいご味だと思う。

 なお、後輩からのツクレポは、まだ来ない。


#料理はたのしい に寄せて。

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