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働きやすい会社は、採用にとことんこだわる

Netflixの組織制度の原則のひとつに「最高の報酬は最高の人材と働くこと」があります。社員食堂などの福利厚生も良いけど、結局はドリームチームの一員として働くことが最高の環境だよね、という考えです。

今年の8月から働いているDuolingoにも、共通する部分が大いにあります。

Duolingoの社員はみんな本当に優秀です。上司(CMO)はハーバード卒→Yahoo CMO→キッザニアGlobal CMO & US President...(以下省略) 現在も複数の社外取締役をつとめるエリート。マーケティングチームにはAirbnb、Spotify、Google出身者、戦略チームには世界最強ファンドKKR出身者、などなど、挙げ出したらキリがないくらい。右を向いても左を向いても、ピカピカの「A+」人材ばかりです。

そして全員に共通しているのが、みんな本当に良い人。優しい。優しすぎるくらい。本当に、Niceな人しかいないのです。

どんな些細なことを聞いても親切丁寧に教えてくれます。もう「Happy to help!」みたいなテンションで、眩しすぎるくらい優しいのです。
社員の誰かが「休暇をとります」とメールすると、「楽しんで!」「ゆっくりね!」とみんながスレッドに全返信する。そんな平和な文化が自然と根付くくらいに、心理的安全性MAXな組織なのです。


みんな超優秀で、優しくて、全員が同じ方向を向いている。つまりDuolingoは最高に働きやすい職場です。リモートで一人で日本から働いていても、全く寂しく感じません。
(入社時の記事はこちら)

一体どうやってこんなすごいチームをつくったのか?CEOルイスとの話と、面接のプロセスがユニークだったので、ご紹介したいと思います。

(ちなみにルイスは、ウェブサイトなどに登録する際に「ロボットでないこと」を証明する、あの有名なCAPTCHAとRECAPTCHAの開発者です。そして、それらをGoogleに売却した連続起業家です)


採用における心構え

ルイスとじっくり話をする機会があったので、組織や採用の考えについて聞いてみました。

「みんな優秀で、良い人ばかりだし、しかも足並みが揃っている。こんなすごい組織、どうやってつくったの?」

ルイスは「採用にすごいこだわっているからね」と嬉しそうに言いました。

「(性格が)Niceな人しか採用しないと決めているんだ。Not Niceな人を採ると、周りにも影響が出てしまう。従業員が一緒に働きたい人のみ、採用している。だからどんなに優秀な人でも、Niceじゃなかったら採用しない
「採用には時間と労力をすごくかけている。平均して、一人採用するのに1,000枚のレジュメを見る。そしてたくさんの社員を面接に入れる。そうやって時間をかけて見ていくんだ」
「日本は特に良い例。去年の7月(1年前)からカントリーマネージャーを探し続けていた。いい人はもちろんいたが、『Right Person』はいなかった。ようやく、全員がYESと言う人が見つかった」

採用にこだわっていることはわかりました。でも冷静に考えて、1年以上も適任者を探し続けることが得策とは、どうしても思えません。なので続けて尋ねました。

「でも、そんなに時間をかけたら、いろいろな機会をロスしてしまうことにならない?」

「もちろん、諸刃の剣でもあるよ。とくにスピードは落ちる。例えば日本の例に戻すと、採用しようと思えば去年の8月にでもできたと思う。そう考えると、日本の成長の機会を失ったことになる。でも我々は、スピードや成長より、Right Person(正しい人)にこだわる

スピードやグロースより、Right Personが大事。ルイスはなんの迷いもなくそう言い切りました。スタートアップのCEOがそう言い切るなんて、ちょっと信じられませんでした。

「なぜそのプライオリティなの?」

「ロングタームで見れば、その方が早いからだよ。正しい人は正しいことをするからスピードも上がるし、再び採用する必要もなくなる。反対に正しくない人を採用すると、ネガティブな影響が出てしまって、それを修復するのにもまた時間がかかる」

この考えには痺れました。採用にコミットする経営者は多いと思いますが、採用が事業のグロースより上だと言い切る人は見たことがありません。


ただ、言うは易く行うは難し。心構えを超えて、考えを行動に落とし込むにはどうしたら良いか。答えは「プロセスで判断する」仕組みをつくることでした。

Duolingoの面接は相当に綿密で、本気でRight Personを探すプロセスそのものになっています。自分の実体験交えてご紹介します。

Onsite Interview & Presentation

Duolingoの面接では、他の外資系企業も一般的に取り入れている「Onsite Interview(オンサイトインタビュー)」を採用しています。

オンサイトインタビュー:面接官と1対1(まれに面接官が複数のケースもあります)で、1人につき30分〜1時間程度の面接を、複数人の面接官(だいたい5〜6人の場合が多いです)と連続して行います。

オンサイトインタビューではそれぞれの面接官の役割が決まっています。例えばカルチャーフィットを見る人もいれば、専門的なスキルを見る人もいます。また、これまでのキャリアで他部署とどのように仕事をしてきたかを掘り下げる人もいますし、戦略思考の素地を見る人もいました。

質問内容も、予め決まっています。

例えばカルチャーフィットを見る面接官は(たいていは人事が担当)、過去にどのようなカルチャーの会社で働いてきたか、好きだったか嫌いだったか、それはなぜか、などを聞きます。他部署との連携を見る面接官は、過去にどのようなプロジェクトを実行したか、その中の役割は何か、コミュニケーションで気をつけていたことは何か、などを聞きます。

質問はざっくりしたものから、「リモート&時差をどう克服する?」といった具体的な質問までさまざまです。「あなたのWi-Fi環境はどう?」なんて質問もありました。さすがに驚きましたが、きっとどこかのリージョンのメンバーのWi-Fiが弱くて、オンライン会議に支障が出ているんだろうな、と勝手に推測しました。(ビンゴでした)

オンサイトインタビューを行う面々は、さながらプロジェクトチームのようなものです。面接が終わるとチームで話し合い、感想を言い合い、合否を決めます。

ここまでは、外資では割と一般的なプロセスです。

Duolingoではそれに加えて、25分程度のプレゼンテーションを求められました。僕の場合は「日本市場の戦略とマーケティングアイディア」がお題でした。面接官6~8人の前で、リモートでのプレゼンでした。

このプレゼン、最初に聞いたときは「マジかよ」と思いましたが、やってみるとDuolingoへの理解が深まって、すごくよかったです。準備のため、事業について調べれば調べるほど、サービスの持つポテンシャルにワクワクしました。「これはいけるんじゃないか」みたいな手応えも感じてきて、プレゼンをする前から、日本でDuolingoをどうグロースさせようかと、勝手に興奮していました。擬似的とはいえ、プラン作りを楽しめているということは、相性がいいのかもしれない ー 入社前に会社を見極める意味でも有用でした。

企業側から見ても、ミスマッチの防止に役立ちます。この時点で候補者にはある程度のコミットメントが求められるので、スクリーニングになりますし、実践的な視点でRight Personかどうかの見極めが可能になります。また、候補者の志望意向が高まるメリットもあります。

オンサイトインタビューとプレゼンテーション。どちらかだけでも、取り入れてみる価値があると思います。


Think Long Term

さて、ルイスとの1on1に話を戻します。お気づきかと思いますが、Duolingoの採用を一言で表すなら、「忍耐力」です。

ロングタームで物事を考え、Right Personにこだわる。

とはいえ、実際にスピードやグロースよりも「正しい人」を優先するのは簡単ではありません。僕もこれまでスタートアップで働いてきて、スピードの重要性を理解しています。その大切さを知っているからこそ、ルイスの考えの背景を知りたくなりました。

「ロングタームで物事を考えるのはすごく大事だけど、多くのスタートアップにとっては難しいと思う。やっぱりスピードを失うことで、いろいろなものを犠牲にしてしまうから。ルイスにとって、会社をつくる上でもっとも大事なことはなんなの?」

「その質問は、『なにが欲しいか』によるね。例えば、『お金を得たい』それはそれで大事なことだ。会社をBuy Outさせる目的でつくるのと、長く続く目的でつくるのとでは、大事なことは変わってくる。
Duolingoの場合は数十年にわたって長く続ける目的でいる。そのときに、起業家にとってもっとも大切なのは、Think Long Term on Everything You Doなにをするにも長期的に考える)だ。『5年後にどうなるか?この施策は5年後にどんな影響を与えるのか?』と考えることが大事なんだ。多くの起業家は、明日や来週のことにフォーカスしてしまう。僕はいつも彼らにロングタームでものごとを考えるように伝えている」

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組織づくりの第一歩は採用から始まります。採用時にどれだけRight Personにこだわれるか。そしてこだわりきるために、ロングタームでものごとを考えられるかどうか。

なんとなく、これから主流になっていきそうな考えだと思いました。

「Think Long Term」は、「Think Different」に続く新たなパワーワードになりそうな予感がしています。

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