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みちのく東北ひとり旅.5 #宮沢賢治と花巻温泉編

7月8日木曜日、東北ひとり旅5日目。

釜石は前日に引き続き朝から霧雨模様。その日は花巻温泉に行く予定だったけれど、温泉郷行きのシャトルバスが運行しているのが夕方からだったので少し時間に余裕があった。朝ゆっくり起きてホテルで朝食を食べたあとバスで釜石観音に向かった。

コロナ期間中は週末しか営業していなかったけど、施設の外から観音様を一目拝みたいと思いバスで山道を登る。ところが、霧が深すぎて最寄りのバス停を降りても観音様の姿が一切見えない。港からも見えるぐらい大きな観音様だと聞いていたので残念だった。

せっかくなので施設の周辺を散歩していると野生の鹿に遭遇。(見えにくいけれど、写真の右端にいる。)奈良公園以外ではじめて野生の鹿に遭遇したので思わず悲鳴を上げた。釜石大観音の鳥居の前に突如現れたその鹿は、山神の使者のような風格を漂わせていた。

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施設の入口まで行って、なんとかして少しでも観音様を拝めないかしらと思ったもののやっぱり全く何も見えなかった。門の向こうに霧に包まれた大きな観音様がいると思うとちょっぴり怖い気もする。
近くには小さな商店街もあったけど、どこも閑散としていた。

散歩して戻ってきたら別の場所でさっきの鹿にまた遭遇。よく見たらツノに草や小枝が引っかかって頭の上がもじゃもじゃになっている。

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釜石では観光らしいことを何もできなかったけれど、かわいい鹿に会えてラッキーだった。

ホテルに戻ってチェックアウトしたあと、釜石駅で早めのお昼ご飯。JRの待合室の隣にあるラーメン屋さんは安くて美味しい地元のラーメンがさっと食べられるのでおすすめだ。

昼食後は快速はまゆり6号に乗って新花巻へ。自由席なのに立派な車両だったので、指定席券を買わなくて大丈夫かな?とソワソワした。以前関西圏外から来た人に「京阪電車の特急に乗るときに本当に特急券無しで乗ってもいいのか心配になった」と言われたことがあったけど、その人の気持ちがよく分かった。

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全く天気がよくなる気配のない山奥の景色を眺めながら1時間半、電車は新花巻駅に到着。言わずと知れた宮沢賢治のふるさと、花巻。東北新幹線が通る新花巻駅周辺には宮沢賢治童話村や宮沢賢治記念館など、彼にゆかりのある施設がたくさんある。

お気付きの方も多いと思うけれど、実は私は宮沢賢治が大好きで、ハンドルネームは「よだかの星」からとった。鳥の仲間から醜い容姿をからかわれ、鷹からは改名しなければ殺すと脅されて、よだかは兄弟たちに別れを告げたあと泣きながら空高くへとのぼっていく。宮沢賢治作品のなかでもこのお話が一番好きで、つらいときには繰り返し何度も何度も読んでいる。

そんなわけで、花巻には数年前に一度訪れて一泊したことがあった。そのときはたしかお盆休みの頃で、童話村でMIRRORBOWLERの展示をやっていたり賑わっていたのだけれど、今年は7月初旬の平日という微妙なタイミングで来たこともあり閑散としていた。それでも花巻まで来て童話村に行かないのはなんだかもったいない気がしたので、花巻駅に向かいがてらちょっとだけ寄って行くことにした。

童話村まで行くのに市バスに乗ったら童話村と周辺施設の入場無料券をくれた。きょうは時間的に童話村にしか行けないので残念だ。新花巻駅に着いた頃から本降りになりはじめた雨を避けてメイン施設である「賢治の学校」に駆け込むと、雨のなか大荷物だったので受付の方が心配してすごく良くしてくださった。
数年前に来たときも思ったけれど、花巻は宮沢賢治を生んだだけあってのびやかでやさしくてすごくいい町だ。

ほぼ貸切の状態で、賢治の学校と、その外にある展示を全て見てまわる。子どもたちがすし詰め状態になってひとつひとつの展示を覗き込んでいた数年前の景色がすこし恋しい。

童話村を出て、再び市バスに乗って花巻駅へ。最終目的地である花巻温泉郷に行くには花巻駅からバスに乗らなくてはいけない。

温泉街と聞くと、有馬や城崎のように小さな町に有名な温泉がいくつか点在しているのを想像していたけれど、花巻温泉"郷"はスケールが違う。広大な山奥の土地に12の温泉が点在しており、その温泉同士も車で十数分かかるぐらいの間隔があいているのだ。
私は花巻温泉郷について詳しく知らなかったので、宿を決めるときにかなり混乱した。このエリア一帯を楽しもうと思ったらたぶん半月ぐらいは余裕でかかる。

私が今回選んだ宿は宮沢賢治ゆかりの大沢温泉山水閣の自炊部だ。ここは昔から湯治を目的とした人たちが長期滞在するための場所で、旅館内は昔ながらの趣をそのまま残している。

今回のたびをきっかけに湯治についてはじめて知って衝撃を受け、旅行前に湯治に行った人のnoteを読んだり動画を見たりして楽しみにしていた。けれど実際の温泉施設は想像を遥かに超える渋さで、心の中でテンションは爆上がりだった。

お部屋はリーズナブルなのにめちゃくちゃ広かった。しかも女性限定プランで美容液や石鹸をおまけしてくれた。宿のすぐ裏手に大きな川が流れているのですごく涼しいし、部屋のなかは畳の香りと森林の香りがまざりあって、何日間でも滞在できそうなほどの癒しオーラを醸し出している。

ちなみに部屋は内鍵なので、外に出るときは貴重品を必ず持っていかなければならない。外の風を浴びるために部屋の障子を全開にしている人もいるので、部屋の前を通り過ぎるときちょっと気まずいのもご愛嬌だ。

荷物を置いたらすぐに旅館のなかを探検。どこを切り取っても絵になる風景ばかりがひたすら続く。自炊部の裏手には昔の旅館をそのままギャラリーにした施設があって、温泉の中のアート作品を見るのも楽しかった。
ギャラリーと自炊部をつなぐ橋の中腹から景色を見渡すと、自炊部の露天風呂で素っ裸の男性が立っているのが見えて慌てて目を逸らした。露天風呂は混浴だけど、外から丸見えなので基本的には女性専用タイムになるまで女の人たちは入らない。

再び自炊部に戻り、館内の自炊場を見学。調理器具も食器も一通り揃っている。館内には立派な食堂もあるので、私が見た限りでは自炊場を使っている人はほとんどいなかった。でも、今度時間があれば自炊をしながらのんびりここで数日過ごしてみたい。
自炊場の隣には紫陽花が飾られたかわいらしい洗面台も。

旅館の周りも散歩してみようと思ったら、番頭さんに「熊が出るから早く帰って来てくださいね」と言われた。ちょっとビビりながら外に出てみたものの旅館の周りは何もなかったので、旅館の敷地内にある小さな神社にお参りして熊が出る前に旅館に戻った。

一通り探検したあとは温泉へ。
自炊部の宿泊客が入浴できる大浴場は本館のお風呂が一つと、自炊部のお風呂が三つで、そのうち自炊部にある二つは露天風呂だった。
前述した混浴の露天風呂はたしか夜20時からが女性タイムだったので、ご飯を食べる前に他のお風呂に一通り入ってみることにした。

山水閣本館のお風呂はシャンプーなどのアメニティが揃っている新しいお風呂で、自炊部のほうはすべて昔ながらのお風呂だった。どのお風呂も個性があって面白かったけれど、川と森が間近に見える露天風呂は圧巻だった。
特に気に入ったのが山水閣本館の大浴場で、ここのお風呂は半露天風呂といった感じだ。大浴場の正面はガラスのない大きな窓になっていて、その奥にある森の景色がまるで窓枠で切り取られた絵画みたいに見えた。

お風呂からあがったあとは食堂へ。盛岡冷麺を注文して部屋で食べた。辛いのが苦手なので冷麺はいつもキムチ抜きにしてもらう。邪道な食べ方だとは思うけれど私は冷麺を愛してやまない。韓国に行ったらいつも冷麺ばっかり食べている。
ところで、盛岡冷麺やじゃじゃ麺といった韓国ルーツの麺類が岩手のソウルフードとして根付いているのはすごく不思議だ。緯度的にはソウルや平壌と近いけれど、盛岡は山手側なのに、といつも思う。調べてみてもこれといった文献が見当たらないので、詳しい人がいたら教えてほしい。

ご飯を食べてちょっとのんびりしたあと、混浴露天風呂の女性専用タイムがはじまったので再びお風呂へ。
真っ暗な夜の森のなかに浮かぶ露天風呂はすごく荘厳で新鮮だった。

湯上がり後、売店で買ったデザートや青森のお土産をつまみにしてテレビを見ながら晩酌タイム。一人暮らしの我が家にはテレビがないのでホテルや旅館でだらだらテレビを見るだけでもすごく楽しい。

千鳥の番組にコロチキが出てるのを見たあと、畳と森の匂いに包まれながら少しひんやり湿ったお布団にくるまって眠った。今回の旅行中でこの日が一番ぐっすり眠れたような気がする。

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