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ことばの「量」よりも、「穏やかなやり取り」から考えるコミュニケーション支援

*この記事は3220文字あります。個人差はありますが、約5分~8分程で読めると思います

こんにちは。よこはま発達相談室の公認心理師の佐々木です。いつも記事をお読み頂きありがとうございます。今回は「コミュニケーションの支援」をテーマに書いていきたいと思います。前回は、「社会性」をテーマに書きました。ご関心ある方は、そちらもご覧ください。

そもそもコミュニケーションの特徴って?

自閉症スペクトラム(ASD)の方々の特徴の一つに「社会的コミュニケーションの質的特徴」があります。これは狭い意味でのコミュニケーション、つまり言葉を話す/話さない、言葉を知っている/知らないとは別の意味です。”社会的”とついているように、社会的な場面におけるコミュニケーション、つまり他者とのをのやり取りのために用いられるコミュニケーションの特徴を意味しています。

関係機関であるよこはま発達クリニックのHPには次のようにまとめられています。

コミュニケーションには、表出(話すことや表情・仕草などで表現する)と理解(聞くことや相手の表情や仕草をみる)があります。対人場面におけるコミュニケーションは、そうした表出と理解の両方が円滑かつスピーディに行えることで成立します。
ASDの人のコミュニケーション障害はコミュニケーションの発達が遅れが本質ではなく、社会的場面でのコミュニケーションの方法が独特であるのが特徴です。例えば一見流暢に話し、専門用語や四文字熟語などを多用する人でも、意味を十分に理解せずに使用していることがあります。音程や抑揚、早さ、リズムに偏りがあり話し方が単調であったり、リズムが不自然だったり、自分の好みのことを一方的に話し続けることや相手の言葉をそのまま繰り返してしまうといったこともコミュニケーションの方法の偏りです。
また、言葉を字義通りに受け取ってしまう、言葉の裏を読むことが苦手、相手の発した言葉の中で自分の気になった部分のみに着目してしまうといった偏りがあります。

よこはま発達クリニックのHPより

コミュニケーションはなんのため?

コミュニケーションの目的はなんでしょうか?皆さんはなんだと思いますか?
・言葉を話すこと?
・会話をすること?
・やり取りをすること?
など理由はさまざまです。僕らが大切にしていることは、

  • 「自分にとって必要な情報(=知りたい情報、知れると安心・便利な情報)」が理解できる形で手に入ること

  • 自分の伝えたいこと(考えや気持ち)が相手に伝わること

これらが満たされることが、「有意義なコミュニケーション」であり、コミュニケーションを取ろうとする意欲や意義につながります。よく講演会等で話すのですが、「全く話を聞いてくれないし、断定的な指示ばかりする人」と「よく話を聞いてくれて、対策を一緒に考えてくれる人」、皆さんは、どちらとコミュニケーションを取りたいですか?

穏やかな暮らしを支えるコミュニケーション

上述したような「わかった」「伝わった」という経験がコミュニケーションの土台となり、そうした経験が積み重ねていけることで、

  • 安心感や充実感、自己肯定感等が得られること

  • そして、その先に穏やかな暮らしがある

そんな風に考えています。僕らが慣れない相手とのコミュニケーションを強いられる時に緊張したり、不安になったりするのはなぜでしょうか?一方で、「この人といると心地良い」と感じられる相手もいます。両者の違いの一つには、「安心してコミュニケーションが取れること」があるかもしれません。

コミュニケーション支援の方向性は?

”社会性の支援”に関する記事では、以下のようなことを書きました。参考までに記事のリンクも載せておきます。

人付き合いの多さ=その人の価値でもありません。人付き合いの中で大切なことは、より多くの人に関心を持ち、より多くの人と交流することではなく、嫌な思いをしないで過ごせることではないでしょうか。その中で、結果として良い人付き合いができる場合もあります。大切なことは、「多くの交流を持つことは目的ではない」ということです。

社会性の支援で大切な「居る」と「参加」
よこはま発達相談室noteより

コミュニケーション支援も同じです。コミュニケーションの量が多いことに価値があるわけではありません。そうではなくて、「安心してやり取りができること(=質)」に価値があるのだと思います。

コミュニケーションは、緊張や不安を強いられるものではなくて、それぞれの方の穏やかな暮らしを妨げず、穏やかな暮らしの役に立つことが大切です。

このように考えていくと、「ことば(言語)」というのは、こうした目的を達成するための手段の一つでしかないということです。よく経験するのは、これらが逆になってしまうこと、つまり「コミュニケーションをとること」ではなくて、「ことばを話すこと」が目的になってしまう(手段と目的が逆転してしまう)ことです。

よこはま発達相談室の飯塚言語聴覚士が、よくお話しされる言葉を引用します。

・本人も家族も、今もっている力で、無理をしないで/余力をもってコミュニケーションできる仕組みを調えること
・能力/技術向上のための指導も役に立つが、穏やかでおられることを犠牲にしないように

飯塚 直美(言語聴覚士)
よこはま発達相談室

大切なことは、いわゆる”普通の基準”に当てはめるのではなく、”今の力や環境で手に入る手段で”、「伝わる」「伝えられる」というやり取りができることではないでしょうか。そうした目的を達成するためであれば、手段は何も「ことば」に限らなくても良いのではないでしょうか。

言葉よりも目で

とはいえ、自閉症の特徴のある方々であれば、コミュニケーション支援のコツもあります。

多くの場合には、「言葉」よりも「目で見て」が大切です。これは僕らだってそうですが、自閉症の方々は、「耳からの情報の受け取り方に偏りが出やすいこと」「その結果として、情報を受け取り損ねてしまうことがあること」などが知られています。

「できればメモに書いてください」

こんな風に教えてくださる方々もたくさんおります。さらに、コミュニケーション支援で大切なことは、「苦労して伝える/伝わる」よりも「楽に伝える/伝わる」ことです。

それぞれの方にとって、楽に使える手段があるのであれば、それを一緒に探してみることが大切ではないでしょうか?

まとめ

今回は社会的コミュニケーションの特徴と支援の方向性について書いてみました。簡単にまとめると、以下の通りです。

  • 「ことば」を話す/話さない、知っている/知らないという狭い意味ではなく、他者との「やり取り」に特徴がある

  • コミュニケーションの目的と手段を分けて考える

  • 「苦労してコミュニケーション」よりも「楽にコミュニケーション」を

  • そのためのコツは、目で見てわかるコミュニケーション

  • 「ことば」の量ではなくて、「伝わった」「伝えられた」経験が、穏やかな暮らしへつながる

  • それが、次のコミュニケーションへつながる

それでは本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

よこはま発達相談室
佐々木康栄

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