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"よりそう"子育てや支援って?ーその言葉の意味ー

2,563文字あります。個人差はありますが、5分〜7分ほどでお読みいただけると思います。

よこはま発達クリニック・相談室の佐々木です。
今回は「寄り添う子育て、支援とはどういうことなのか?」というテーマで書いていきます。

"よりそって"は慎重に

"子どもによりそって"

こうした言葉はよく見聞きするのではないでしょうか。それは大事な視点だと思います。皆さんは、"よりそう"と聞いたときに、どのようなイメージを持たれますか?

子育てや対応に悩む時には「もっと本人によりそって」と助言されることもあるかもしれません。でも、すでに自分たちなりによりそってもいるし、よりそおうともしていることが多いのではないでしょうか。

そのように頑張っておられるけれども悩むことがあるのです。ですから、そうした中で「もっとよりそって」というのは、さらに追い詰めるリスクもあり、慎重に用いた方が良い言葉ではないでしょうか。

よりそう方向性を

発達障害の方々に関する特徴や支援の原則など、これまでnoteにまとめてきました。前回は「療育」をテーマに書きましたが、その中で下記のように記述しました。

療育の意義は、日々の生活がより安心して、より楽しく、より充実して暮らすためのアプローチ。そのためには、それぞれの方の特性を知ることが大切であり、それが特性を知る意義。

療育ってなんだろう?(よこはま発達相談室のnote)

療育とは、子どもの現場で用いられることが多いのですが、「日々の生活がより安心して、より楽しく、より充実して暮らすためのアプローチ」と言い換えた場合には、どの年代の方にとっても共通の考え方だと思います。

2018年に金沢大学が次のような研究調査を報告しています。

・自閉スペクトラム症児の母親は医療機関で診断を受ける前からすでに健常児の母親と比べて高いストレスと心理的苦痛を抱えていることが明らかとなりました。
・発達障害に関する知識が高いほど,子どもに対するネガティブな感情を持ちにくいことが明らかとなりました。

自閉スペクトラム症の子を持つ母親の気持ちの変化―発達障害の知識が母親の感情に与える影響―
(金沢大学,2018)

これは、診断前から子育てに悩む方が多い一方で、それぞれの方にあったアプローチ(=子育てや関わり方のコツ)を考えるための知識があることで、よい影響があること、そして発達障害とその基本的特徴や方針に対しての知識を共有することの意義が高いことを示唆しています。

つまり、どのようによりそうことが良いのか、"よりそい方の方向性"を共有することが大切であると言えるのではないでしょうか。

どんな知識が必要なのか

ものごとの捉え方を知ろう

例えば、ASDの方々は、認知(ものごとの捉え方や感じ方)にユニークさがあると言われています。それらについては、過去に書かせていただきました(これまで書いてきた記事の中でも、トップ3に入るほど非常に多くの方々に読んで頂いております。ご関心があればご一読ください)。

だとすれば、ASDの方々がどのように世界を、社会を捉えているのか考えてみることがスタートです。もちろん一律ではなく、それぞれの方によっても違いはありますが、「この方の特徴は何だろうか?」「どんな風にものごとを捉えているのだろうか?」ということを知る必要があります。専門用語では、これを「アセスメント」とよんでいます。

周りの環境も知ろう

そして、アセスメントはその方だけではなく、その方の置かれている環境も知る必要があります。その際には、関わる人も大きな環境ですので、周囲がどう関わっているかも意識する必要があります。

ご本人の特性と周囲の環境を把握することで、どこで困っているのか、どこで戸惑っているのかについて、見立てを立てていく、その上でどうするか対応を考えるということが重要です。

例えば、自分たちでは大きな声を出しているつもりはなくても、あるお子さんにとっては苦痛を伴う大きな音に感じてしまうということもあったりします。だとすれば、少し声のトーンを落とすという対応が有効かもしれません。

この場合には下記のように考えられます。
・音に敏感(個人の特性)
・その方にとっては大きな音(声)がある(周囲の環境)
・声のトーンを落とす(具体的な対応)

それ以外にも、子育ての中では、「掃除機やドライヤーの音で泣いてしまう」ということもありますが、それも背景には感覚の敏感さが関係していることもあるので、そうした視点から対応を考えてみることも一つです。

活動の切り替えがうまくいかない時にも、「早く切り替えることを促す」「多少強引に切り替えてもらう」「頑張って切り替えてもらう」ではなくて、どこで困っているのかを考えてみることが役に立つかもしれません。

例えば、
・そもそも切り替えが難しい
・次にいつ遊べるかがわからないので不安
・次の活動よりも今の活動の方が魅力的
なども関係するかもしれません。

だとすると、
・どのくらいで終わりなのか心積もりを持ってもらうために予告する
・次はいつ遊べるのかを、その子がわかる形で提示してみる
・切り替えたくなるような魅力を感じる活動やモノを提示してみる
などの対策が立てられるかもしれません。

お互いに疲弊しすぎないで、傷つくことが減ることをめざす、そうした療育的な考え方をもとに対応を考えることが、"よりそう子育てや支援"ではないでしょうか。

まとめ

今回は「よりそう支援」について書かせていただきました。

  • 「もっとよりそって」という言葉は、かえって親子や支援者を追い詰めることがある

  • よりそうことを求めるのではなく、どのようによりそうことが良いのか、"よりそい方の方向性"を共有することが大切

  • よりそうためには知識が必要

  • そのためには、個人の特性と環境にも目を向けて

今回の記事が、少しでも皆さんの暮らしのヒントになれば幸いです。

よこはま発達相談室
佐々木康栄

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