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病気になる仕組み④ 七情

「病は気から」と言いますが、中医学ではこれが本当のことです。病気は気合いで乗り切れる、という精神論ではなく、五行論によるものです。それをここまで3回に分けて書いてきました。4つ目は最も精神論ぽく見えるお話です。

五行の表を見ると「五志」という欄があります。
木:怒
火:喜
土:思
金:悲、憂
水:恐、驚
これらの感情もエネルギーですので、気の一種です。というより、日常的に使う日本語の「気分」は感情に近いものを意味しますので、そちらで捉えた方が分かりやすいかもしれません。
これらの感情はそれぞれ同じ行に所属する臓腑に影響を及ぼしやすいです。また、ある臓腑がバランスを崩すと同じ行に所属する感情が生まれやすい。という相互関係にあります。1つずつ見ていきましょう。

木 怒 肝
単純な話、イライラしやすい人は肝がバランスを崩しているからかもしれません。逆に、怒ってばかりいると、肝がバランスを崩してしまいます。
怒 ⇄ 肝バランス悪い
という因果関係の往復が、現代日本には溢れてるかもしれません。誰かの行動にいちいちイライラしてしまい、きつい言葉や怨念を撒き散らし、お酒を飲む、というサイクル。お酒は肝に影響しやすい、熱の強い食材です。だから、腹が立った、ストレスMAX!という時にお酒を飲むのは、本当にお勧めできません。お酒は楽しく、適量で。(適量というものは、思ってる量の半分〜1割程度だったりします)
ここで少し考えてみてほしいのが、「怒り」は陰か陽か。どちらだと思いますか?
木は陽の行。肝も陽の臓。だから怒りも陽、という思考でしょうか。
それとも、怒りなんて悪い感情、ネガティブな感情は陰だよ、という意見でしょうか。
正解は陽です。
陰と陽は、善悪ではありません。
そして、陽を選んだ方。文字情報として覚えていくのは深まる時にあまり有効でなくなりますので、続きを読んで頂ければ嬉しいです。
怒りって、物理的物質的に表現すると、どうなりますか?例えば、物理的に、温度とか。
怒りをあらわす慣用句もいくつか思い出してみてください。腹が「立つ」。怒髪「天を衝く」。「カッカする」と表現する時もありますし、漫画などでは頭から蒸気が出てたりしますよね。これらの表現に対して、違和感を抱く人は珍しい。ということは、これらの表現は怒りというものの持つ性質を、きちんと表せているということです。
熱い、上向き、発散
これらは陽の特徴でもあります。だから怒りは陽の感情です。温度や方向性という物理的な感覚を共に感じながら覚えていくと、体の中で起きている事が捉えやすく、転用しやすくなります。是非やってみてください。
そして、「肝のバランスが崩れている」と言いましたが、どのように崩れるのか。これも、怒りが陽であるというところから考えてみましょう。それにより、打ち手が見えてきます。
バランスが崩れるということは、陰陽のバランスのことを指しているのが第一です。
ここでは怒りという陽の感情によって陽よりの臓である肝がバランスを崩す、という事になるので、肝が陽に偏るのだろうと想像できます。
肝が熱を持ってしまって、肝火上炎という状態になるわけです。怒りの炎が肝についてしまった感じですね。肝火上炎したら、肝の瀉火や潜陽をします。
肝の瀉火:あさり、かめ
肝の潜陽:牡蠣の殻、すっぽん
レア食材ばかりで申し訳ないです。
ここまではまず、怒りと肝が陽っぽいという観点から見てきました。もう一つ、肝が熱を持ちイライラに繋がる状態があります。肝は気のポンプです。という事は、肝を気が経由するわけです。肝のところで気が詰まってしまったら、気というエネルギーの塊のせいで発熱してしまう、とイメージが繋がるでしょうか。それで、肝気鬱結による易怒という状態が生まれます。
気が詰まるのは気滞ですが、その中でも特殊な肝気鬱結。これは、肝の持つポンプ機能「疏泄」がうまくいっていないという事になるので、疏肝のものを使います。理気では少しずれてしまいます。
疏肝:ジャスミン
他には、肝に帰経し解鬱の力をもつ玫瑰花(ハマナスの蕾)、同じく肝に帰経し行気するグレープフルーツなどを使ってみるのも良いです。
怒りの感情が強かったり長かったりすると、肝がやられる。起きることは陽に偏った状態。この流れで養生を考える。もしくは、肝が陽側に偏り過ぎてるなと思ったら、怒りを持ってないか自分と向き合うことで解決するかもしれません。怒りの感情が原因で肝が悪くなっているのか、肝がバランスを崩して怒りっぽくなっているのか。どちらにしても薬膳にできることは、肝経に入るものでバランスを戻す事。でも、怒りが消えなければ同じ状態が続きます。自分と向き合う時間を作ることも大事です。
これは他の感情と臓の関係でも言える事です。感情から病が生まれる。心身一如。だからと言って、臓腑のケアをすれば感情の方も治る、とは限らない事は覚えておいていただきたいです。むしろ、こころを癒して体を治すという心身一如が有効かもしれません。

では、次は火の行を一旦飛ばしまして、土の行。

土 思 脾
思うのではなく、思案する、思考するというイメージです。もっと言うと、思い悩む。ここまでくると体に悪そうなのが分かりやすいですね。
同じ状況に出くわして、それによりイライラする人もいれば、思い悩む人もいる。イライラする人は肝のバランスを崩し、思い悩む人は脾や胃がやられる。ストレスを感じた時に、人それぞれ症状の出る場所が違うのは、この1クッションをイメージすると分かりやすいかもしれません。
頭を使いすぎると、というよりは、その思考が堂々巡りをしたり、出口が見えないような圧力を感じてたりなどありますが、とにかく八方塞がりな感じで思考が解決策に繋がらないと、脾胃に来る。周りから見て頭使いすぎでも、本人が楽しいと特に問題はないことが多いです。(ただし、楽しく思考していても、ガス欠起こすパターンはあります。やわるしすの一冊目の本はその経験を元に書いています)
この時、脾はどちらかというと湿気にやられやすく陽虚になりやすいので消化不良や下痢に、胃の方は熱を持ちやすく陰虚になりやすいので胃炎やゲップ、吐き気などが起きやすいです。ストレス性の胃腸症状と言われるものが並びます。
また逆に、元々脾陽虚や脾気虚などの方は、思い悩む事が多く、一見じめっとした性格に見えることもあります。くよくよしやすいのもそうです。思慮深いのと表裏なんです。
モノゴトをしっかり考えすぎてしまう人は知らず知らずのうちに脾が虚してしまっているかもしれませんので、脾を元気にするものを使ってみましょう。しかし、健脾や益胃の中でも消化しにくいものもあるので、出来るだけ軽いもので。脾と胃両方によいものをメインに挙げておきます。
やまぶしたけ、いちじく、砂肝、栗、粟、米、じゃがいも、ささげ

金 悲・憂 肺
悲しいことがあると、肺経に来ます。悲しくて泣く時は涙が出ます。涙は肝の液ですが、五行の流れに沿っているので、これにより排出してしまうのがお勧めです。ひどすぎると肝がやられるので良くないのですが、涙によって、金の感情を木から出す、という方法は知っておかれるとよいと思います。相剋関係は程よい関係です。
肺病にかかっている人は、昔の文学でもどことなく憂いを含んだ様子で書かれています。「斜陽」、「最後の一葉」など、不勉強で多くは出てきませんが、他にも色々。
同じことをされても、Aさんは怒るけど私は涙がこぼれる、という場合、肺が弱いかもしれません。
これ!という食材がないのですが、例えば、牛乳で益肺するなど。ホットミルクは悲しみを癒してくれるイメージですね。また蜂蜜もいいかもしれません。

水 恐・驚 腎
水の行の感情も二つあります。恐れるのと、驚くのです。
同じ行の臓は腎ですが、髪や膀胱と繋がっています。余りの恐怖や驚きに髪が白くなったとか、失禁してしまったとか、という話があります。逆に、腎が弱いと、様々なことにびくびくしたり、勇気を出せないでいるような状況になるかもしれません。

火 喜 心
喜びの感情は体に良いのでは?だって笑いヨガとか、いつもニコニコしてたらいいとか、笑ってたらガンが治るとか言うじゃない?と思うかもしれません。確かに、ここまでに出てきた感情よりはメリットが多そうです。
でも、中医学では、全てにおいて「その存在だけで良いも悪いもない。多過ぎれば体に悪影響。少なすぎても悪影響」と考えてください。
喜びも多過ぎれば悪いのです。(あと、笑っていれば体にいい、というのは「上機嫌」の捉え方だと思いますが、それはまた別の機会に)
喜びの感情は、同じ火のグループの心に影響を与えやすいです。大きすぎる喜びを感じたことがある人(私は例えば、好きな人のライブの当選確定メールが来た時などですが)は、その時心拍数が一気に跳ね上がったり、血圧が上がってるのを感じたり、手先の血管が収縮して冷たくなったり、という体感はありませんでしたか?
「えー!!うそー!!!嬉しい!!!」のその後に。
あれが長引いたり、もし元々心臓や血管、血液凝固系の基礎疾患を持っていたら、と考えると分かりやすいかもしれません。
心がバランスを壊すと、理由もなく笑いだしたりするだけで、嬉しさが増すわけではないのが残念です。しかも、心は精神活動の根本なので、心がバランスを壊したり弱ったりすると、嬉しくもなく悲しくもない、というような状態になりがちです。感情というものが全て、生み出されにくくなります。
もしくは、心の陰が虚するバランスの崩れ方をする場合は、心は陽の陽の臓ですので、火がちりちりと燃えはじめ、こころがそわそわじりじりしたりします。
心は気虚、血虚、陰虚になりますが、食材だと対応できるものが少ないのが困りどころです。しかも、全て「養心安神」として紹介されます。
心気を補う:霊芝、龍眼
心血を補う:牡蠣、なまこ
心陰を補う:ゆり根、蓮の実、小麦
補虚養心:豚の心臓

ここまで、行ごとに紹介しましたが、更にこれらが相生相剋します。
例えば、心気が足りずそわそわするのが続くと脾の気も足りなくなり(相生できない)、そわそわプラス思い悩むことでどんどん自信がなくなっていくこともあります。
また、腹が立つ!と思った時に、その中に少しでも悲しみのかけらがあれば、そちらに意識を向けることで怒りを怒りとして表出せずに済むかもしれません。「あんたのその態度ムカつく!」ではなく「あなたのその態度で、私は悲しくなった」の方が話し合いになりやすく、平和的に解決できそうですよね。

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