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身体という船は、ひとつの心しか乗せられない造りだもの。

「心の疲労の蓄積って見えないよなぁ。」

「ほんとですよね。気付いたら理由のわからない体調不良になってたりしますよね。」

「心と身体って繋がってるよな。」

「…ですね。」

そんな話を初めて会った人としている。
例えばバーカウンターで。
ぽつりぽつりと話しながらいつの間にか深く話をしている。

次にいつ会うのかも分からない人とそんな話になるのだから不思議だ。

夜には、街が森のように深くなる。

夜は、そんな風に同じように見える日常をこっそりと違う場所へと手を引いて行く。

そんな想像をしながらグラスを傾ける。

きっと
次に会う事も分からない出会いだからこそ、そんな話が出来たりもするのだろうなぁ。


生きてきて
失敗した分で自分の事がよくわかったり、頭を使って先を見過ぎちゃったりする。

本当の自分。なんてものは、自分が一番分かっていないような気もする。

だから
なりたい自分を描くのかもしれない。
描く為の絵筆や絵の具がそれまでの自分なのかもしれない。
そんな事を想像する。

もうここでいいよ。終わっていいよ。と、そう思う日もある。
そういう人に、人がしてあげられる事の無さや、己の無力さに打ちひしがれる時もある。

身体という船は、ひとつの心しか乗せられない造りだもの。

だからこそ
心が自分だけでは、創られない事を知る。

哀しみや、淋しさや、孤独を知る度に
いつの間にか大切な人の色が沁みて心が世界になって行く。
例えばそんな風に
人は一人では、生きられない生き物なんだと思う。

「心の疲労の蓄積って見えないよなぁ。」

隣で呟く人の言葉に、頷きながら、おかわりを頼む。
乾杯。と、グラスを合わせる。
今宵何度目の乾杯だろうと、頬を緩ませる。

きっと
そんな風に
独りを生きて行くことが一人を生きて行く事になるのかもしれない。

二人って、きっとそうやって数えられているものなんだよなぁと思う。

お先に、またね。と隣の人は言って、カラランと夜の街に消える。

夜には、街が森のように深くなる。

夜は、そんな風に同じように見える日常をこっそりと違う場所へと手を引いて行く。

チェックを済ませて空を見上げる。

世界はどうしてこんなに美しいんだろう。
そんな事を呟きながらスマホを覗き込む。

パシャリ。
うまく撮れない事が嬉しい。

ハナ歌口遊み夜道を歩く。
こんな時に歌える歌がある世界に。

生まれてきた事を忘れないでいたい。

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